●平成20(ワ)9742 特許侵害予防等請求事件 特許権 民事訴訟

Nbenrishi2009-12-07

 本日は、『平成20(ワ)9742 特許侵害予防等請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年11月26日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091204170939.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許侵害予防等請求事件で、その請求が却下された事案です。


 本件では、国際裁判管轄の判断基準についての判断が参考になるかと思います。


  つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 北岡裕章、裁判官 山下隼人)は、


1 国際裁判管轄の判断基準

 我が国の裁判所に提起された訴訟の被告が,外国に本店を有する外国法人である場合には,当該法人が進んで服する場合のほか日本の裁判権は及ばないのが原則であるが,例外として,被告が我が国と法的関連を有する事件について,我が国の国際裁判管轄を肯定すべき場合のあることは,否定し得ないところである。


 ただし,どのような場合に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかについては,国際的に承認された一般的な準則が存在せず,国際的慣習法の成熟も十分でないため,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である(最高裁判所昭和55年(オ)第130号同56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁)。


 そして,我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときには,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判籍に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである最高裁判所平成5年(オ)第1660号同9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁)。


 本件訴えは,特許権侵害の差止請求(特許法100条1項)と特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)が併合して提起されたものであるから,以下,それぞれの請求について,上記判断基準に従って我が国に国際裁判管轄があるかどうかについて検討することとする。


不法行為に基づく損害賠償請求について

(1) 民訴法の規定する裁判籍の有無

ア 原告は,被告の特許権侵害行為(我が国における譲渡の申出)によって本件訴訟の提訴を余儀なくされ,弁護士費用相当の損害を被ったと主張し,同損害は,原告の本店所在地である京都市において発生したとして,民訴法5条9号(不法行為地の裁判籍)により我が国に裁判籍があると主張する。


 ところで,民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して我が国の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたことの客観的事実が証明されることを要し,かつそれで足りると解される最高裁判所平成12年(オ)第929号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁)。


 そうすると,我が国において損害が発生したことが証明されるのみでは足りず,不法行為の基礎となる客観的事実として原告が主張する事実,すなわち,本件においては日本国特許権である本件特許権の侵害事実としての,我が国における被告物件の譲渡の申出の事実が証明される必要があるというべきである

 そこで,以下,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出をした事実が認められるかどうかについて検討する。


イ ウェブサイトによる譲渡の申出

 原告は,被告が被告のウェブサイトにおいて被告物件の譲渡の申出をしていると主張する。

 たしかに,本件訴え提起時点で閲覧可能な被告のウェブサイト(英語表記)において「Slim ODD Motor」(スリムオプティカルディスクドライブモータ)を紹介するウェブページ(甲4−1−1)が存在し,同ページの「Part Number List」という項目を選択すると,別のページ(甲4−1−2)が表示され,同ページには被告物件の一つである「DMBSFC06M」の品番が掲載されていることが認められる(ただし,被告は,本件口頭弁論終結時〔平成21年9月29日〕までに「Part NumberList」の項目を削除した〔乙3〕)。また,同サイトにおいて製品一覧を示したウェブページ(甲4−3)の「Slim ODD Motor」欄の「Sales Inquiry」(販売問合せ)として,「Japan」(日本)も掲げられており,海外ネットワークを示したページ(甲4−4)においては,「Sales Headquarter」として,日本での拠点(東京都港区<以下略>)が示されていることが認められる。


 さらに,被告の日本語表記のウェブサイトにおいても,「Slim ODDMotor」を紹介するウェブページ(甲7)が存在し,同ページの「購買に関するお問合せ」という項目を選択すると,「Slim ODD Motor」の販売に係る問合せフォーム(甲8:「Section」欄に「Sales」と表記)が表示され,同ページの「製品に関するお問合せ」という項目を選択すると,「Slim ODD Motor」の製品に係る問合せフォーム(甲9:「Section」欄に「Tech」と表記)が表示されることが認められる。また,同サイトの海外事業場を紹介するウェブページ(甲10)において,日本における販売法人として東京と大阪の拠点が掲載されていることが認められる。


 しかしながら,上記英語表記のウェブサイトは,被告の製造する製品の一つとして,「Slim ODD Motor」を全世界に向けて紹介するものであり,日本語で表記された「Slim ODD Motor」の販売・製造に関する問合せフォーム(甲7〜9)についても,プルダウンの選択次第で様々な製品に変更ができるものであり(乙7の1),品番や具体的な仕様についても何ら示されていない。そうであるから,同フォームが表示されていることをもって,被告物件につき譲渡の申出があったとは認められない。


 また,被告のウェブサイトの中には,被告物件のうち一部の品番(DMBSFC06M)が掲載されているページ(甲4−1−2)も過去には存在したが,同ページが英語で表記されていることに加え,同ページには当該品番のモータの定格電流,定格電圧,騒音及び振動が示されているにすぎず,同モータの他の具体的な仕様については何ら示されていないのであり,また問合せフォームにもリンクしていないのであるから,当該品番のモータの一般的な紹介にとどまるというべきであり,同モータについて,我が国において譲渡の申出があったとは認められない。


 したがって,被告が,上記ウェブサイトにおいて被告物件の譲渡の申出をしたとは認められない。


 ・・・省略・・・


 また,同営業部長は,その陳述書(甲6)において,被告の従業員が日本法人である「A社」や「B社」を訪問して営業活動を行ったとの情報を入手した旨陳述する。


 しかし,同陳述記載は,伝聞に基づくものであり,その情報の入手経路も明らかでない上,「A社」や「B社」の具体的な会社名も明らかにしておらず,同事実を争う被告にとって十分な反証をなし得ないものであるから,同陳述記載の内容をたやすく真実と認めることはできない。


エ 被告の経営顧問の名刺

 原告は,被告の経営顧問であるXが日本国内で営業活動をしていると主張する。

 たしかに,日本語で標記された被告の「経営顧問」の肩書を付した同人の名刺(甲3)からすると,同人が我が国において被告の何らかの業務に携わっていることが推認できる。


 しかし,同証拠のみによっては,Xが我が国において具体的な営業活動を行ったという事実を推認することはできず,まして同人が我が国において被告物件の譲渡の申出をしたことを窺わせるものとはいえない。


オ 送達の経緯

 原告は,本件訴状が我が国において被告に一旦送達できたことを主張する。

しかし,送達の経緯をもって,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出をしたことを推認することができないことは当然である。


カ小括

以上のとおり,本件全証拠をもってしても,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出を行った事実を認めるに足りない。


 よって,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求については,被告が我が国において特許権侵害行為をし,同行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されたものとはいえないから,民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍を認めることはできない。


(2)上記のように,不法行為に基づく損害賠償請求について,我が国に民訴法に規定する裁判籍が認められないのであるから,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があるかどうかについて判断するまでもなく,同請求について我が国に国際裁判管轄を肯定することはできない。


特許権侵害差止請求について

(1) 原告は,特許権侵害差止請求について管轄原因を主張していないが,他方で,本件は日本国特許権の侵害に係る訴訟であり,我が国の裁判所において侵害の有無を判断することが最も適切であると主張し,譲渡の申出のおそれがあるとも主張する。


 たしかに,原告は,日本国特許権である本件特許権に基づいて,我が国における被告物件の譲渡の申出の差止めを求めているのであり,準拠法も本件特許権の登録国法である日本国特許法になると解される最高裁判所平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)。


 したがって,我が国における譲渡の申出の事実が証明されなかった場合であっても,そのおそれを具体的に基礎づける事実(そのおそれが抽象的なおそれでは足りず,具体的なものであることを要するのは当然である。)が証明された場合には,条理により,我が国の国際裁判管轄を肯定する余地もある。


 しかしながら,前記2(1)で認定・説示したとおり,本件においては,我が国において被告物件の譲渡の申出がなされたとは認められず,また,同認定事実からは,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出をする具体的なおそれがあると推認することもできず,他にそのおそれがあることを具体的に認定し得る証拠はない。


(2) よって,特許権侵害の差止請求についても,我が国の国際裁判管轄を肯定することはできない。


第5 結論

 以上のとおり,本件訴えは,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求に係るもの及び特許権侵害の差止請求に係るもののいずれについても,我が国の国際裁判管轄が認められないものであるから,訴訟要件を欠くものとして,これを却下することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して主文のとおり判決する。』

 と判示されました。


 なお、同日に出された、

● 『平成20(ワ)9736 特許侵害予防等請求事件 特許権 平成21年11月26日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091204170438.pdf)、


●『平成20(ワ)9732 特許侵害予防等請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年11月26日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091204164831.pdf

 についても同様の判断のようです。


 詳細は、本判決文を参照してください。