●平成21(行ケ)10229 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

 本日も、昨日に続いて、『平成21(行ケ)10229 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成22年03月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100331104112.pdf)について取り上げます。


 本件では、商標法3条1項3号(産地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)該当性の有無(取消事由1)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知材高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『3 商標法3条1項3号(産地等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標)該当性の有無(取消事由1)について


(1) そこで,進んで,本件商標が商標法3条1項3号に該当するかどうかについて判断する。

 ・・・省略・・・

(2)アところで,商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁[判例時報927号233頁]参照)。


エ被告の主張に対する補足的判断

(ア) 被告は,特許庁の商標審査基準とTRIPs協定について主張するが,これについては,以下のとおり採用することができない。

特許庁の商標審査基準[改訂第8版](甲17の15,乙17の1)は,商標法3条1項3号に関し,「1.商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期を表示する2以上の標章よりなる商標又は役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を表示する2以上の標章よりなる商標は,本号の規定に該当するものとする。」,「3.国家名,著名な地理的名称(行政区画名,旧国名及び外国の地理的名称を含む。),繁華な商店街(外国の著名な繁華街を含む。),地図等は,原則として,商品の産地若しくは販売地又は役務の提供の場所(取引地を含む。)を表示するものとする。」としている。


 特許庁の商標審査基準は,もとより裁判所の判断を拘束するものではないが,上記審査基準は,地理的名称であれば,それのみで直ちに商標法3条1項3号に当たるとしていないことは明らかであり,「イルガッチェフェ」が地理的名称であるからといって,その登録を認めることが上記審査基準に反するということはできない。


b(a) TRIPs協定「第2部知的所有権の取得可能性,範囲及び使用に関する基準」,「第3節地理的表示」,第22条「地理的表示の保護」は,以下のとおり規定している。

「(1)この協定の適用上,『地理的表示』とは,ある商品に関し,その確立した品質,社会的評価その他の特性が当該商品の地理的原産地に主として帰せられる場合において,当該商品が加盟国の領域又はその領域内の地域若しくは地方を原産地とするもの
であることを特定する表示をいう。


(2)地理的表示に関して,加盟国は,利害関係を有する者に対し次の行為を防止するための法的手段を確保する。

(a)商品の特定又は提示において,当該商品の地理的原産地について公衆を誤認させるような方法で,当該商品が真正の原産地以外の地理的区域を原産地とするものであることを表示し又は示唆する手段の使用

(b)1967年のパリ条約第10条の2に規定する不正競争行為を構成する使用

(3)加盟国は,職権により(国内法令により認められる場合に限る。)又は利害関係を有する者の申立てにより,地理的表示を含むか又は地理的表示から構成される商標の登録であって,当該地理的表示に係る領域を原産地としない商品についてのものを拒絶し又は無効とする。ただし,当該加盟国において当該商品に係る商標中に当該地理的表示を使用することが,真正の原産地について公衆を誤認させるような場合に限る。

(4)(1),(2)及び(3)の規定に基づく保護は,地理的表示であって,商品の原産地である領域,地域又は地方を真正に示すが,当該商品が他の領域を原産地とするものであると公衆に誤解させて示すものについて適用することができるものとする。」


(b) 以上のとおり,TRIPs協定は,地理的表示について,地理的表示を含むか又は地理的表示から構成される商標の登録であって,当該地理的表示に係る領域を原産地としない商品についてのものが,真正の原産地について公衆を誤認させるような場合には,拒絶し又は無効とする,と規定する。

 しかし,本件商標について,自他識別力を認め,その指定商品中「エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆,エチオピア国イルガッチェフェ(YIRGACHEFFE)地域で生産されたコーヒー豆を原材料としたコーヒー」に使用した場合に商標法3条1項3号が規定する「商品の産地又は品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当しないと判断することが,上記のTRIPs協定の規定に反するということはできない。


(イ) また,被告は,過去の審決例,審査例,裁判例について主張するが,それらは,本件とは事案が異なるものであり,上記判断を左右するものではない。』


 と判示されました。