●平成21(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10134 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「抗酸化作用を有する組成物からなる抗酸化剤」平成22年01月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100121162846.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、記載不備(明細書のサポート要件違反)についての判断等が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 浅井憲)は、


『(2) 記載不備(明細書のサポート要件違反)との判断について


ア 本件審決は,新請求項1には「活性酸素によって誘発される生活習慣病に対して有効であるヒドロキシラジカル消去剤」が記載されているが,本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する効果の有無及び当該効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はないこと,また,疾病(の予防)に対する効果の有無を論じる場合,生体に対する薬理的又は臨床的な検証を要するが,同検証に係る記載又はそれを示唆する記載もないことを挙げ,本件補正発明が明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるということができないとした。


イ しかしながら,特許請求の範囲が,特許法36条6項1号に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。


ウそこで,上記見地から検討すると,本願明細書(甲5,8,9,12,1


 ・・・省略・・・


エまた,特開平6−227977号公報(甲22)【0021】,特許第3031844号公報(特開平8−231953号)(甲23)【0003】及び「MINOPHAGEN MEDICAL REVIEW 第46巻2号(平成13年3月20日発行)」(甲24)46頁に記載されているように,ヒドロキシラジカル消去活性を有する物質が種々の生活習慣病にかかわる疾患の予防に有効であることが,本件出願当時において当業者にとって公知の知見であったことが認められる。


オ 以上によると,上記ウのとおり,当業者が,ヒドロキシラジカル消去活性の大小や本願発明の抗酸化作用を有する組成物が強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有して種々の生活習慣病の予防に好適であること等を記載する本願明細書に接し,上記エの公知の知見をも加味すると,本件補正発明の組成物が,活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することを認識することができるものであって,本件補正発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載によって,生活習慣病などの疾患に対して有効である抗酸化物質を提供しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。


カ この点に関し,本件審決は,本願明細書の発明の詳細な説明には,(活性酸素によって誘発される)生活習慣病(の予防)に対する効果の有無及び当該効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係(例えば,どの程度の抗酸化作用を有していれば,生活習慣病(の予防)に対する効果を有するとするのかなど)に係る記載又はそれらを示唆する記載はないと説示する。


 しかしながら,本願明細書には,本件補正発明の組成物が活性酸素によって誘発される生活習慣病の予防に対して効果を有することを当業者が認識することができる記載があることは上記のとおりであり,また,新請求項1には,どの程度の抗酸化作用を有していれば生活習慣病(の予防)に対する効果を有するかなどの生活習慣病の予防に対する効果とヒドロキシラジカル消去活性などの抗酸化作用の大小との対応関係についてまで記載されておらず,このような対応関係について発明の詳細な説明中に記載されている必要があると解されるものでもない。


 また,本件審決は,疾病(の予防)に対する効果の有無を論じる場合,生体に対する薬理的又は臨床的な検証を要することが当業者に自明であるところ,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても,同検証に係る記載又はそれを示唆する記載はないから,新請求項1について,本願明細書の発明の詳細な説明はサポート要件を満たすということができないとも説示する。


 しかしながら,医薬についての用途発明において,疾病の予防に対する効果の有無を論ずる場合,たとえ生体に対する薬理的又は臨床的な検証の記載又は示唆がないとしても,生体を用いない実験において,どのような化合物等をどのような実験方法において適用し,どのような結果が得られたのか,その適用方法が特許請求の範囲の記載における医薬の用途とどのような関連性があるのかが明らかにされているならば,公開された発明について権利を請求するものとして,特許法36条6項1号に適合するものということができるところ,上記ウのとおりの本願明細書の実施例1や図1の記載,本願発明の抗酸化作用を有する組成物は,極めて強力なヒドロキシラジカル消去活性からなる抗酸化作用を有するもので,活性酸素によって誘発される老化や動脈硬化等の種々の生活習慣病の予防に極めて好適であることなどの記載によると,同号で求められる要件を満たしているものということができる。


 したがって,本件審決の上記判断は,いずれも誤りである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。