●平成20(ワ)14302等 差止等請求事件「マンホール蓋用受枠」(1)

 本日は、『平成20(ワ)14302等 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「マンホール蓋用受枠」平成22年01月21日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100126150415.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠権および特許権に基づき差止請求等を請求した侵害事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、争点A−1(被告意匠Aは,本件登録意匠Aと類似するか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 達野ゆき、裁判官 北岡裕章)は、


『1 争点A−1(被告意匠Aは,本件登録意匠Aと類似するか)について

 ・・・省略・・・


(3) 本件登録意匠Aの要部

 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。


 したがって,その判断にあたっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要者の注意を惹き付ける部分を要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。


 以下,本件登録意匠Aの要部を検討する。


ア マンホール蓋用受枠の性質,用途,使用態様

 マンホール蓋用受枠は,マンホールの蓋を内周面で支える受枠であり,自治体等が購入し,地面に設置するものである。マンホールは,通常は蓋が閉じられているため,受枠が設置された状態において,その内周面が人の目に触れることはない。内周面が人の目に触れるのは,購入検討時,設置工事時,マンホール使用のため蓋を外したときなどである。そして,マンホール蓋用受枠は相当の重量を有するが(甲D2),設置前であれば,需要者である自治体の担当者や工事業者(需要者については争いがない。)は,これを任意の角度から観察できる。


イ 公知意匠引用意匠A

 マンホール蓋用受枠に係る公知意匠としては,引用意匠Aが存在する(乙A1)。引用意匠Aは,右図のとおり,内周部において,内方下方向へ傾斜した突設部を形成し,さらに突設部と外周壁との隙間に水平部を設けたものであるが,突設部の下端には内鍔が形成されている。


ウ 要部

 前記イによれば,本件登録意匠Aの構成態様のうち,内周部に突設部を設け,突設部と外周壁との隙間に水平部を設けることは,本件登録意匠Aの出願当時において公知であったと認められる。


 そして,前記(1),同アによれば,需要者が本件登録意匠Aの実施品を観察する場合,上方からは,内方へせり出した(傾斜のある)突設部や内鍔を目にすることがなく,突設部が真下に落ち込み,突設部内周面によって形成される,内鍔などのない,真円柱を目にすることになるし,下方からは,内鍔で形成された幅広の底面を目にすることがなく,細幅の突設部先端を目にすることになる。そのため,本件登録意匠Aの突設部の態様は,需要者に対し,全体的にすっきりとした印象を与えるといえる。


 一方,突設部の外周面や,突設部と外周壁との間の水平部分は,受枠の下側から見ても,目立つ箇所とはいえず,その傾斜角度や突設部の厚み(厚みは突設部の内周面と外周面との関係によって決せられる。)を含め,需要者の注意を惹き付けるとは認められない。


 したがって,内鍔などがなく,円柱状となっている突設部の内周面及び下端部(底面)が,本件登録意匠Aの要部であると認められる。


(4) 対比

 前記(3)ウの要部について,本件登録意匠Aと被告意匠Aとを対比すると次の共通点,差異点を見出すことができる。


ア共通点

 突設部に内鍔がなく,突設部の下端部(底面)は水平であり,下端部(突設部底面)と内周面との境界,及び下端部(突設部底面)と外周面との境界はいずれも半径の小さいアール状である。


イ差異点

 本件登録意匠Aでは,突設部が垂直方向に形成されているため突設部の内周側に円柱が形成されるが,被告意匠Aでは,突設部の内周側は,その上半分がテーパー状であり,その下半分が円柱状である。


(5) 類否判断

ア 前記(4)アのとおり,本件登録意匠Aと被告意匠Aは,いずれも突設部内周側に内鍔を有しておらず,下端部と内周面や外周面との境界がいずれも半径の小さいアール状である点で共通している。


イ しかしながら,本件登録意匠Aは,前記(1),(3)ウのとおり,本件登録意匠Aの実施品を上方から観察した場合,突設部が真下に落ち込み,突設部内周面でできる真円柱が見えるのに対し,被告意匠Aでは,前記(2)のとおり,需要者が,被告製品Aを上方から観察する際,突設部内周面でできる壁面は,上半分がテーパー状で,下半分が円柱状の二段に分かれている態様を目にすることになり,需要者に,あたかも突設部全体が内鍔を構成しているような印象を与える(甲A6,甲D1,乙D4〜6)。


 上記のとおり,差異点により,被告意匠Aは,本件登録意匠Aと異なる印象を与えるものである。


 なお,被告意匠Aは,下方から観察する場合は,本件登録意匠Aと印象が大きく異ならないが,マンホール蓋用受枠に関する意匠である以上,上方から観察して得られる印象は,下方から観察して得られる印象と比べ,看者に与える印象の度合いは大きいし,下端部が水平で,突設部内周面との境界や,外周面との境界がいずれも小さいアール状であることは特徴的な形状ともいえず,上述した印象の違いを減殺させるものではない。


(6) 結論

 以上のとおり,両意匠は,要部である突設部の具体的態様において差異点を有しているところ,この差異点から受ける印象は,共通点から受ける印象を凌駕しており,両意匠が視覚を通じて起こさせる全体としての美感を異にしているということができる。


 被告意匠Aは,本件登録意匠Aと類似するとは認められない。』


 と判示されました。


 明日へ続きます。