●平成21(行ケ)10270 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10270 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「BOUTIQUE 9」 平成22年01月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100128104639.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法3条1項6号の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知材高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 杜下弘記)は、

『1 本願商標の商標法3条1項6号該当性

(1) 商標法3条1項6号の趣旨

 商標法は,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法1条),商標の本質は,自己の業務に係る商品又は役務と識別するための標識として機能することにあり,この自他商品の識別標識としての機能から,出所表示機能,品質保証機能及び広告宣伝機能等が生じるものである。


 同法3条1項6号が,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を商標登録の要件を欠くと規定するのは,同項1号ないし5号に例示されるような,識別力のない商標は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,自他商品の識別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。


(2) 本願商標の構成

 本願商標は,標準文字により,欧文字「BOUTIQUE」及び数字「9」を1文字分のスペースを介して横書きしてなるものである。このように,本願商標の,「BOUTIQUE」と「9」との間には,1文字分のスペースがあり,欧文字と数字という異なる種類の文字であるから,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものということはできない。


 本願商標のうち,「BOUTIQUE」(boutique)は,「店,小売店」等を意味するフランス語であり,我が国でも,「ブティック」が「(高級ブランドの)既製服の店」を意味する普通名詞として,辞書等に記載されている(乙2〜9)。そして,「BOUTIQUE」,「ブティック」は,高級ブランドの既製服や小物等を販売する専門店の表示の一部として,日本全国で多数使用され,「BOUTIQUE(ブティック)」においては,既製服のみならず,香水,スカーフ,アクセサリー,バッグ,シューズ,靴下,ベルト,帽子,時計等の商品が販売されている(乙8,10〜48,弁論の全趣旨)また,本願商標のうち,「9」は,数字であり,わずか1文字からなる。


(3) 商標法3条1項6号該当性

ア このように,本願商標は,高級ブランドの既製服の店を表す普通名詞として認識される「BOUTIQUE」の欧文字にありふれた数字「9」を併せて,その間に1文字分のスペースを空けて,標準文字で表記したものである。


 本願商標の指定商品は,前記第2の1(1)のとおりであり,その多くが「BOUTIQUE(ブティック)」において販売されている商品であるから,「BOUTIQUE」をその指定商品に使用したとしても,この部分から自他商品の識別標識としての称呼,観念が生じるとは認め難い。


 他方,1文字の数字の「9」は,それのみでは,「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章」(商標法3条1項5号参照)といわざるを得ないものである。


 そうすると,本願商標を「BOUTIQUE」,「ブティック」において販売されている商品に使用する場合に,自他商品の識別標識としての機能を有するものとはいえない。


イ 以上のとおり,本願商標「BOUTIQUE 9」をその指定商品に使用する場合には,自他商品の識別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないものであるから,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」として,商標法3条1項6号に該当する。


(4) 原告の主張について

ア 原告は,商品の販売者が,その商品がブティックで販売された事実を需要者に伝えるために,商品に「BOUTIQUE」の語を使用することは稀であるから,需要者が,「BOUTIQUE」の語を,販売場所表示であると確信することを妨げる要因となる旨主張する。


 しかしながら,「BOUTIQUE(ブティック)」において販売されている商品に,これらの商品の専門店を表す普通名詞として認識される「BOUTIQUE」を使用した場合に,それのみでは,「その商品の…販売地…を普通に用いられる方法で表示する標章」(商標法3条1項3号参照)といわざるを得ず,それが自他商品の識別標識としての機能を有するということはできない。


イ 原告は,商品の販売者が,数字の「9」を,他の数字や欧文字と組み合わせることなく単独で,品番,規格,型番,サイズとして商品に表示することは稀であるから,需要者が,数字の「9」を品番であると確信することを妨げる要因となる旨主張する。


 本件審決が認定したように,数字の「9」が品番,規格,型番を表示するために用いられるものであるか否かにかかわらず,そもそも,単に,わずか1文字の数字の「9」は,「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章」(商標法3条1項5号参照)といわざるを得ないものであり,自他商品の識別標識としての機能を有するということはできない。


ウ原告は,商品の販売者が,「BOUTIQUE」及び「9」を,商品の販売場所及び品番等を表示する目的で,同書同大に併記することは,なおさら稀であるから,本願商標に接した需要者が,本願商標を,販売場所及び品番等の記述的な表示の併記であると理解するとは考え難いと主張する。


 しかしながら,本願商標の指定商品に関して自他商品の識別標識としての称呼,観念が生じるとは認め難い「BOUTIQUE」の欧文字と,極めて簡単でありふれた標章のみからなる数字の「9」とを表記しているにすぎないのであって,そのことによって,自他商品の識別標識としての機能を有するとまでいうことはできない。


エ 原告は,需要者が,本願商標を,その構成全体をもって一体不可分の造語商標であると理解することが自然であり,実際に使用している半角フォントの態様で判断されるべきである旨主張する。


 しかしながら,本願商標の,「BOUTIQUE」と「9」との間には,1文字分のスペースがあるだけでなく,両者は欧文字と数字という異なる種類の文字であるから,これを一体不可分の造語商標と理解することは困難であるといわざるを得ない。なお,仮に,これを一体のものとみたとしても,本願商標の指定商品に関して自他商品の識別標識としての称呼,観念が生じるとは認め難い「BOUTIQUE」の欧文字の後に,極めて簡単でありふれた標章のみからなる1文字の数字である「9」を表記したからといって,自他商品の識別標識としての機能を有することにはならない。


 また,実際に使用している態様が異なることは原告提出の証拠から認め得るとしても,その態様で登録出願したのであれば格別,本願商標の態様はそのようなものではなく,また,後記オの我が国における本願商標の使用状況にかんがみても,指定商品のうちのわずか「婦人靴」のみについて,いまだ識別力を獲得するに十分な売上げがされているといい得ない状態で,半角フォントの態様で判断することはできない。


オ原告は,国内外の取引者,需要者が,実際に,本願商標を自他商品の識別標識として使用し,認識している旨主張する。


証拠(甲44,48,49,51,52,55,56,弁論の全趣旨)によれば,我が国において,原告の販売代理店による婦人靴売場に「BOUTIQUE9」(「9」の文字の書体がイタリック体に近いものもある。)との表示がされ,靴の中敷や包装箱の表面にも同様の表示がされていること,靴裏には,「Boutique9」の表示がされているものもあること,インターネット上には,靴の並行輸入業者により,同様の表示がされているものがあることが認められる。


しかしながら,上記証拠において使用されているのは本願商標とは書体やスペースの有無といった点で同一のものではないし,指定商品のうちわずかに「婦人靴」のみについてわずか2年間の販売をしたというにすぎない。しかも,原告が自認する日本における「BOUTIQUE 9」ブランドの靴の出荷数は,平成19年12月から平成20年12月までが627足,平成21年1月から10月までが1467足であって,この程度の出荷数をもって,本願商標が我が国において自他商品の識別標識として使用されていると認めるに足りない。また,並行輸入業者の存在をもって,自他商品の識別標識としての機能があるとはいい難い。

カ 原告は,多くの外国で商標登録を認められ又は登録査定を得ている旨主張し,米国・欧州共同体・カナダ等で登録されている(甲58〜64)。


 原告の国際取引の観点からの主張は,理解し得ないではない部分もあるが,国によって識別力の有無が相違する可能性は否定できないし,出願に係る商標の構成や態様,指定商品,使用状況等が異なることもあり,外国において登録がされているからといって,直ちに我が国における登録が認められるべきであることにはならない。


 そして,本願商標のように,標準文字をもって「BOUTIQUE」と「9」との間に全角で1文字分のスペースを空けた態様で,しかも,指定商品の多くが我が国の「BOUTIQUE」で販売されている商品であり,指定商品のうち「婦人靴」のみについて我が国で販売されているとしてもいまだ識別力を獲得するに十分な売上げがされているといい得ない状態で出願した以上,前記判断を左右するものではない。


2 結論

 以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。