●平成21(行ケ)10075 審決取消請求事件 商標権「太極柔力球」

Nbenrishi2009-12-03

 本日は、『平成21(行ケ)10075 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「太極柔力球」平成21年11月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091201104629.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録の無効審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法3条1項3号および商標法4条1項16号該当性の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知材高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


『エ 商標法3条1項3号該当性

(ア) 商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁[判例時報927号233頁]参照)。


 そして,前記ア〜ウ認定のとおり,本件商標である「太極柔力球」は,本件商標の登録査定(平成16年8月10日)時に,中国において,本件運動を指すスポーツの名称として一般的に用いられていたものであって,日本においても,本件運動は,中国生まれのスポーツとして,「太極柔力球」という名称で知られていたものと認められるのであり,前記(1)認定の各事実によっても,本件商標の登録査定(平成16年8月10日)時に,本件商標が原告X2の活動を指すものであるとの識別力を有したとまでいうことはできないから,本件商標は,その指定役務中,「太極柔力球の興行の企画・運営又は開催」・「太極柔力球のための運動施設の提供」・「太極柔力球のための娯楽施設の提供」及び「太極柔力球のための運動用具の貸与」については,その役務の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであるというべきである。


(イ) 原告らは,原告X2は,本件運動を日本に紹介するに当たり,用語を工夫するなど,初めて本件運動を目にする人に受け入れやすい方法をいくつも考案したとの主張をする(前記第3,1(3)ア(エ)c)。このうち,「太极柔力球」という中国語表示を日本語の「太極柔力球」と表示し,その読みを「たいきょくじゅうりょくきゅう」と設定したとの点については,前記(1)アのとおり,「极」は「極」の簡体字で,字としては同一であること,「たいきょくじゅうりょくきゅう」という読みが日本語として通常のものであることからすると,原告X2の貢献と評価することができないものであるし,その余の点については,原告X2が本件運動を日本に紹介するに当たり,用語等について工夫・努力をしたというにとどまり,上記(ア)の認定を左右するに足りるものではない。


 また,Aと原告X2の間における2003年(平成15年)8月12日付けの合意(甲91)は,前記(1)ウ(オ)認定のとおりのものであるが,このような合意があるからといって,上記(ア)の認定が左右されるものではない。さらに,本件商標登録の出願(平成15年8月12日)当時,日本においては,原告X2以外には「太極柔力球」という名称で本件運動の普及活動を行っている者はいなかったとしても,本件商標の登録査定(平成16年8月10日)時には,被告やその他の第三者も本件運動の普及活動を行っていたことは,前記(1)エ認定のとおりであって,このようなこからしても,上記(ア)の認定が左右されるものではない。


(ウ) したがって,本件商標は,その指定役務中,「太極柔力球の興行の企画・運営又は開催」・「太極柔力球のための運動施設の提供」・「太極柔力球のための娯楽施設の提供」及び「太極柔力球のための運動用具の貸与」については,その商品又は役務の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)であるとの審決に判断に誤りがあるということはできないから,取消事由1,2は理由がない。


3 本件商標が商標法4条1項16号に該当するとした審決の適否(取消事由3)について

(1) 前記2(2)エ(ア)のとおり,本件商標である「太極柔力球」は,本件商標の登録査定(平成16年8月10日)時に,中国において本件運動を指すスポーツの名称として一般的に用いられていたものであって,日本においても,本件運動は中国生まれのスポーツとして「太極柔力球」という名称で知られていたものと認められるから,本件商標は,その指定商品「太極拳の指導に用いられる運動用具」に使用する場合は,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあり,また,その指定役務中「太極拳の指導に関する技芸・スポーツ又は知識の教授」及び「太極柔力球の興業の企画・運営又は開催,太極柔力球のための運動施設の提供,太極柔力球のための娯楽施設の提供,太極柔力球のための運動用具の貸与」以外の「スポーツの興業の企画・運営又は開催,運動施設の提供,娯楽施設の提供,運動用具の貸与」に使用する場合は,役務の質の誤認を生ずるおそれがある(商標法4条1項16号)ということができ,その旨の審決に誤りがあるということはできない。


(1) この点について,原告らは,本件運動は,太極拳の理論を現代球技に応用したものであって,原告らによる本件商標を用いた本件運動の指導は,太極拳の真髄を指導することにも繋がると主張する。


 しかし,本件運動は太極拳の動きを取り入れた球技であるとしても,本件運動と太極拳とは別異の運動(スポーツ)であることは明らかであるから,本件商標を指定商品「太極拳の指導に用いられる運動用具」に使用する場合は,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあり,また,その指定役務中「太極拳の指導に関する技芸・スポーツ又は知識の教授」に使用する場合は,役務の質の誤認を生ずるおそれがあるというべぎである。


(3) したがって,取消事由3も理由がない。


4 結論

 以上によれば,原告ら主張の取消事由は全て理由がない。

 よって,原告らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 なお、本判決文文中で引用している最高裁判決は、

●『昭和53(行ツ)129 商標権 行政訴訟「ワイキキ事件」昭和54年04月10日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314100256.pd)

 であり、この最高裁判決中では、

商標法三条一項三号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であつて、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であつて、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。


 叙上のような商標を商品について使用すると、その商品の産地、販売地その他の特性について誤認を生じさせることが少なくないとしても、このことは、このような商標が商標法四条一項一六号に該当するかどうかの問題であつて、同法三条一項三号にかかわる問題ではないといわなければならない。


 そうすると、右三号にいう「その商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」の意義を、所論のように、その商品の産地、販売地として広く知られたものを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであつて、これを商品に使用した場合その産地、販売地につき誤認を生じさせるおそれのある商標に限るもの、と解さなければならない理由はない。』


 と判示されています。

 詳細は、本判決文を参照してください。