●平成21(ワ)18950 特許権侵害差止請求反訴 特許権 民事訴訟

 本日は、『平成21(ワ)18950 特許権侵害差止請求反訴 特許権 民事訴訟「蛍光電子内視鏡システム」平成21年12月16日 東京地方裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091222114943.pdf)について取り上げます。


 本件は、反訴原告が、反訴被告に対し特許法100条1項,2項に基づき差止請求等を求めた事案で、その反訴が棄却された事案です。


 本件では、争点(2)(被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか)である文理侵害と均等侵害における構成要件Fの充足についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳、裁判官 鈴木和典、裁判官 坂本康博)は、


2 争点(2)(被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するか)について

(1) 被告製品が本件発明の構成要件A,B,D,Gを充足していることは当事者間に争いがない。


 ・・・省略・・・


(3) 構成要件Fについて

ア 本件発明の構成要件Fは,「送信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とする」であるところ,「3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ(る)」の技術的意義は,本件特許請求の範囲の記載からは必ずしも一義的に明らかではない。


イ(ア) そこで,本件明細書を見ると,「発明の詳細な説明」には次の記載がある。(甲2)


a 「実験に使った光源装置では,光源の前に三原色RGBのband pass filtersを置き,それを回転させて順次に三原色の光を作り出し,被観察物に照射する。そして,被観察物から順次に反射してくる三原色の光を内視鏡先端の白黒のcharge coupled device(CCD)にて受光し電気信号に変える。つまり,三原色の赤の時はCCDで受けた電気信号は赤チャンネルとして,緑の時は緑チャンネルとして,そして,青の時は青チャンネルとして扱い,送信後ビデオシステムセンターによってモニター上に画像を再構成している。」(段落【0021】)


b 「白黒CCDでは,三原色の赤,緑,青は区別できず,暗いか明るいかで判別し電子信号化している。カラーの映像を作り出すためには,光源の前に三原色RGBのband pass filtersを置き,それを回転させて順次に三原色の光を送り,被観察物を照射する。赤の光が出た時には,被観察物から反射してくる光を内視鏡先端の白黒のCCDにて受光し赤チャンネルに,緑光の時は緑チャンネルに,そして,青光の時は青チャンネルに電気信号化して,送信後ビデオシステムセンターによってモニター上に画像を再構成している。」(段落【0035】)


 ・・・省略・・・


(イ) 上記のとおり,本件発明は,青,赤,緑の3色の照明光を照射し,3つの照射光に基づいて得られる3つの信号(濾過フィルターで青色光をカットして得られる蛍光の信号,赤の信号及び緑の信号)のすべてをモニターに入力して映像表示に用いることによって明るい映像を表示する点を特徴の一つとするものであり,上記のような3色方式以外の構成(例えば,赤,緑,青の3つの撮像タイミングで得られる3つの信号の内の2つだけを「モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させて」見るために用いるもの)は,本件明細書の詳細な説明及び図面には示されていない。


 また,本件明細書には,3色の光を受光する「CCDの3つあるチャンネル(赤,緑,青)」とモニターの入力端子(赤,緑,青)との関係が,赤(R)−赤(R),緑(G)−緑(G),青(B)−青(B)という1対1対応の関係にある態様しか開示されておらず,これ以外の関係を示唆する記載も存在しない。


 したがって,原告自身によるこれらの説明に照らしても,本件発明の内容が上記(イ)のとおり3色の照明光により得られる3つの信号のすべてをモニター表示に用いる発明であることが裏付けられるというべきである。


ウ(ア) さらに,原告は,平成15年7月10日付け「特許異議申立に対する意見書」(甲9)において,本件発明について,次のとおり主張している。


a 「特開平9−70384(判決注:「特表平10−500588」〈本件訴訟における甲6〉の誤記と認める。以下,b項も含めて同様である。)・・・では青励起光を組織に照射すると組織から自家蛍光が生じる。その際,腫瘍からの自家蛍光は正常組織と比べて弱くしかも緑領域の方が赤の領域よりもその差が優位に大きいという性質(特開平9−70384,Fig.1a-d)を利用して,まずシャープカットフィルターを用いて青の励起光を完全にカットし,さらに残った蛍光を緑と赤に分けて受信した後に同じモニター上に合成する。そうすると腫瘍が赤く,正常組織が緑に見えるというわけである。・・・特開平9−70384と本特許との根本的な違いは,本特許の映像は青,緑,赤3色から構成されているのに対し,特開平9−70384では映像は赤と緑の2色しかないという点である。」


b 「本特許の自家蛍光内視鏡の映像は青チャンネルで腫瘍と正常組織は発する緑も赤も含めた自家蛍光強さの差として受信し(特開平9−70384, をFig.1a-d 参考にすると腫瘍の部分からの自家蛍光は弱い青に,正常な組織からの自家蛍光は強い青に),そしてさらに緑と赤で受信した背景の映像と融合させている。・・・このように,特開平9−70384の自家蛍光内視鏡写真は蛍光の映像のみであるのと,赤と緑(写真では電子的に緑を青にかえている)の2色しかないので,値段も高く操作性も悪い高感度カラーCCDを使用しているにもかかわらず,映像としてもまだ大分暗い。・・・それに比べて,本特許の自家蛍光内視鏡写真は通常の面順次式にシャープフィルターを取り付けただけで,明るく鮮明な画像が得られる。既に,述べたように蛍光の映像を青チャンネルで受信し,背景の映像を緑と赤のチャンネルで受信し,そして3つのチャンネルの信号を融合させているからである。」


c 「本特許の方法は蛍光内視鏡の問題点をはじめて解決できたといえる。通常使われている面順次式の電子内視鏡の器械に・・・フィルターを取り付けただけで,繰り返しになるが,蛍光の映像を青チャンネルで受信し,背景の映像を緑と赤のチャンネルで受信し,3つのチャンネルの信号を融合してモニターに映し出すことになる。・・・多くて2色から構成されている他の方法で得られる蛍光の映像と違い,本特許の方法だと映像は青,緑,赤の3色から構成されているので,画質としては通常の電子スコープによる通常のカラー映像となんら変わらない。特別な器械はいらないのでもちろんコストも安い。」



(イ) このように,原告は,上記引用箇所において,本件発明の映像は青,緑,赤の3つのチャンネルの信号(3色)から構成されているので,赤と緑の2色しかない甲6(特表平10−500588)発明に比べて優れている旨を繰り返し主張していたことが認められる。


エ 上記イ,ウのとおり,本件明細書の記載及び特許異議手続における原告の主張内容からすれば,本件発明の構成要件F「送信後3つのチャンネルの信号を再構成し」とは,CCDの3つのチャンネルの信号をすべて用いてモニター上に映像として再構成することをいい,また,そのような構成に限定されるものと認めるのが相当である。


 この点,原告は,本件発明の構成要件Fについて,CCDの3つのチャンネルの信号をすべて用いて再構成することに限定されない旨の主張をするが,同主張は,特許異議手続における前示の経緯に照らし,いわゆる禁反言の法理に反するものとして許されないというべきである。


オ そこで,被告製品について検討するに,被告製品においては,前示のとおり,CCDの緑チャンネルで受光した反射光G2(緑画像信号G2−1,G2−2,・・・)はビデオシステムセンター内において不要な信号として排除され,背景の映像信号としてモニターに出力されていないのであるから,CCDの3つのチャンネルの信号のすべてを用いてモニター上に映像として再構成しているとはいえない。


 したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Fを充足するものとは認められない。


(4) 均等侵害について

ア 前示のとおり,被告製品は,少なくとも本件発明の構成要件Fを充足しないから,本件特許権に対する文言侵害は認められないが,原告は,被告製品について,本件発明の構成と均等である旨主張するので,以下,検討する。


イ 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,

(1)当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,
(2)当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,
(3)そのように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,
(4)対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,
(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)。


ウ これを本件についてみるに,原告は,前記認定のとおり,特許異議(異議2003−70284)の手続において,本件発明が甲6発明から容易に想到できたものでないことを主張するに当たって,甲6発明のような従来技術(モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合するに際し,2色で構成する技術)との根本的な差異として,本件発明における映像は青,緑,赤の3色から構成されている点を強調していたのであるから,被告製品のように3つの撮像タイミングで得られる3つの信号の内の2つだけをモニター上の画像構成に用いる技術については,これを特許請求の範囲から意識的に除外したものと認めるのが相当である。


 したがって,被告製品については,少なくとも均等法理の第5要件にいう「特段の事情」の存在が認められるから,本件発明の構成と均等であるとはいうことはできず,原告の主張する均等侵害も認めることはできない。

3 結論

 以上のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものと認めることはできないから,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,いずれも理由がない。


 よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。