●平成21(行ケ)10113 特許権 行政訴訟「X線異物検査装置」

 本日は、『平成21(行ケ)10113 特許権 行政訴訟「X線異物検査装置」平成22年02月03日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100203154221.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由1(本件発明の要旨認定の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 杜下弘記)は、


『1 取消事由1(本件発明の要旨認定の誤り)について

(1) 本件審決による本件発明の要旨認定

 本件審決は,本件発明の要旨について,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づき,上記第2の2のとおり認定しているところ,同記載中には,X線異物検査装置が備える「片持ちフレーム」自体が具体的にどのように支持されているかについて限定する記載はない。


 他方,本件審決は,本件発明と引用発明1の対比を行う前提として,本件発明は,「X線異物検査装置」本体の支持構造体に支持された単一の「片持ちフレーム」に「搬送機構及びX線ラインセンサ」が支持されている発明と,「X線異物検査装置」本体の支持構造体に別々に支持された「片持ちフレーム」に,「搬送機構」と「X線ラインセンサ」が,それぞれ支持されている発明とを包含していると解釈した上,本件フレームは,「X線異物検査装置」本体の支持構造体に支持された「片持ちフレーム」であると認定していることは,上記第2の3(2)のとおりである。


 そして,本件審決は,本件発明と引用発明1との相違点1として,「搬送機構…が,本件発明では「一方の端部を自由端とし他方の端部を支持端として」いる「片持ちフレーム」により支持されているのに対して,引用発明1では,…第1ベルトコンベア12と第2ベルトコンベア14は,先端部にそれぞれキャスタ12が取り付けられた4本の脚を有するコンベア台11に配置されている」と認定しているが,その認定は,本件発明の「片持ちフレーム」が「X線異物検査装置本体の支持構造体に支持されているもの」であるとの本件審決の上記解釈を前提としてはじめて認定することができるものであり,また,本件発明と引用発明2との相違点Aとして,「搬送機構…が,本件発明では「一方の端部を自由端とし他方の端部を支持端として」いる「片持ちフレーム」により支持されているのに対し,引用発明2では,…搬送機構は,下端に車輪を有した4つの支柱からなる台上に配置され,該搬送機構の後側は2本の支柱にて支持され,正面側は2本の支柱に蝶番で取り付けられたブラケットと解除可能となるよう係止されている」と認定しているが,その認定についても同様である。


 そうすると,本件審決は,本件発明に係る本件フレームについて,「X線異物検査装置本体の支持構造体に支持されているもの」であるとの特定事項を付加した上,本件発明の要旨認定を行ったものというほかはない。

(2) 本件についての検討

ア 特許請求の範囲の記載

 本件発明を特定する本件明細書の特許請求の範囲の記載は,上記第2の2のとおりであり,その記載から明らかなとおり,本件発明はX線異物検査装置についての発明であって,少なくとも搬送機構及びラインセンサを支持する「片持ちフレーム」と漏洩X線を防止するための特定の構造を有する「カバー」とを備えることを特徴とするものであるが,上記特許請求の範囲の記載によると,本件フレームがX線異物検査装置に設置されるものであること自体は自明である。


 この点について,被告は,特許請求の範囲の記載の解釈として,本件フレームが支持されている「X線異物検査装置の本体の支持構造体」であることまで特定されるように主張するが,同記載から理解することができるのは,上記の限度であって,本件フレームがX線異物検査装置のどこにどのように設置されるものであるかという「片持ちフレーム」自体の支持構造については,何ら記載がないから,被告の主張を採用することはできない。


イ 当業者の技術常識

 甲1,2及び16によると,本件特許出願当時において,X線による検査装置の機構を支持するフレームとしては,後記ウ(ア)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明において従来技術として挙げられているように,キャスター付の4本脚によって支持されて引き出し可能となっているもののほか,一体であっても後壁面の縦方向のレールに上下動可能に片持ち支持されたフレームを採用したものが存在していたことを考慮すると,X線異物検査装置の機構を支持するフレーム自体の支持構造に関して,本件特許出願時において確立した技術常識が存在していたとは認められない。

 そうすると,特許請求の範囲の記載に基づいて,本件フレームの支持構造について何らかの限定を加えて解釈することはできない。


ウ発明の詳細な説明の記載

(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の「片持ちフレーム」の構造に関連する次の各記載がある。


 ・・・省略・・・


(イ) 上記(ア)の各記載によると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に関し,以下のようにいうことができる。


 本件発明における「片持ちフレーム」については,特許請求の範囲の記載における記載のとおり,「一方の端部を自由端とし他方の端部を支持端と」するものであるというほかに,発明の詳細な説明の記載中において,その構造自体が更に一般的に限定されたものであることを前提とする記載はない。


 また,発明の実施の態様として記載された部分において,「基部上に垂直に立てた垂直支持部と,該垂直支持部から横方向に延びた水平支持部を備えた構成とすることができ」ると記載されるものの,本件発明の「片持ちフレーム」自体の支持構造がこのような構成に限定される趣旨の記載は存在しない。


 なお,「基部」については,発明の実施の態様についての概略斜視図及び断面図に従って,その構造を説明する部分において「フレーム10は,最下部の支持部分を構成する基部11と,該基部11上に立てられる垂直支持部12と,該垂直支持部12から水平方向に取り付けられる水平支持部13,15を備える」と説明されているが,この説明が本件発明の「片持ちフレーム」の構成を限定する趣旨のものでないことは明らかである。


 本件発明において「片持ちフレーム」が採用されたのは,従来のX線異物検査装置において検査機構を支持する構成が,複数本の支持脚によって支持するものであったため,X線異物検査装置の内部に設けられた機構の補修や部品交換等のメンテナンスが困難であったという課題を解決するためである。


 そして,本件発明においては,「片持ちフレーム」の採用によって,X線異物検査装置の側面部分や底面部分に,支持のための脚部材が存在しない構成とすることができるため,支持脚に干渉することなく工具や交換部品をX線異物検査装置内に挿入することができ,メンテナンスを容易に行うことができるという効果を奏するところ,メンテナンスの内容として挙げられているのは,「搬送用のベルトやX線検出器等の補修,清掃,あるいは部品交換等」である。


(ウ) 上記(イ)によると,本件発明の「片持ちフレーム」は,少なくとも搬送機構及びラインセンサの下部に工具や交換部品を挿入することのできる空間を作出し,メンテナンスを容易にするために採用された構成であり,本件発明の効果は,「一方の端部を自由端とし他方の端部を支持端と…する」という「片持ちフレーム」の構造そのものによって導かれ,「片持ちフレーム」自体の支持構造の如何を問わないものであるということができる。


 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明における記載を検討しても,本件発明に係る特許請求の範囲の記載における「片持ちフレーム」の文言について,それ自体の支持構造に関する何らかの限定を加えて解釈する契機はないといわざるを得ない。


(3) 小括

 以上によると,本件フレームが「X線異物検査装置本体の支持構造体に支持されているもの」に限定されることを前提とする本件審決による発明の要旨認定は誤りであるというべきである。


 そうすると,本件審決は,上記1(1)のとおりの誤った発明の要旨認定を前提として,本件発明と引用発明及び実施発明との対比・判断を行ったものであり,本件審決が,本件発明に係る特許を無効とすることができないとした理由は,上記第2の3(1)のとおり,相違点1の部分に係る構成について当業者が容易に想到し得たということができないというもの,及び,同相違点Aの部分が実質的な相違点であり,かつ,相違点Aに係る構成について,相違点1の上記部分と同様の理由により,当業者が容易に想到し得たということができないというものであって,これらに尽きるのであるから,本件審決の発明の要旨認定の誤りが,審決の結論に影響を与えることは明白である。


2 結論

 以上の次第であるから,その他の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。