●平成21(行ケ)10085 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

Nbenrishi2009-12-01

 本日は、『平成21(行ケ)10085 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「パンツ型の使い捨て着用物品」平成21年11月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091130165157.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、進歩性である容易想到性の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大須賀滋、裁判官 齊木教朗)は、


『(2) 本願補正発明の容易想到性の判断

ア上記(1)の認定によれば,本願補正発明と引用例1記載の発明は,ともにパンツ型の使い捨て着用物品であって,伸長状態で取り付けた胴周り用弾性部材を用いることにより,おむつがずれ落ちること,局所的に締め付け過ぎる部分が生じること,肌から離間して漏れが生じること,しわが寄ることを防止し,優れたフィット性を実現させるという発明の解決課題において共通する。


 そして,本願補正発明も引用例1記載の発明も,吸収性コア(吸収体)に重なる第2伸縮域の胴周り用(胴回り)弾性部材の伸長率を,重ならない部分である第1伸縮域の伸長率に対して低くし,第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力が,第2伸縮域の伸長応力よりも大きくする構成としている点において共通し,その効果においても相違はない。


 本願補正発明と引用例1記載の発明は,パンツ型の使い捨て用着用物品を身体に装着する際の締め付け力の調整手段として,本願補正発明では胴周り用弾性部材の本数を変更することにより行うものであるのに対し,引用例1記載の発明では,使い捨て用着用物品に胴周り用弾性部材を取り付ける際の伸長率を変更することによって行うものである点のみが相違する(本願補正発明で伸長応力の数値範囲に関し限定されている点の相違点については別途言及する。)


イ 前記のとおり,引用例2記載の発明のパンツ型衛生ナプキンは,パンツ型の使い捨て用着用物品に関するものであり,引用例2記載の発明のうちウエスト弾性体4,5に係る技術的事項は,当該着用物品を身体に装着する際の締め付け力を,弾性糸の本数を変更することによって調整し,吸収体のしわの発生を防止し,優れたフィット性を実現するための技術である。


 引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とは,共にパンツ型使い捨て用着用物品に関するものであって,その技術分野において共通し,また,引用例1記載の発明において胴周り用弾性部材を着用物品に取り付ける際の伸長率を変更する手段と,引用例2記載の発明のうち,弾性糸の本数を変更する手段(ウエスト弾性体4,5に係る技術)は,パンツ型の使い捨て用着用物品を身体に装着する際の締め付け力の調整手段であるという点において共通する。


 そうすると,引用例1記載の発明の締め付け力調整手段に代えて,引用例2記載の発明の締め付け力調整手段を採用することは,当業者が容易に行うことができるものといえる。


 また,その最適な締め付け力も,パンツ型の使い捨て用着用物品を構成する材料,その着用者の体型,用途などに応じて様々に変化するはずであり,実際に製品化する際に,着用感を勘案しつつ適宜設定することが予定されている事項であるといえるから,胴周り用弾性部材の伸長応力の数値範囲を本願補正発明のように限定することは,当業者にとっては,任意の設計的事項であるといえる。


ウ 以上のとおり,引用例1記載の発明に引用例2記載の発明(ウエスト弾性体4,5に係る技術的事項)を適用して本願補正発明の相違点に係る構成にすることは,当業者であれば容易に想到し得ることであり,これと同旨の審決の判断に誤りはない。


(3) 原告の主張に対する判断

ア 原告は,?ウエストを部分的に締め付ける引用例2記載のウエスト弾性体4,5に係る技術的事項を,引用例2の第2吸収パッド10と重ね,本願補正発明において胴周り全体の肌への密着のために用いて第1及び第2補助弾性部材とすることは容易に着想されない,?引用例2の第2吸収パッド10は,薄くて可撓性が高く,弾性部材で押さえ付けたりしなくても着用者の肌に密着しやすいから,これにウエスト弾性体4,5に係る技術を用いて肌に押さえ付ける必要性がない上,弾性バンドを重ねるとしわが生じるから,第2吸収パッド10にウエスト弾性体4,5を重ねることを着想するはずがない,?引用例2記載の発明と本願補正発明とでは,衛生用品に係るものであるという点では共通するものの,その特徴部分が大きく異なり,解決しようとする課題や,作用・効果も全く異なるものであり,これらを同じ技術分野として論じることができないなどと主張する。


 しかし,引用例1記載の「使い捨てパンツ型おむつ」の発明において,補助弾性部材を用いた第1伸縮域と第2伸縮域の構成に関し,引用例2記載の「パンティ型衛生ナプキン」のうち,弾性部材の数を部分的に異ならせるとの技術的事項を適用することによって,本願補正発明の第1及び第2伸縮域に係る構成に容易に想到できることは前記(2)のとおりであるから,これと異なる前提に立った原告の主張は,採用の限りでない。


イ 原告は,引用例2記載のウエスト弾性体は,着用者の腰骨における狭い範囲でナプキンを保持するものであるのに対し,引用例1記載の弾性部材は広い範囲でおむつを身体にフィットさせるもので,その機能,用途が異なり,引用例1と引用例2を組み合わせることはできず,組み合わせたとしても,弾性部材が引用例1のおむつにおける開口縁に沿ってのみ配置されることになり,本願補正発明の構成になり得ない旨主張する。


 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,引用例1と引用例2の弾性部材が,パンツ型の使い捨て着用物品装着のために,身体への締め付けを行う点で共通するから,組み合わせに困難な点はない。また,引用例1の胴周り用弾性部材は,吸液性コア(吸収体)を身体から離れないようにするという機能も有するから,弾性部材の本数を変更することにより締め付け力の調整を行うという引用例2記載の発明の技術思想を引用例1に適用するに当たり,引用例1の胴周り用弾性部材開口縁に沿ってのみ配置しなければならない必然性はないというべきである。


 以上のとおり,原告の主張は理由がない。


ウ 原告は,本願補正発明は,第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力を0.2〜2.0N/25mmの範囲に,第2伸縮域の最大伸長時における伸長応力を0.1〜0.6N/25mmの範囲に,それぞれ設定したことにより格別の効果を奏するものであるから,伸長応力をこれらの範囲に設定することは,当業者が適宜決め得る設計的事項ではない,と主張する。


 しかし,原告の上記主張は,理由がない。すなわち,本願補正発明が,第1伸縮域の最大伸長時における伸長応力を0.2〜2.0N/25mmの範囲に,第2伸縮域の最大伸長時における伸長応力を0.1〜0.6N/25mmの範囲に,それぞれ設定するのは,おむつのずれ落ちや,必要以上の強い締め付けを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させず,漏れを防ぎ,吸収性コアがしわになりにくくするためであり(甲4,段落【0024】),引用例1記載の発明も,使い捨てパンツ型おむつのずれ落ちを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させず,漏れを防ぎ,吸収性コアがしわになりにくくするためのものである(甲1,段落【0006】,【0007】)。そして,パンツ型の使い捨ておむつのずれ落ちや,締め付け力,漏れ,吸収性コアのしわのより方は,その用途(幼児用か大人用か,失禁用か)や素材によっても相違すると考えられるから,当業者であれば,ずれ落ちを効果的に防止し,締め付け力を局所的に集中させず,漏れを防ぎ,吸収性コアがしわになりにくくするため,使い捨てパンツ型おむつの用途や吸収性コアの素材などの相違に対応して,締め付け機能を有する弾性体の伸長応力を適宜調整することは当然に行うと予想される事項であり,その調整による効果も当業者の予想の範囲内であるといえるから,第1伸縮域,第2伸縮域の伸長応力を本願補正発明で特定した範囲内の伸長応力とすることは,当業者が適宜決め得る設計的事項であるということができる。よって,これと同旨の審決の判断に誤りがあるとはいえない。


2 結論

 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。