●平成21(ネ)10051 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟

 本日は、『平成21(ネ)10051 損害賠償請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成21年12月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100121111037.pdf)について取り上げます。


 本件は、著作権に基づく損害賠償請求控訴事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、職務著作性の有無(争点1)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 真辺朋子)は、


(1) 職務著作性の有無(争点1)

ア 職務著作について定めた著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で,その法人等が自己の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とすると定めているところ,「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実体にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきものと解される最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁参照)。


イ そこで,上記見解に立って本件をみるに,前記のとおり,控訴人は被控訴人の被用者ではなく,フリーのカメラマンとして個人で写真事務所を経営しているものあること,本件各走行会において控訴人は,本件写真販売事業においては控訴人の一般的指揮の下に撮影を行ったが,撮影に当たってはプロのカメラマンとしてこれを実施したこと,第1回走行会の前日である平成18年7月12日に,控訴人の撮影した写真であることを明示してもらうため被控訴人に対し,控訴人撮影のクレジットの挿入を要求し,現にライコランド社のホームページに掲載された本件写真には「PHOTO BYX」なる撮影クレジットが挿入されていること等の事実を認めることができ,これらを総合勘案すれば,控訴人は基本的には被控訴人との契約に基づきプロの写真家として行動していた者であり,被控訴人の指揮監督の下において労務を提供するという実体にあったとまで認めることはできない。


ウ そうすると,本件写真は職務著作であるとする被控訴人の主張はこれを採用することができないことになり,これを肯定した原判決の見解は採用できないということになる。


 そこで,進んで,原審における争点2(控訴人は,被控訴人が本件写真の電子データを本件各走行会の主催者に交付しそのホームページ等においてこれを利用することを許諾していたか)について,判断することとする。


(2) 利用許諾の有無(争点2)


ア 前記1の認定事実,ことに平成17年3月の合意の際に控訴人がAから本件企画書を示されていることは当事者間に争いがない上,本件企画書にはオートバイ走行会で撮影された写真の電子データを被控訴人から主催者に交付することが明記されており,その内容は被控訴人が本件写真販売事業を行うに際して重要な事項であることからすれば,Aはそのことを控訴人に説明したと認めるのが相当である。また,控訴人は,Aからの指示により,オートボーイ杯において控訴人が撮影した写真の電子データを自ら媒体に記録して主催者に持参したことがあったが,これにつき控訴人はAに対し異議を述べたことはない上,本件各走行会後に本件写真の著作者をめぐって控訴人とAとの間で交わされた電子メールの中で,控訴人はAから平成17年3月の合意の際に示した本件企画書中に上記電子データの扱いについての記載があることを指摘されたのに対し,「この話はオートボーイ杯に関しての事で,ライコランド走行会に関してはお話ししておりません。」と返信しており,主催者への無償提供に関する説明を受けたこと自体は否定していないところ,かかる控訴人の態度は,オートバイ走行会で控訴人が撮影した写真の電子データを被控訴人から主催者に交付することを承諾していたことを前提としたものであるといえる。


 そうすると,Aは,平成17年3月の合意の際,控訴人に対し,本件業務において扱った写真データは,後日走行会の主催者側に販売以外の目的,具体的にはホームページ上での写真の掲載及び告知用ポスターへの掲載を目的として記録媒体により無償で提供することを説明し,控訴人はこれを承諾したと認めるのが相当である。


イ 控訴人は,本件第1回走行会前の平成18年7月12日,Aに対し,本件第1回走行会において控訴人が撮影する写真の著作者は自分である旨のメール(甲5)を送信し,その中で,主催者側がポスター・ウェブサイト等で控訴人の写真を使用する場合は使用許可が必要である旨の内容が含まれているが,控訴人が上記メールをAに送信したのは本件第1回走行会の前日という時間的猶予のない段階である上,被控訴人が控訴人の意向を承諾したと認めることもできないことからすれば,上記メールをもって前記利用許諾の合意が変更されたと認めることはできない。


ウ そうすると,控訴人は,本件各走行会の終了後,被控訴人が本件写真を走行会の主催者に販売以外の目的,具体的にはホームページ上での写真の掲載及び告知用ポスターへの掲載を目的として記録媒体により無償で提供することを許諾していたと認めることができる。


(3) 以上のとおり,控訴人が撮影した本件写真について職務著作は成立せずその著作権は控訴人にあることになるが,控訴人は被控訴人に対し予めその利用許諾をしていたことになるので,本訴請求のうち著作権侵害(356万円と付帯請求)に係る部分は理由がないことになる。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。