●平成21(ラ)10006 不正競争仮処分申立却下決定に対する抗告事件(2)

 本日は、『平成21(ラ)10006 不正競争仮処分申立却下決定に対する抗告事件 不正競争 民事仮処分 平成21年12月15日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091224113907.pdf)について取り上げます。


 本件は、不正競争仮処分申立却下決定に対する抗告事件で、本件抗告が棄却された事案です。


 本件では、争点3(本件契約に基づく差止請求の可否)と、争点4(保全の必要性)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 浅井憲)は、


3 争点3(本件契約に基づく差止請求の可否)について

 本件全疎明資料によっても,本件契約上,相手方とAとの間において,Aが本件独占的利用権を有しないことを理由とする本件対象行為を行わない旨の合意があったと認めることはできず,本件契約に基づくという請求について,抗告人主張の被保全権利の疎明があるということができない。


 なお,抗告人は,利用権許諾の契約当時者である許諾者は,一定の社会的接触関係にある以上,契約に内在する当然の義務又は本来的債務に付随する信義則上の義務として,被許諾者に付与した権利を否定するような告知・流布を行ってはならないという不作為義務を有しており,被許諾者が第三者に対して行った告知・流布が,虚偽とまでは断定し得なくとも,被許諾者に付与した権利を否定する趣旨の告知・流布であるならば,差止めの対象となる不作為義務違反を構成すると解されること,また,著作権法に基づく著作権の本質は,他人が著作物について著作権法に規定されている利用行為をすることに対する禁止権・排他権であり,著作権者以外の被許諾者が利用権を有するとは,著作権者がこの禁止権を当該被許諾者に限り解除して利用権付与契約の相手方に対して差止請求権等を行使しないという不作為義務を負うものであることなどからして,本件申立てに係る差止請求権が認められるべきであると主張する。


 しかしながら,差止請求権については,当事者間において対象行為を行わないとの合意が成立しているとき又は実定法に基づき差止請求権が付与されているときに認められるべきものであって,そのような合意又は実定法が存在しないにもかかわらず,著作権についての独占的利用権の付与があったことのみをもってこれが認められるものではない。


 そして,このことは,著作権という観点からみても,著作権法不正競争防止法等の法律によって,一定の要件の下に差止請求権が認められているものであって,そのような要件がないにもかかわらず,差止請求を認めることは相当でない。


 加えて,相手方書面の送付が前記2で説示したとおりの趣旨のものと解されるにとどまる以上,本件契約についても,相手方にその義務違反又はそのおそれがあることの徴表となる事実についての疎明があるということはできないから,抗告人の主張は採用することができない。


4 争点4(保全の必要性)について

 以上のとおり,抗告人主張の被保全権利についての疎明がないので,本件申立ては理由がないことになるが,事案にかんがみ,保全の必要性についても付言する。


 抗告人が差止めを求める相手方の本件対象行為については,日本国内で行われる行為についてだけでなく,日本国外において行われる行為についても不正競争防止法が適用されるとして,本件は,そのような本件対象行為が現に行われていることを理由とする停止としてではなく,そのおそれがあることを理由とする予防として,その差止めが求められている事案であるから,日本国内外における本件対象行為を仮処分によってあらかじめ差し止める必要性があるのか否かについて,ここで検討することとする。


(1) 日本国外における本件対象行為の差止めの必要性

 本件申立ては,本件対象行為のうち,日本国外における行為の差止めを求める部分についても,仮の地位を定める仮処分命令の発令を求めるものであるが,仮の地位を定める仮処分命令は,争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができるもの(民事保全法23条2項)であって,断行的・満足的な仮処分として,その発令に際しては,高度の保全の必要性が要求されるものであるところ,本件において,相手方が日本国以外のすべての国において本件対象行為を行うがい然性があると疎明する資料はなく,抗告人の主張が具体的な国を特定することなく,漫然と日本国以外のすべての国において本件対象行為の差止めを求める必要性があるという趣旨であるとしても,そのような主張は到底これを首肯し得ず,不正競争防止法に基づく請求部分については,そもそも同法が国外における行為等に適用されるか否かという点はさておき,その必要性はないものといわざるを得ない。


 したがって,本件申立てのうち,日本国外で行われる本件対象行為の差止めを求める部分は,抗告人主張の被保全債権について検討するまでもなく,保全の必要性を欠く申立てといわざるを得ないことになる。


(2) 日本国内における本件対象行為の差止めの必要性

 日本国内における本件対象行為のうち,国外告知・流布の差止めを求める部分については,相手方が日本国外のすべての国の第三者に対してそのような告知・流布を行うがい然性があると疎明する資料はなく,抗告人の主張が具体的な国を特定することなく,漫然と日本国以外のすべての国の第三者に対する告知・流布の差止めを求める必要性があるという趣旨であるとしても,そのような主張は到底これを首肯し得ず,日本国外における本件対象行為についてと同様,その必要性はないものといわざるを得ない。


 そうすると,保全の必要性について検討する必要があるのは,日本国内における本件対象行為のうち,国内告知・流布の差止めを求める部分ということになるが,当該部分については,その被保全権利についての疎明がないことは前記説示のとおりである。


5 結論

 以上の次第であるから,いずれにしても本件申立ては理由がなく,原決定は相当であって,本件抗告は棄却されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。