●平成21(行ケ)10042 審決取消請求事件 「高効率熱サイクル装置」

 本日は、『平成21(行ケ)10042 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「高効率熱サイクル装置」平成22年03月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100331104429.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(特許法36条4項1号適用上の違法)の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『ア取消事由1(特許法36条4項1号適用上の違法)の有無

(ア) 本願発明の目的は,前記のとおり,一定の構成を有する熱サイクル装置をもって外部から入力される熱をすべて又はこれに準じる程度の高効率で仕事に変換しようというものである。

 ところで,熱をすべて動力に変換することは不可能であり(これを実現する機関はいわゆる第2種の永久機関である),技術常識である(いわゆる熱力学の第2法則)。なお,原告が,本願発明はカルノーサイクルの変換効率を満足した上でこれを実現するものである旨主張するのも,この技術常識を論理的前提とするものである。


 したがって,このような技術常識に照らせば,一般的な熱サイクル装置をもってしては,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)において熱をすべて動力に変換することが不可能であることは明らかである。


(イ) そこで,本願発明における熱サイクル装置がいかなる特殊な方法により熱をすべて又はこれに準じる程度の高効率で動力に変換することを可能としているのか,本願明細書の記載を基に検討する。


 ・・・省略・・・


 そうすると,上記式36は,前提の異なる装置における具体的数値をそのまま利用する点において妥当ではなく,実験的にみても本願発明の原理が説明されているということはできない。


c 以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明は,外部から入力される熱をすべて又はこれに準じる程度の高効率で仕事に変換する原理に関し,理論的にも実験的にも,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。


(ウ)a 以上に対し原告は,本願発明は,熱を100%の変換効率で動力に変換すること,タービン効率と冷凍機の成績係数により熱効率を数式化・数値化したこと等に技術的特徴があり,これらの点において文献的な利用価値が高く,高度な技術的思想であるから,これにより改良発明の創作が促進され,技術の累積的進歩による産業の発展を図ることが可能となるにもかかわらず,審決が,相対的に利用価値が低い本願発明の実施上の利用に関する記載にのみ36条4項を適用して特許性を否定したことは,「…技術的思想のうち高度のもの」(特許法2条)である発明の「…保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与する」(同1条)ことを目的とする特許法1条,2条に違反する旨主張する。


 しかし,特許法等の定める日本の特許制度は,発明をした者にその実施につき独占的権利を付与する代わりにその内容を社会に公開するというものであるから,その制度の趣旨に照らして考えると,その技術内容は,当該の技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならないものと解されるところ(最高裁昭和52年10月13日第一小法廷判決・民集31巻6号805頁参照),前記のとおり,本願発明は技術常識に照らして実現不可能とされる事項を内容とするにもかかわらず,本願明細書の発明の詳細な説明は,理論的・実験的に,当業者がこれを実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえないのであるから,当業者が本願発明を理論的又は実験的基礎として新たな発明をすることもまた,不可能というべきである。


 したがって,これを前提とする原告の上記主張は採用することができない。


b また原告は,本願発明を基礎に他者によって発明がなされた場合,当該発明は本願発明の技術思想を実用化した点で本願発明を実施上利用したものに当たるところ,文献的に利用価値が高く高度な本願発明が特許を受けることができないのに本願発明の実施上の利用に当たる後の発明が特許を受けることは衡平を欠くとも主張する。


 しかし,いかなる技術思想に特許権を付与するかは特許法等による立法政策の問題であるところ,日本特許法の解釈として上記のとおり原告の技術思想を特許権として保護することはできないのであるから,仮に上記技術思想の範囲内で形式的には本願発明に類する発明が将来なされたとしても,その理由をもって本願発明につき特許権を付与しなければならない理由となるものではない。したがって,原告の上記主張も採用することができない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。