●平成21(行ケ)10236 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政

 本日は、『平成21(行ケ)10236 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟「pino+/ピノプラス」平成22年02月16日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100217100507.pdf)について取り上げます。


 本件は、異議申し立てによる商標登録取消決定の取消を求めた審決取り消し請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法4条1項15号と商標法4条1項11号における商標の類否についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『1 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに,当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。


 何となれば,同号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ,その趣旨からすれば,企業経営の多角化,同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成,有名ブランドの成立等,企業や市場の変化に応じて,周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには,広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。


 そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知・著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成12年7月11日判決・民集54巻6号1848頁)。


 そこで,本件においても,上記の見解に立って,商標法4条1項15号該当性につき判断することとする。


 なお,商標法4条1項11号については,商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないと解されているところである最高裁昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁参照)(最高裁平成20年9月8日判決・判例時報2021号92頁参照)ので,この観点からも併せて検討することとする。


2 本件商標と引用商標との類似性について

・ ・・省略・・

(2) 以上を前提として,本件商標と引用商標との類否を判断する。

広辞苑(株式会社岩波書店2008年1月11日発行第6版第1刷)によれば,「プラス」の文字は「加えること。足すこと。『+』」を意味する語であり,「+」の記号は,「加号または正の数の符号」として知られている(乙1参照)。


 他方で,「ピノ」及び「ピノプラス」の文言は,上記広辞苑や,株式会社学習研究社2009年1月19日発行「大きな字のカタカナ新語辞典第2版」,株式会社三省堂2005年10月20日第2刷発行「コンサイスカタカナ語辞典第3版」のいずれにも記載されていない(乙2ないし4参照)。


イ 本件商標は,「pino」の大きなローマ字を中核として,その右上に小さな「+」記号を,「pino」の下に「ピノプラス」の小さなカタカナ文字をかっこ書きしてなるものであり(別紙1参照),「ピノプラス」のカタカナ文字は,「pino」のローマ字及び「+」記号の表音を特定したものと解される。


 そして,本件商標において,ローマ字の「pino」部分が占める比率が非常に大きいことからすれば,「pino+」を一体として捉えるよりも,「pino」部分こそが,取引者,需要者に対して出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと解するのが相当であり,しかも,「+」部分は,何かを付加するという補助的な意味を示すもので,同部分自体に,出所識別標識としての称呼,観念は生じにくいといえるため,本件商標につき,「pino」部分を抽出し,同部分こそが要部であると認定することが許容されるばかりか,より実態に即するといえる。


 そうすると,本件商標に接する需要者が「pino」の文字部分に着目して取引に当たる場合も少なくないものと解され,当該文字部分に相応して「ピノ」の称呼をも生ずるものというのが相当である。


 他方,前記(1)のとおり,引用商標は,「PINO」又は「pino」のローマ字と「ピノ」のカタカナからなるものであるから,当該文字に相応して「ピノ」の称呼を生ずることは明らかである。


 以上からすれば,本件商標と引用商標とは,実質的に「ピノ」の称呼を共通にする上,引用商標1及び同2の「PINO」部分についても,大文字,小文字の点を除けば,本件商標の中核部分である「pino」との類似性は高い(仮に引用商標のローマ字部分を「pino」とみれば,本件商標と当該「pino」部分を共通にしている)ため,外観上も,類似性が高いというべきである。


 このほか,「pino」がイタリア語やスペイン語で「松」の意味を有する(甲41参照)としても,前記アのとおり,引用商標の「ピノ」,本件商標の「ピノプラス」ともに,広辞苑カタカナ語辞典に載っていない文言であって,我が国において特段の意味を有する言葉とはいえないため,これらに接した需要者が,「松を含む」との意味合いを想起するものとは認められない。


(3) 以上のとおり,本件商標は,引用商標と「ピノ」の称呼を実質的に共通にし,外観上も,引用商標との類似性が高いことに加え,「ピノ」「ピノプラス」ともに我が国において特段の観念を有しないことを総合的に考慮すると,本件商標と引用商標とは類似する商標であって,その類似性は高いというべきである。


3 引用商標の周知・著名性及び独創性について

・ ・・省略・・

(2) 上記(1) 認定の事実からすれば,森永乳業の使用商品は,日本において,昭和51年(1976年)に発売されて以来,現在まで,テレビ,雑誌等の媒体を利用して宣伝広告され,アイスクリーム分野において,常に高いシェアを有してきたものであって,同商品に継続的に使用されてきた引用商標2や甲10の最上段部分の商標は,本件商標の登録出願時(平成19年5月11日)だけでなく,登録査定時(同年12月3日)及びその後も,一般需要者の間に広く知られていたもので,周知・著名というべきである。


(3) また,前述のとおり,「pino」がイタリア語やスペイン語で「松」を意味するとしても,我が国においては,「pino」や「ピノ」という文言に特段の意味はなく,現時点においても,「pino」が「松」を意味する旨の認識が広まっているとは認められないから,森永乳業の「pino」という表示は,使用商品の販売開始時及び引用商標2の使用開始時である昭和51年,甲10の最上段部分の商標の使用開始時である昭和62年の各時点において,独創性を有していたものといえ,現時点でも独創性を有することに変わりはない。


4 本件商標の指定商品と引用商標を用いた使用商品の関連性等について

・ ・・省略・・

(2) 本件商標の指定商品である清涼飲料と,引用商標が使用された商品であるアイスクリームとは,飲料と冷菓の違いはあるものの,いずれも,主食以外の飲食料品であって,清涼感,冷感や水分補給を主目的として飲食されるなど,その性質・用途・目的において一定程度の関連性があり,同一店舗で扱われることも多く,その需要者も,年齢や性別を問わず,広く消費者一般であって,相当程度共通するものというべきである。


 原告は,これらの点につき,いずれも反論するが,清涼飲料やアイスクリームが,いずれも主食以外の飲食品であって,二次的に栄養摂取の目的があるとしても,主として嗜好のために摂取されることは自明である。また,原告が主張するように,マツモトキヨシビックカメラやインターネット上の店舗が,アイスクリームを扱わず,清涼飲料のみを扱っているとしても,アイスクリームと清涼飲料は,いずれも生鮮食品以外の飲食料品であって,両者を共に扱う店舗(食料品店だけでなく,ドラッグストアも含まれる。)が多いこと自体に変わりはない。


 このほか,一般論としては,コンビニエンスストアやスーパーマーケットで取り扱う商品が非常に広範であるとしても,前述のとおり,アイスクリームと清涼飲料との間には一定程度の関連性があるものであって,本件決定が,商品等の関連性につき無限定に拡大解釈しているものではない。


 また,前記(1) イのとおり,アイスクリームソーダ味の清涼飲料のように,清涼飲料と氷菓が同じ風味を有するものが開発,製品化されていることもまた,アイスクリームと清涼飲料との間に一定程度の関連性があることを示すものである。


 なお,原告は,本件決定が「炭酸水にアイスクリームを加えた飲料の提供」に触れていることに関し,同飲料の提供は「役務」であって「商品」ではない旨主張するが,本件決定による同部分の記載は,アイスクリームと清涼飲料との関連性を示す上での単なる例示であって,「炭酸水にアイスクリームを加えた飲料の提供」が役務であったとしても,アイスクリームと清涼飲料との間に一定程度の関連性があること自体が否定されるものではない。


(3) 原告は,引用商標が用いられた使用商品(アイスクリーム)と本件商標の指定商品である「清涼飲料」とは原材料等が相違する上,本件商標を使用した商品が,松抽出物,コエンザイムQ10等を添加した商品であり,美容と健康を強く指向する商品であって,アイスクリームとは需要者も異なり,保管状況や販売経路も異なる旨主張する。


 しかし,そもそも商標法4条1項15号において,いわゆる「広義の混同を生ずるおそれ」が問題となる場合には,指定商品等間の厳格な類似性までが必須とはいえず,周知・著名表示へのただ乗りや同表示の希釈化のおそれを肯定するだけの商品の関連性があれば足りるものである。


 また,この点を措くとしても,原告商品(清涼飲料)と森永乳業の使用商品(アイスクリーム)とが,原材料,保管状況,販売経路,摂取の目的において相違することは,清涼飲料とアイスクリームとが商品として異なることを示すにすぎず,前述のとおり,両者に一定程度の関連性があることを否定するものではない。


 そして,原告が実際に本件商標を使用している商品についてみても,一般に,飲食料品に健康等に効果のある原材料を加えて,機能や価値を高めた商品作りが行われ,それらの商品が通常の菓子や清涼飲料等の商品と同様に取り扱われていることからすると,松抽出物やコエンザイムQ10等を添加した清涼飲料であっても,アイスクリームと需要者が大きく異なるものとはいえない。


 以上のとおり,清涼飲料とアイスクリームとの関連性に関する原告の主張は,いずれも理由がない。


5 混同を生ずるおそれについて

(1) 本件商標に関するその他の事情について

イ 上記アのとおり,我が国において,「ピノ」をその名称の一部とするレストラン等が存在すること,原告が平成15年1月ころから「pino」という会報誌を発行し始め,平成19年12月ころまでに累計約10万部を販売したこと,原告が,平成20年に,清涼飲料「ピノプラス」につき,モンドセレクションで金賞を受賞したことが,それぞれ認められる。


 しかし,他方で,清涼飲料「ピノプラス」の販売開始は平成19年6月ころで,原告が本件商標につき登録出願した同年5月11日より後であり,その登録査定を受けた同年12月3日時点において,清涼飲料「ピノプラス」は,累計約5万本しか販売されていなかったものである。


 そして,会報誌「pino」が,清涼飲料「ピノプラス」の販売開始時より4年以上前から発行・販売されていることからして,原告が,当初,「pino+」や「ピノプラス」ではなく「pino」という表示を利用する意思を有していたことは明らかであり,「ピノプラス」という表示の利用は事後的なものである。


 また,「pino」と題する会報誌についても,その性質上,同一人に対して複数回送付されるものと解され,幅広く一般消費者に送付されるものとは解されない。


 そして,我が国において,「pino」がイタリア語やスペイン語で「松」を意味することが広く知れ渡っていたことを認めるに足る証拠はなく,逆に,「pino」が「松」を意味する旨の注意書きが多用されていること自体,「pino」が「松」を意味する旨の認識がまだ浸透していないことを示す事実といえる。


 このほか,清涼飲料やアイスクリームは,いずれも比較的安価な飲食料品であるため,その需要者や取引者が通常払う注意力も,相対的に低いものといわざるを得ず,この点も,混同を生ずるおそれを高める要因である。


ウ 原告は,引用商標は森永乳業の「ピノ」という特定のアイスクリームにしか用いられていないため,他の商品に引用商標や本件商標を用いても,混同を生ずるおそれはない旨主張する。


 しかし,過去において,企業がある特定の表示を特定の商品等にのみ使用してきたとしても,将来,その企業がその表示を別の商品に用いる可能性は否定できないものであって,この点は,長引く不況下で,多くの企業が多角経営を迫られている実情からも明らかであり,原告による本件商標の登録・使用は,森永乳業がこれまで高額な費用を投じてきた宣伝活動等により獲得した周知・著名表示(引用商標)にただ乗り(フリーライド)したり,引用商標の価値を希釈化(ダイリューション)するおそれがあるというべきである。


(2) まとめ

 以上のとおり,森永乳業の使用商品「ピノ」は非常に人気のある商品であって,同商品に付された表示「pino」も周知・著名であるのに対し,原告が本件商標を付した清涼飲料「ピノプラス」については,幅広く一般消費者に知れ渡っていると認めるに足りる証拠がないこと,本件商標と引用商標の類似性が高いこと,アイスクリームと清涼飲料の間に一定程度の関連性があり,需要者もある程度共通することからすれば,本件商標と引用商標につき,商標法4条1項15号所定の「混同を生ずるおそれ」があるというべきである。


6 結論

 以上のとおり,本件商標につき商標法4条1項15号の適用が認められるため,同法43条の3第2項に基づきその登録を取り消すべきであり,これと同旨の本件決定に誤りはないから,原告の請求を棄却することとする。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。