●平成19(ワ)2076損害賠償請求事件 特許権「組合せ計量装置」(1)

 本日は、『平成19(ワ)2076 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟「組合せ計量装置」平成22年01月28日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100212102033.pdf)について取り上げます。


 本件は、損害賠償請求事件でその請求が認容された事案です。


 本件では、まず、争点4(本件特許権侵害についての被告の過失の有無)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 北岡裕章、裁判官 山下隼人)は、

『4 争点4(本件特許権侵害についての被告の過失の有無)について


(1) 被告は,第1次訂正及び本件訂正は本件特許権の存続期間満了後になされたものであり,本件特許権の存続期間中は本件訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく本件特許権は全く公示されていない上,登録時の特許請求の範囲の記載に基づく本件特許には無効理由の存在がうかがわれるとして,本件特許権の存続期間中の被告の行為について,特許法103条の過失推定規定は適用されないと主張する。


(2) 特許法103条が,他人の特許権又は専用実施権を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定する旨規定している趣旨は,特許発明の内容が特許公報,特許登録原簿等により公示されており,業として製品の製造販売を行っている業者においてその内容を確認し得ることが保障されているから,業者が製品を製造販売し又は製造方法を使用するなどの際に,公示された特許発明の内容等を確認し,上記行為が他人の特許発明を実施するものであるか否か,すなわち,他人の特許権又は専用実施権を侵害するものでないか否かを慎重に調査すべきことを期待し得るのであり,業者に対してかかる注意義務を課し得ることを基礎として,その調査を怠って漫然と他人の特許発明を実施し,その特許権を侵害することになったときは,通常の不法行為における過失の立証責任を転換し,その業者の過失の存在を推定したものであると解される。


 しかるところ,本件では,本件特許権の存続期間中においては,第1次訂正がされる前の,すなわち本件特許発明の願書に最初に添付した明細書の内容が特許公報等により公示されていたものであるところ,上記存続期間が満了して本件特許権が消滅した後に,第1次訂正及び本件訂正がされたものである。


 したがって,被告が本件特許権を侵害する行為を行っていた期間中に,第1次訂正及び本件訂正に係る明細書(当初明細書等)の内容が公示されていなかったことは,被告が主張するとおりである。


(3) しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。


 訂正審判請求あるいは無効審判における訂正請求は,特許権の消滅後においてもすることができ(特許法126条6項,134条の2第5項),訂正を認める審決が確定したときは,その訂正後における明細書,特許請求の範囲又は図面により特許出願,出願公開,特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定の登録がされたものとみなされる(同法128条,134条の2第5項)。


 そして,特許請求の範囲の訂正は,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものでなければならず(同法126条1項,134条の2第1項),かかる訂正要件を満たす適法な訂正が行われる限り,訂正前の特許発明を実施しない製品等が訂正後の特許発明を実施すると解される余地はない。


 そうすると,業者としては,公示されている訂正前の特許発明の内容等について調査し,自己の製造販売する製品等が同特許発明を実施するものではないことを確認していれば,当然に,訂正後の特許発明を実施するものではないことを確認したことになるから,訂正後の特許発明の内容が公示されていなかったとしても,公示されている訂正前の特許発明の内容を調査することにより訂正後の特許発明を実施することを回避し得ることになる。


 したがって,訂正後の特許発明を実施する行為が,その公示される前にされたものであったとしても,その注意義務を軽減する理由はない。以上からすれば,訂正後の特許権を侵害した者は,訂正がなされる前の侵害行為についても特許法103条により過失が推定されると解すべきである。


 この点,被告は,訂正前の特許に無効理由の存在がうかがわれる場合には特許法103条の過失推定規定は適用されないとも主張する。


 しかし,訂正前の特許請求の範囲の記載に基づく特許に無効理由があったとしても,訂正審判請求あるいは無効審判における訂正請求が行われて無効理由が回避される可能性があり,このことは,容易に予見し得るというべきである。


 したがって,特許法103条により過失を推定するためには,自らの行為が特許発明の技術的範囲に属する実施行為であることの予見可能性があれば足りると解すべきであって,訂正前の特許に無効理由があったとしても,それだけで特許法103条による過失の推定が覆ると解することはできない(なお,被告は,本件訂正前の特許に無効理由があり,本件特許が特許無効審判により無効とされるべき旨を具体的に主張立証しているものではない。)。


 ・・・省略・・・

 
 したがって,被告物件が本件訂正後の特許請求の範囲に記載された特許発明の技術的範囲に属する以上,当然に第1次訂正及び本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づく特許発明の技術的範囲にも属することになるから,被告が本件訂正後の特許発明が公示されていなかった時期に被告物件を製造販売したことをもって,特許法103条による過失の推定を覆滅するに足りる事情ということはできず,他に上記推定を覆滅するに足りる事情についての主張立証はない。


5 侵害論のまとめ

 以上に検討したところからすれば,被告による被告物件の製造販売は原告の有する本件特許権を侵害した不法行為に該当すると認められるから,被告は,原告に対し,本件特許権侵害により原告が受けた損害を賠償する義務を負う。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。