●平成20(ワ)14681 補償金請求事件 特許権 民事訴訟

 本日は、『平成20(ワ)14681 補償金請求事件 特許権 民事訴訟 平成22年01月29日 東京地方裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100204160932.pdf)について取り上げます。


 本件は、職務発明の対価の補償金請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(裁判長裁判官 岡本岳、裁判官 中村恭、裁判官 鈴木和典)は。、


『1 旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」について

 旧35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」については,特許を受ける権利が,将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることのできる独占的実施による利益をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発明の独占的実施による利益を得た後の時点において,その独占的実施による利益の実績をみて法的独占権に由来する利益の額を事後的に認定することも,同条項の文言解釈として許容されると解される。


 また,使用者等は,職務発明について特許を受ける権利又は特許権を承継することがなくても当該発明について同条1項が規定する通常実施権を有することにかんがみれば,同条4項にいう「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,自己実施の場合には,単に使用者が有する通常実施権(法定通常実施権)に基づいて得るべき利益をいうものではなく,これを超えて,使用者が従業員等から特許を受ける権利を承継し,その結果特許を受けて発明の実施を排他的に独占し又は独占し得ることによって得られる独占の利益と解すべきである。


 そして,ここでいう「独占の利益」とは,自己実施の場合には,他者に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて使用者が上げた利益,すなわち,他者に対する禁止権の効果として,他者に許諾していた場合に予想される売上高と比較してこれを上回る売上高(以下,この差額を「超過売上高」という。)を得たことに基づく利益(以下「超過利益」という。)が,これに該当するものである。


 この超過利益については,超過売上高に対する利益率なるものが認定困難である一方,その額は,仮に本件特許発明を他者に実施許諾した場合に第三者が当該超過売上高の売上げを得たと仮定した場合に得られる実施料相当額を下回るものではないと考えられることからすると,超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法によることが許されるものと解される。


2 争点(1)(超過売上高)について


・・・省略・・・


イ「代替技術」に関して

(ア) 原告は,本件発明は専用ハードウェアを利用しなくてもよい点で有利である旨を主張するが,自社実施形態である本件サービスの実施に当たっては,上記の点は格別有利に働くものとは認められず,原告の上記主張は採用することができない。


(イ) 原告は,被告は競合他者からライセンスを受けられる立場にはなかった旨を主張するが,被告は職務発明である本件発明を無償で実施でき,それを妨げる理由はないのであるから,被告が競合他者からライセンスを受ける必要性は,いずれにしても生じ得ない。原告の上記主張は前提を誤るものであり失当である。


(ウ) 原告は,乙29?〜?発明のいずれもが本件発明と全くつながりがない旨を主張するが,その主張が採用することのできないものであることは,前記(2)に認定のとおりである。


ウ「本件サービスへの寄与」に関して
(ア) 原告は,本件サービスはOCRを利用することによって初めて成り立つ旨を主張する。


 しかしながら,被告はいずれにしても職務発明である本件発明を実施できるのであって,その実施による効率化は,本件権利の譲渡を受けて実施する場合と法定通常実施権に基づき実施する場合とで何らの差異を見いだすことができない。


 原告の上記主張は,本件発明を実施していない場合と本件発明を実施している場合との対比を述べるのみであり,本件発明の譲渡を受けて実施する場合と法定通常実施権に基づき実施する場合においていかなる差異が生じるかを述べているものではない。原告の主張は,前提を誤るものであって,採用することができない。


(イ) 原告は,本件サービスは,本件発明を除けば従来技術の単なる組合せにすぎない旨を主張するが,仮にそうであるとしても,本件発明についてもまた代替技術が存する以上,本件サービスの性質が本件発明の排他的実施による利益を基礎付けるものではない。原告の主張は,採用することができない。


エ「排他的実施」について

 原告の主張の趣旨は,必ずしも明らかではないが,いずれにしても,本件サービス実施時に本件発明と同等以上の代替技術が存していた以上,競合他者はその技術を使用して市場に参入すればよく,被告が本件発明を排他的に実施していたことによって超過売上高を得たという関係を認めることができないことは,上記(5)のとおりであるから,原告の上記主張は,採用することができない。


(7) まとめ

 以上の次第であり,被告に超過売上高があったことを認めることはできないから,前記1に説示したところに照らし本件発明について旧35条に基づく相当対価を認めることはできないというべきである。


3 結論

 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました


 詳細は、本判決文を参照してください。