●平成21(行ケ)10179 審決取消請求事件 特許権「ヒートセル」

 本日は、『平成21(行ケ)10179 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ヒートセル」平成22年03月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100325114230.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、本件補正発明の「ポケット」の技術的意義の解釈と、引用発明1において本件構成を採用することについての阻害要因の有無を参酌しての進歩性の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 浅井憲)は、


『1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について

(1) 本件補正発明の「ポケット」の技術的意義

 本件補正発明の「ポケット」の技術的意義について,原告は,2つの基材の表面を向かい合わせて結合して形成された統一構造の内表面側から外表面側に向かって熱成形等の成形手段によって形成された粒状発熱組成物の粒子を充填することのできるくぼみをいうと主張するのに対し,被告は,広辞苑(乙1)に記載された日常用語としての意味を主張するのみであり,本件補正発明が属する技術分野における技術常識に即して「ポケット」の技術的意義が一義的に明確であると主張するものではなく,その他,請求項1の記載から,本件補正発明の「ポケット」の技術的意義を一義的に明確に理解することはできないから,これを明確にするため,以下,本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,その技術的意義を検討することとする。


ア 本件補正発明の「ポケット」に関し,本件補正明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。


 ・・・省略・・・


(3) 本件審決の認定の当否

 上記(1)及び(2)によると,引用発明1の「偏平状袋」は,本件補正発明の「少なくとも2つの向かい合った表面を有する統一構造」には相当するものの,「ポケット」を備えるものではないから,両発明につき,粒状発熱組成物の粒子が「ポケット」中に組み入れられているとの点で一致するとした本件審決の認定は誤りであるといわなければならない。


(4) 小括

 したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。


2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について


 ・・・省略・・・


(3) 引用発明1において本件構成を採用することについての阻害要因の有無

 前記(1)の引用発明1の目的に照らすと,同発明に前記(2)のような技術的意義を有する本件構成(充填容積のセル容積に対する割合を0.7ないし1.0とし,かつ,当該割合に係る一定値をセル壁への特異な圧力の使用なしにおおむね維持するとの構成)を採用することは,偏平状袋内に低圧状態が生じることに従って偏平状袋に作用する大気圧を積極的に利用するという引用発明1の目的に正面から反するものであり,そのような構成を採用すると,引用発明1の目的を実現することができなくなるものであるから,引用発明1において本件構成を採用することには,積極的な阻害要因があるというべきである。


(4) 本件審決の判断の当否

 以上によると,仮に,本件構成が周知例1,2等に記載された周知の技術手段であったとしても,これを引用発明1に適用することはできないから,引用発明1に周知例1,2等に記載された周知の技術手段を適用し,本件構成を含む相違点1に係る本件補正発明の構成を採用することが当業者において容易に想到し得るものであるとした本件審決の判断は誤りであるといわなければならない。


(5) 小括

 したがって,原告主張の取消事由2も理由がある。


3 結論

 以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。