●平成21(行ケ)10229 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

 本日も、昨日に続いて、『平成21(行ケ)10229 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成22年03月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100331104112.pdf)について取り上げます。


 本件では、商標法4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)該当性の有無(取消事由3)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知材高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『4 商標法4条1項16号(商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標)該当性の有無(取消事由3)について


(1) 前記3(1)ア認定のとおり,エチオピア国において産地によってコーヒーの風味が異なることからすると,産地に由来する本件商標をエチオピアのシダモ地方イルガッチェフェ地域産以外のコーヒー,コーヒー豆に使用した場合には,品質誤認を生ずるおそれがあるというべきである。


そして,審決書記載のとおり,特許庁における平成20年10月28日の第1回口頭審理の結果によれば,指定商品中の「コーヒー」は「焙煎後のコーヒー豆及びそれを更に加工した粉状,顆粒状又は液状にした商品(コーヒー製品)」のことであり,「コーヒー豆」は「焙煎前のコーヒー豆」のことである。


 したがって,本件商標は,これをその指定商品中「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」以外の「コーヒー豆,コーヒー」について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法4条1項16号が規定する「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当するとの審決の判断に誤りがあるということはできない。また,このように解することが,前記3(2)エ(ア)bのTRIPs協定の規定にも適合するというべきである。


 なお,前記3(2)イ認定のとおり,本件商標が,その指定商品である「コーヒー,コーヒー豆」について用いられた場合,取引者・需要者は,「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域産」ではなく,単に「エチオピア産の高品質のコーヒー豆又はそれによって製造されたコーヒー」を指すものと認識することがあり得るが,そうであるとしても,本件商標を「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域産以外のコーヒー,コーヒー豆」に使用した場合には,やはり品質誤認を生じるというべきであって,上記判断が左右されることはない。


(2) 原告の主張に対する補足的判断

 原告は,本件商標は,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるもの」という商標法3条2項(特別顕著性)の要件を満たしているとも主張するが,商標法3条2項は,商標法3条1項3号〜5号に該当するとしても商標登録を受けることができる要件であって,品質誤認について定めた商標法4条1項16号に適用されるものではない。


 また,原告は,コーヒー豆,コーヒー及びこれに類似する商品を指定商品とする,日本国外の地名からなる登録商標で,指定商品中に記載されている産地が国家とされている登録例が存すること,及び地域団体商標において,県単位で産地の指定商品としているものがあることを主張するが,これらは,本件とは異なる商標についての登録例であり,上記判断を左右するものではない。


 さらに,原告は,指定商品を狭くしすぎると,みなし侵害を規定する商標法37条による保護を受けられないことがありうるのであり,さらに,そもそも,本件は競業者不存在の事案であるとも主張するが,そのような点は,上記商標法4条1項16号該当性の判断を左右するものではないというべきである。


(3) さらにいうならば,商標法46条1項ただし書は,商標登録の無効審判請求について,「商標登録に係る指定商品又は指定役務が2以上のものについては,指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。」と規定していることからすると,商標登録の無効審判請求は,指定商品又は指定役務ごとにすることができるところ,ここでいう「指定商品又は指定役務」は,出願人が願書で記載した「指定商品又は指定役務」に限られることなく,実質的に解すべきである。


 本件においては,既に述べたとおり,「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」とそれ以外の「コーヒー豆,コーヒー」では,商標法4条1項16号該当性において違いがあり,「指定商品」としても異なると解することができる。


 したがって,「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」に係る部分には無効事由はないが,それ以外の部分には無効事由があるとの判断をすることができるというべきである。』


 と判示されました。