●平成20(ワ)10854 特許権侵害差止等請求事件「レベル・センサ」

Nbenrishi2009-12-26

本日は、『平成20(ワ)10854 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「レベル・センサ」平成21年12月24日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091225094252.pdf)について取りあげます。

 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、サポート要件違反についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 北岡裕章、裁判官 山下隼人)は、

1 争点2−5−1(サポート要件違反?)について

 事案にかんがみ,争点2−5−1(サポート要件違反?)から判断することとする。

(1) 旧特許法36条5項1号は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」と規定し,特許請求の範囲の記載がこれに適合することを求めている(明細書のサポート要件)。

 その趣旨は,発明を公開させることを前提に,その発明に特許を付与して一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを目的とする特許制度の趣旨に基づき,願書に添付すべき明細書に,発明の技術内容を一般に開示させるとともに,その効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を果たさせるため,明細書の発明の詳細な説明に,その発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載することを要求し,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することにより,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害することを防ぐことにある。


 そして,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決・判例タイムズ1192号164頁参照)。


 以下,かかる観点から,本件特許に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものであるかについて検討する。


(2) 本件明細書の記載

ア特許請求の範囲の記載

イ発明の詳細な説明の記載


(3) 検討


 ・・・省略・・・


エ 以上によれば,本件特許に係る出願時の技術常識に照らして,本件明細書の上記記載から,「動作環境下で強い水流や液面上の浮遊物から受ける外力を受けてもスイッチが確実に作動する」との効果を得るために,平衡重りの重量をセンサ全重量の30%以上にすることの技術的意義ばかりでなく,平衡重りの重量をセンサ全重量の一定割合を超えるように設定することの技術的な意味を当業者が理解することができないというべきである。


 他に,平衡重りの重量をセンサ全重量の一定割合を超えるように設定することの技術的な意味を示唆するような記載も見当たらない。したがって,本件特許の特許請求の範囲の記載は,明細書のサポート要件に違反するというべきである。


(4) 原告らの主張について

 原告らは,甲25ないし27の文献によれば,船舶の姿勢の安定化のために,全体の重量に対して一定量バラスト(重り)が必要とされることはありふれた知識であることが認められ,かかる技術常識をふまえれば,可動重りの重量がセンサ全体の重量の30%以上であるという記載がセンサ全体の姿勢の安定性の確保を図るための要件であると認識・理解することは可能であると主張する。


 ・・・省略・・・


 しかしながら,船舶は,バラストを含めた船舶全体の重量と,船舶の水面下にある部分の体積相当の水の重量に相当する浮力とが釣り合うことにより水面上に浮かぶものであり,バラストの重量と船舶全体の重量との比率を一定割合にすることによって浮かぶものではなく,バラストの重量は,船の速度との関係を考慮しながら,船の安定性を確保するために適宜選択されるものであるから,実際の船舶において,船舶全体の重量とバラストの重量とが一定の割合になっていたとしても,それはバラストを含めた船舶全体の重量と浮力とを適切に調整した結果にすぎず,船舶全体の重量とバラストの重量とを一定の割合にすること自体に技術的な意味があるとは考えられない。


 そして,上記各文献においても,船舶の種類,載貨重量毎に必要となるバラスト量が異なってくるとされている上,レベル・センサと船舶とは技術分野が異なるものであり,その形状も大きく異なるのであるから,バラスト量と船舶全体の重量に言及する文献があるからといって,本件明細書に接した当業者が,レベル・センサの姿勢の安定化との関係で,平衡重りの重量をセンサ全重量の一定割合を超えるようにすることの技術的意味を認識できるとは考えられない。


 したがって,原告らの上記主張は採用できないものである。

(5) 小括

 よって,本件特許は,旧特許法36条5項1号の規定に違反してなされたものであり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。

 したがって,特許法104条の3第1項により,特許権者である原告ITTは,被告に対し,本件特許権に基づく権利を行使することはできず,また,そうである以上,原告ITTから本件特許権について独占的通常実施権の設定を受けたとする原告フリクト日本も,被告に対し,独占的通常実施権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することはできないものというべきである。


2 結語

 以上によれば,原告らの本件請求は,その余の争点について判断するまでもなく,いずれも理由がないことに帰するから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 なお、本件中で引用している知財高裁事件は、

●『平成17年(行ケ)第10042号 特許取消決定取消請求事件「偏光フィルムの製造法」平成17年11月11日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/286/009286_hanrei.pdf

 であります。


 詳細は、本判決文を参照してください。