●平成21(ワ)7735 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟

 本日は、『平成21(ワ)7735 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟「冷凍システム並びに凝縮用熱交換装置」平成22年02月05日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100325161720.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点1(本件通常実施権許諾契約の有効性)および争点2(不法行為又は債務不履行の成否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳、裁判官 鈴木和典、裁判官 坂本康博)は、

1 争点1(本件通常実施権許諾契約の有効性)について

 上記第2の2(2)のとおり,本件特許権の共有者である被告グリーンクロス及び被告Aは,平成16年6月8日,被告セントラルとの間で,本件専用実施権設定契約を締結したものの,特許原簿に本件専用実施権の設定登録はされていない。そして,特許法98条1項2号は,専用実施権の設定は,「登録しなければ,その効力を生じない」と規定しており,専用実施権の設定は登録が効力発生要件とされているため,設定登録がされなければ専用実施権が有効に成立することはない。

 しかし,このような場合,契約を締結した当事者間では独占的な実施権を付与するという合意は成立しているのであるから,約定の趣旨に沿って,独占的通常実施権(特許権者が他の者に重ねて実施権の許諾をしない旨の特約を付した通常実施権)としての効力は認められると解すべきである。


 そして,本件専用実施権設定契約において,被告グリーンクロス及び被告Aが被告セントラルに対して本件特許について独占的な実施権を許諾する意思を有していたこと,被告セントラルもこれに合意していたことは明らかである(乙1の第1条)から,独占的通常実施権の許諾として有効なものと解され,被告セントラルは,これにより本件特許権について独占的通常実施権を取得したものということができる。


 原告は,特許法上の書面主義の下,専用実施権設定契約には書面の作成が必要であるが,書面が作成されていないため本件専用実施権設定契約は無効であると主張するが,書面の作成を要件とする原告の主張は独自の見解であって採用することができない上,本件専用実施権設定契約については契約書(乙1)が作成されているのであるから,原告の主張はその前提が誤りである。


 また,通常実施権者は,特許権者の承諾がある場合には,通常実施権の再実施権を許諾することができると解すべきである。


 そして,前記第2の2(3)のとおり,被告セントラルは,平成16年6月16日,原告に対し,日本国内におけるスポットクーラーの製造・販売に関し,本件特許権について通常実施権を許諾することを内容とする本件通常実施権許諾契約を締結したことが認められるところ,上記契約書(乙1)によれば,本件専用実施権設定契約において,本件特許権の共有者である被告A及び被告グリーンクロスは,被告セントラルに対し,本件特許権についてその範囲全部にわたり第三者に対する再実施権を許諾したことが認められるから,本件通常実施権許諾契約は,本件特許権についての通常実施権の許諾としての要件に欠けるところはなく,これにより原告は本件特許権について通常実施権を取得したものということができる。


2 争点2(不法行為又は債務不履行の成否)について

(1) 不法行為責任について

 原告は,被告A及び被告グリーンクロスに対しては,被告セントラルに対して専用実施権を設定するに当たり,原告のような第三者に対して無効な通常実施権許諾契約を締結することのないようにする義務を怠った,あるいは,本件専用実施権の設定登録を怠り,原告が有効な通常実施権を取得することを阻害したことが不法行為を構成すると主張し,また,被告セントラルに対しては,本件特許権に関して全くの無権利者であるにもかかわらず,原告と本件通常実施権許諾契約を締結し,原告が有効な通常実施権を取得することを害したことが不法行為を構成すると主張する。

 しかし,本件通常実施権許諾契約により原告が本件特許権について通常実施権を取得したことは上記1に説示したとおりである。したがって,原告の不法行為責任に係る主張は,いずれも前提が誤りであり,採用することができず,被告らに原告主張の不法行為を認めることはできない。


(2) 債務不履行責任について

 原告は,被告セントラルには,本件通常実施権許諾契約に基づき原告に対して有効な通常実施権を付与する義務を怠った債務不履行責任があると主張する。

 しかし,本件通常実施権許諾契約により原告が本件特許権について通常実施権を取得したことは上記のとおりであるから,原告の債務不履行責任に係る主張も前提が誤りであり,採用することができず,被告セントラルに原告主張の債務不履行を認めることはできない。


3 結論

 以上のとおり,被告らに原告主張の不法行為債務不履行を認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。