●平成21(行ケ)10183 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

Nbenrishi2009-12-13

 本日は、『平成21(行ケ)10183 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「INDIAN ARROW」平成21年12月10日 知的財産高等裁判所』((http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091211140518.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標法51条1項該当を理由とする商標登録の不正使用取消し審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、 商標法51条1項と、結合商標の類否についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 本多知成)は、

『1 取消事由1(混同の有無)について

(1) 商標法51条1項の趣旨

 商標法51条1項は,「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用…であって…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定し,同条2項は,「商標権者であった者は,前項の規定により商標登録を取り消すべき旨の審決が確定した日から5年を経過した後でなければ,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について,その登録商標又はこれに類似する商標についての商標登録を受けることができない。」と規定している。


 同条1項の規定は,商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し,そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨のものであり,需要者一般を保護するという公益的性格を有するものである最高裁昭和58年(行ケ)第31号昭和61年4月22日第三小法廷判決・裁判集民事147号587頁参照)。


 このような商標法の趣旨に照らせば,同項にいう「商標の使用であって…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには,使用に係る商標の具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との間で具体的に混同を生ずるおそれを有するものであることが必要というべきであり,そして,その混同を生ずるおそれの有無については,商標権者が使用する商標と引用する他人の商標との類似性の程度,当該他人の商標の周知著名性及び独創性の程度,商標権者が使用する商品等と当該他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである。


 以上のような観点から,?使用商標A及びBと引用商標1ないし3との類似性の程度,?引用商標1ないし3の周知著名性及び独創性の程度,?使用商標A及びBが付された商品(トートバッグ)と原告の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情を総合して,混同を生ずるおそれの有無について,以下検討する。


(2) 使用商標A及びBと引用商標1ないし3との類似性の程度

ア使用商標及び引用商標の構成等

 使用商標Aは,別紙使用商標Aのとおり,方形の飾り枠内に筆記体による「Indian」及び「Arrow」の文字を矢の図形を介して上下に配し,その下に小さな文字で「TRADE MARK REGISTERED」及び「FINEST QUALITY」と記載した構成からなるものである。そして,「Indian」と「Arrow」との行間に位置するライン状の矢に「Arrow」の「A」の頭部が突出する態様となっている(甲452)。


 また,使用商標Bは,別紙使用商標Bのとおり,筆記体による「IndianA r r o w 」の文字を横書きし, 矢の図形を配し, その下に小さな文字で「TRADE MARK REGISTERED」及び「FINEST QUALITY」と記載した構成からなるものである。そして,「Indian Arrow」の下の矢が2つの語に一連に引かれている(甲452)。


 他方,引用商標1及び2は,別紙引用商標1及び2のとおり,羽根飾りを付けた右向きインディアン図の中央に欧文字筆記体「Indian」の文字を大書し,その下に「Indian Motocycle Co.,Inc.」の文字が表記されている。


 また,引用商標3は,別紙引用商標3のとおり,筆記体で「Indian®」と表記されている。


イ結合商標の類否判断

(ア) 複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。


 他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。


(イ) これを本件についてみるに,使用商標Aは「Indian」及び「Arrow」の文字が方形の飾り枠内にあり,他の表記に比較して大きな文字で記載されていることから,「Indian」及び「Arrow」の部分が全体として統一感のあるものであって,「Indian」と「Arrow」とが2行表記となっているが,全体が方形の飾り枠内にまとまりよく収まり,また,いずれの文字も同書同大からなり,加えて,その行間に位置するライン状の矢に「Arrow」の「A」の頭部が突出する態様となって上下行の文字の一体性をより一層高めているから,上記部分をもって一体のものとして看取されるものである。よって,使用商標Aからは,「インディアンアロー」の一連の称呼を生ずるものというべきであり,上記文字及び矢の図形とあいまって「アメリカインディアン(北米原住民)の矢」の観念を生ずるものである。


 使用商標Bは,「Indian Arrow」の下の矢が2つの語に一連に引かれており,全体として「インディアンアロー」の一連の称呼及び「アメリカインディアン(北米原住民)の矢」の観念を生ずるものである。


 他方,引用商標1及び2は,羽根飾りを付けた右向きインディアン図の中央に欧文字筆記体「Indian」の文字を大書し,その下に「Indian Motocycle Co.,Inc.」の文字が表記されているから,「インディアン」の称呼及び「アメリカインディアン(北米原住民)」の観念のほか,「インディアンモトサイクルコーインク」の称呼及び「アメリカンインディアン(北米原住民)オートバイ会社」の観念という,2つの称呼・観念を生ずるものといえる。


 引用商標3は,「インディアン」の称呼及び「アメリカインディアン(北米原住民)」の観念を生ずるものである。


(ウ) 原告は,結合商標の類否判断においては,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していなければ,1個の商標から2つ以上の称呼,観念が生ずるのであり,使用商標A及びBからは「Indian」の称呼,観念も生ずると主張する。


 しかし,引用商標1ないし3に周知性があるといえないことは後記(3)認定のとおりであるから,使用商標A及びBの「Indian」の部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合には当たらない。


 また,使用商標A及びBのそれ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合にも当たらない。よって,原告の主張は採用することができない。
ウ使用商標A及びBと引用商標1ないし3との類否


(ア) 使用商標A及びBから生じる「インディアンアロー」の称呼と引用商標1及び2から生ずる「インディアン」又は「インディアンモトサイクルコーインク」の称呼とは,音の差異により,明らかに区別することができるものである。


 また,使用商標A及びBから生じる観念は,「アメリカインディアン(北米原住民)の矢」であり,引用商標1及び2から生じる観念は「アメリカインディアン(北米原住民)」又は「アメリカンインディアン(北米原住民)オートバイ会社」であり,両者は観念においても相紛れるおそれはない。


 さらに,使用商標A及びBは「Indian Arrow」の文字と矢及びその他の表記からなるもので,羽根飾りを付けた右向きインディアン図と「Indian Motocycle Co.,Inc.」の文字の表記からなる引用商標1及び2の外観とは,明らかに相違する。よって,使用商標A及びBと引用商標1及び2とは,称呼,観念及び外観のいずれの点からみても,類似するとはいえない。


(イ) また,使用商標A及びBから生じる「インディアンアロー」の称呼と引用商標3から生ずる「インディアン」の称呼とは,音数の差異等により,区別することができるものである。また,使用商標A及びBから生じる観念は,「アメリカインディアン(北米原住民)の矢」であり,引用商標3から生じる観念は「アメリカインディアン(北米原住民)」であり,両者は観念においても直ちに相紛れるおそれはない。さらに,使用商標A及びBは「Indian Arrow」の文字と矢及びその他の表記からなるもので,「Indian」の文字のみからなる引用商標3の外観とは,相違する。よって,使用商標A及びBと引用商標3とは,称呼,観念及び外観のいずれの点からみても,類似するとはいえない。


エ小括

 以上のとおり,使用商標A及びBと,引用商標1ないし3とは,いずれも互いに類似するとはいえない。


・・・省略・・・

エ なお,付言するに,原告と被告との間には,過去多くの紛争があり,以下のような判決が確定していることに照らすと,原告が,新たな証拠を追加することなく,漫然と従前の訴訟において使用した証拠を提出することにより,引用商標1ないし3について被服や帽子等の分野で原告を表示するものとして周知であることを主張すること自体,訴訟上の信義則に反する行為であると非難されてもやむを得ないものがあるといわざるを得ない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。