●平成21(行ケ)10057審決取消請求事件 商標権「TeddyBear」

Nbenrishi2009-12-23

 本日は、『平成21(行ケ)10057 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「TeddyBear」平成21年12月21日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091222113228.pdf)について取り上げます


 本件は、特許無効審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、4条1項7号についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、



『1 はじめに

 商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」については,当該商標の構成に,非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形等を含む商標が,これに該当することは明らかである。


 また,当該商標の構成に,そのような文字,図形等を含まない場合であっても,当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが,?法律によって禁止されていたり,?社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反していたり,?特定の国若しくはその国民を侮辱したり,国際信義に反することになるなど特段の事情が存在するときには,当該商標は同法4条1項7号に該当すると解すべき余地がある。


 ただし,?商標法は,同法4条1項7号の外に,同項各号の規定によって,公益との調整,既存の商標権者や既に同一又は類似の商標を使用している者との利益調整など,さまざまな政策的な観点から,登録されるべきでない商標を具体的かつ網羅的に列挙していること,?公の秩序又は善良の風俗を害するか否かの判断は,社会通念によって変化し,客観的に確定することが困難であること等に照らすならば,当該商標の構成それ自体ではなく,当該商標を使用することが,いわゆる公序良俗に反するとして同法4条1項7号に該当するとされる場合は,自ずから限定して解釈されるべきものといえよう。


 特に,商標法4条1項15号,19号等の各規定が置かれている趣旨に照らすと,単に,他人の業務に係る商品や役務と混同を生ずるおそれがある場合,他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用をするもののような場合は,それぞれ同法4条1項15号,19号等に規定された各要件を充足するか否かによって,同法4条1項所定の不登録事由の成否を検討すべきであって,そのような事実関係が存在することをもって当然に同法4条1項7号の不登録事由に該当すると解するのは妥当とはいえない。


 なお,同法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するか否かの判断は,登録査定時(拒絶査定不服審判の審決時)を基準とすべきである。


 上記の観点を前提として,本件商標の同法4条1項7号該当性について,検討する。

2 「テディベア」の語及びセオドア・ルーズベルトに関連する逸話の周知性について

 原告は「テディベア」の語及びセオドア・ルーズベルトに関連, する逸話が我が国で周知であることを前提に,本件商標が商標法4条1項7号に該当すると主張する。


 そこで,証拠(当審において提出された証拠を含む。)により,「テディベア」
の語及びセオドア・ルーズベルトに関連する逸話の周知性について検討する。


 ・・・省略・・・


 これらの英和辞典の記載によれば,少なくとも英米において,「teddybear」の語は,一般に独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味する語として理解されていたこと,及び「teddy bear」の語は,米国第26代大統領であったセオドア・ルーズベルトが狩猟中に追い詰めた小熊を撃たずにその命を助けたという逸話と関連して理解されていたことが推認される。

 しかし,英和辞典に記載があることから,直ちに,「テディベア」との語又はセオドア・ルーズベルトの逸話が,我が国において英米と同様に知られているとはいえず,むしろ,前記の我が国の辞書,雑誌,新聞,書籍,レコード,テレビ番組,テディベア博物館等の状況に照らすならば,前述のとおり,本件商標の登録査定時(平成20年1月29日)において,「テディベア」との語は広く知られているものの,セオドア・ルーズベルトの逸話は,同程度にまで広く知られているとはいえない。



3 本件商標の商標法4条1項7号への該当性について


 原告は,本件商標は商標法4条1項7号に該当すると主張し,その根拠として,以下のとおり主張するが,原告の主張は,いずれも採用することができず,本件商標は同法4条1項7号に該当しないとの審決の判断に誤りはない。


(1) 原告は,本件商標の登録は,国際信義に反する旨主張する。

 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件商標の登録査定時(平成20年1月29日)において,我が国において,「テディベア」との語は広く知られているものの,セオドア・ルーズベルトの逸話は,同程度にまで広く知られているとはいえない。


 そして,我が国はもとより,英米においても,「teddy bear」の語は,一般にセオドア・ルーズベルトを直ちに連想させるほど同人と密接に関連した語として認識されていたとは認められないし,ぬいぐるみの名称として知られていることを超えて,米国又は米国民と密接不可分な関係があるものとは認められない。


 この点,確かに,英和辞典には,「teddy bear」の項目が掲載されたものが存在し,セオドア・ルーズベルトに関する逸話が掲載されたものも存在する。


 また,甲33によれば,テディベアとセオドア・ルーズベルトの関連を取り上げた書籍が存在する。しかし,英和辞典においても,「teddy bear」の語は,小熊のぬいぐるみを意味するものとされ,セオドア・ルーズベルトの逸話は,その語の語源又は由来の説明として位置づけられている。そして,乙1によれば,「teddy bear」と呼ばれる独特の形をした小熊のぬいぐるみは,ドイツの玩具会社シュタイフに由来するとの説があり,「teddy bear」の語の由来については,セオドア・ルーズベルトの逸話の他にも,イギリスのヴィクトリア女王の長子エドワード7世(愛称「テッド」)がロンドンの動物園の熊に興味を示したことに由来するという説もあることが認められる。また,乙4によれば,米国において,「teddy bear」との文字は,様々な指定商品について商標登録されており,その指定商品には,「使い捨ておむつ」(登録番号1218462),「女性用コート」(登録番号0987934)なども含まれていることが認められる。これらの事実に照らすと,「teddy bear」の語は,一般にセオドア・ルーズベルトを直ちに連想させるほど同人と密接に関連した語として認識されているとは認められないし,ぬいぐるみの名称として知られていることを超えて,米国又は米国民と密接不可分な関係があるものとは認められない。


 その他,「teddy bear」の語又はその語によって表される独特の形をした小熊のぬいぐるみが,米国又は米国民にとって重要な意義を有するものと認めるに足りる証拠はなく,また,本件商標の商標登録を認めることが,米国,若しくは米国と我が国との関係に影響を与えるものとは認められないし,我が国の公益を害したり,国際的に認められた一般原則や商慣習等に反するものとも認められない。


 そうすると,本件商標の商標登録は,国際信義に反するとは認められない。


 ・・・省略・・・


(3) 原告は,?セオドア・ルーズベルト協会が「teddy bear」に対して知的財産権を有している旨主張するとともに,原告は,同協会から「teddy bear」の名称等の使用許諾を受け,その許諾に基づく商品化の同意を得ており,原告が「「Teddy Bear Roosevelt」, Roosevelt Teddy Bear」,その他の関連商標の登録出願を我が国ですることにも同意を得ており,同協会(原告が代理人)は,被告が本件商標により「テディベア」の語を独占することに反対していること,?被告が,本件商標に係る商標権を有し,その権利行使をすることは,米国のセオドア・ルーズベルト協会の活動を妨害し,国際信義に反すること,?我が国には日本テディベア協会(会員数約3000人,加盟店61店,加盟企業47社,加盟美術館10件),合計12件のテディベア博物館(美術館)があり,インターネットの「Amazon」で販売されているテディベアに関する商品は合計203件見出されるように,テディベアは我が国に定着していることから,本件商標の登録は,商標法4条1項7号に該当するなどと主張する。しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。


 原告の主張は,要するに,セオドア・ルーズベルト協会から許諾を受けた原告のみが「teddy bear」,「テディベア」との語を商標登録し又は使用することができるとするものである。


 原告は,本件の無効審判において提出した平成21年1月15日付け上申書(乙3)において,「そもそも『テディベア』の名称は現在アメリカで設立された同大統領を記念した『セオドア・ルーズベルト協会』が所有する名称であることは全世界で認められています。その日本の代理人であり『商品化事業』の展開と『商標登録』を委託されている請求人の『商標登録』の権利を認めない特許庁の判断については,大変請求人は不満に思っています。」と述べている。


 また,原告は,前記のとおり,セオドア・ルーズベルト協会から「teddy bear」の名称等の使用許諾を受け,その許諾に基づく商品化の同意を得て,原告が「Teddy Bear Roosevelt」,「Roosevelt Teddy Bear」,その他の関連商標の登録出願を我が国ですることにも同意を得ていると主張し,その主張に沿う契約書(甲8,甲44 ,通知書(甲9 ) ),同意書(甲10)を証拠として提出している。


 これらの経緯に照らすと,原告の主張は,セオドア・ルーズベルト協会(いかなる知的財産権等を有しているかは明らかでない。)から許諾を受けた原告のみが「teddy bear」,「テディベア」との語を商標登録し又は使用することができるという趣旨を述べていることと理解される。


 しかし,原告が述べる内容は,「テディベア」の名称等の使用を独占することは,日米両国の公益を損なうおそれがあり,国際信義に反し,その商標登録が商標法4条1項7号に該当するとの本訴における原告の主張と相矛盾するものであって,その点からも,採用することができない。


4 結論

 以上のとおり,本件商標は,商標法4条1項7号に該当しないものと認められ,審決の判断に誤りはない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。


 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。