●平成21(行ケ)10157等 審決取消当事者参加事件 特許権 行政訴訟

Nbenrishi2009-11-24

 本日は、『平成21(行ケ)10157等 審決取消当事者参加事件 特許権 行政訴訟「多色発光有機ELパネルおよびその製造方法」平成21年11月19日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091124090339.pdf)について取り上げます。


 本件は、訂正審判請求の棄却審決を一度、取り消す旨の判決(第1次判決)が出され、再度、本件訂正審判請求事件が特許庁で審理され、訂正不可分等を理由として,再び請求不成立の審決(第2次審決)が出されたため、その審決の取消しを求めた審決取消訴訟事件で、再度審決が取り消され、その請求が認容された事案です。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 今井弘晃)は、


『1 請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。


2 そこで,平成20年9月17日になされた本件審決が確定判決である第1次判決(平成20年5月28日付け)の拘束力に反する判断をしたかについて検討する。


(1) 特許に関する審決の取消訴訟において審決取消判決が確定したときは,審判官は特許法181条5項の規定に従い当該審判事件について更に審理・審決をすることになるが,審決取消訴訟行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理・審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるから,審判官は取消判決のなした事実認定及び法律判断に抵触する認定判断をすることは許されないことは明らかである最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・昭和63年(行ツ)第10号民集46巻4号245頁)。そして,前記のとおり,平成19年2月16日になされた第1次審決は,平成20年5月28日に言い渡された第1次判決により取り消され,その理由は第3,1(1)エのとおりであり,同判決は確定したのであるから,本件審決を担当する審判官は,第1次判決の有する拘束力の下で認定判断しなければならないこととなる。


 ところで,第1次判決は,前記のとおり,「原告からなされた平成18年9月13日付けの本件訂正審判請求(甲4)は,旧請求項1〜7を新請求項1〜7等に訂正しようとしたものであるところ,その後原告から平成19年1月15日付けでなされた上記訂正審判請求書の補正(甲7)の内容は新請求項3・5・7を削除しようとするものであり,同じく原告の平成19年1月15日付け意見書(甲6)にも新請求項1・2・4・6の訂正は認容し新請求項3・5・7の訂正は棄却するとの判断を示すべきであるとの記載もあることから,審判請求書の補正として適法かどうかはともかく,原告は,残部である新請求項1・2・4・6についての訂正を求める趣旨を特に明示したときに該当すると認めるのが相当である。


 本件における上記のような扱いは,原告が削除を求めた新請求項3・5・7は,その他の請求項とは異なる実施例(『本発明の異なる形態』,『実施例2』)に基づく一群の発明であり,発明の詳細な説明も他の請求項に関する記載とは截然と区別されており,仮に原告が上記手続補正書で削除を求めた部分を削除したとしても,残余の部分は訂正後の請求項1・2・4・6とその説明,実施例の記載として欠けるところがないことからも裏付けられるというべきである。


 そうすると,本件訂正に関しては,請求人(原告)が先願との関係でこれを除く意思を明示しかつ発明の内容として一体として把握でき判断することが可能な新請求項3・5・7に関する訂正事項と,新請求項1・2・4・6に係わるものとでは,少なくともこれを分けて判断すべきであったものであり,これをせず,原告が削除しようとした新請求項3・5・7についてだけ独立特許要件の有無を判断して,新請求項1・2・4・6について何らの判断を示さなかった審決の手続は誤りで,その誤りは審決の結論に影響を及ぼす違法なものというほかない。」(甲9,64頁下9行〜65頁15行)等とするものであり,一方,本件審決(第2次審決)は,「以上のとおり,本件訂正請求は,複数の請求項について訂正を求めるものであり,訂正発明3,5及び7に係る発明は,訂正要件を満たさないものであり,訂正発明1,2,4及び6に係る発明は,訂正要件を満たすものである。ここで,平成20年7月10日言渡の最高裁判所判決(平成19年(行ヒ)318号)を参照するに,該判決では,『複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。』(判決5頁)と判示されていることから,訂正事項の一部にでも訂正要件を満たさない部分があれば,訂正審判請求は,一体として棄却されることとなる。これを本件訂正審判請求に当てはめてみると,本件訂正審判請求が一部訂正要件を満たす部分があるとしても,訂正審判請求は,その全体を一体不可分のものとして取り扱われなければならず,結局,一体として棄却すべきものである。」(33頁9行〜22行)等としたものである。


 そうすると,第1次判決が請求項1・2・4・6項と請求項3・5・7項とは分けて判断すべきであるとして第1次審決を取り消しているのに,本件審決(第2次審決)が請求項1〜7項の全体を一体不可分のものとして取扱うべしとして訂正審判請求を不成立としていることは,被告主張の最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決(平成19年(行ヒ)第318号民集62巻7号1905頁,前述した「平成20年最高裁判決」)を考慮しないとすれば,第1次判決の拘束力に反する判断をしていることになる。


(2)ア これに関して被告は,行訴法33条1項に基づく拘束力は処分時以降に事情変更が生じた場合には及ばないところ,平成20年最高裁判決は第1次判決が依拠した昭和55年最高裁判決の射程を限定し,また訂正審判請求について一体として判断すべきことを判示しているから,これは処分時以降の事情変更に当たり本件審決に拘束力違反はない等と主張し,一方,これに対し当事者参加人は,被告の主張は取消判決の拘束力が法的拘束力であるのに対し判例の効力が事実上の効力であるという差異を看過するものである,平成20年最高裁判決は特許異議申立てにおいて訂正請求がなされた場合について訂正の許否を請求項ごとに判断すべきことを判示したもので,訂正審判請求に関する見解部分は傍論にすぎず,判例としての効力を生じない,等と反論する。


イ 被告が事情変更に当たるとする最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決(平成19年(行ヒ)第318号民集62巻7号1905頁)は,特許庁がなした特許取消決定の取消しを求める訴訟についての判示であり,最高裁判所民事判例集62巻7号1905頁以下に記載された判決要旨は「特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されない。」とするものであり,判決の原文は「(1) 特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである。一方で,特許法は,複数の請求項に係る特許ないし特許権の一体不可分の取扱いを貫徹することが不適当と考えられる一定の場合には,特に明文の規定をもって,請求項ごとに可分的な取扱いを認める旨の例外規定を置いており,特許法185条のみなし規定のほか,特許法旧113条柱書き後段が『二以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。』と規定するのは,そのような例外規定の一つにほかならない(特許無効審判の請求について規定した特許法123条1項柱書き後段も同趣旨)。(2) このような特許法の基本構造を前提として,訂正についての関係規定をみると,訂正審判に関しては,特許法旧113条柱書き後段,特許法123条1項柱書き後段に相当するような請求項ごとに可分的な取扱いを定める明文の規定が存しない上,訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特許法126条5項,128条参照)にも照らすと,複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。これに対し,特許法旧120条の4第2項の規定に基づく訂正の請求(以下『訂正請求』という。)は,特許異議申立事件における付随的手続であり,独立した審判手続である訂正審判の請求とは,特許法上の位置付けを異にするものである。訂正請求の中でも,本件訂正のように特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とするものについては,いわゆる独立特許要件が要求されない(特許法旧120条の4第3項,旧126条4項)など,訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており,訂正審判請求のように新規出願に準ずる実質を有するということはできない。そして,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる特許異議に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許異議事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになる。以上の諸点にかんがみると,特許異議の申立てについては,各請求項ごとに個別に特許異議の申立てをすることが許されており,各請求項ごとに特許取消しの当否が個別に判断されることに対応して,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるものと考えるのが合理的である。被上告人は,発明を表現する明細書は常にその全体が一体不可分のものとして把握されるべきであると主張するが,昭和62年法律第27号による特許法の改正により,いわゆる一発明一出願の原則を定めていた規定が削除され,しかも一発明に複数の請求項の記載をすることが認められるようになったことを考えると,同改正後の特許法の下で,上記のように解すべき根拠を見いだすことはできない。前掲最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決は,いわゆる一部訂正を原則として否定したものであるが,複数の請求項を観念することができない実用新案登録請求の範囲中に複数の訂正事項が含まれていた訂正審判の請求に関する判断であり,その趣旨は,特許請求の範囲の特定の請求項につき複数の訂正事項を含む訂正請求がされている場合には妥当するものと解されるが,本件のように,複数の請求項のそれぞれにつき訂正事項が存在する訂正請求において,請求項ごとに訂正の許否を個別に判断すべきかどうかという場面にまでその趣旨が及ぶものではない。(3) 以上の点からすると,特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないというべきである。(4) これを本件についてみると,上告人は,訂正事項aは特許請求の範囲の減縮を目的とする旨主張して,これを含む本件訂正の請求をしているところ,訂正事項aは,特許異議の申立てがされている請求項1に係る訂正であるから,他の請求項に係る訂正事項とは可分のものとして,個別にその許否を判断すべきものである。ところが,本件決定は,請求項2に係る訂正事項bが訂正の要件に適合しないことのみを理由として,請求項1に係る訂正事項aについて何ら検討することなく,訂正事項aを含む本件訂正の全部を認めないと判断したものである。これを前提として本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の認定をし,請求項1に係る部分を含む本件特許を取り消した本件決定には,取り消されるべき瑕疵があり,この瑕疵を看過した原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」等とするものである。


 一方,上記判決が引用する最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決(昭和53年(行ツ)第27号・28号民集34巻3号431頁,前述の「昭和55年最高裁判決」)は,実用新案権者のなした明細書の訂正審判請求の事案に関し,「…実用新案登録を受けることができる考案は,一個のまとまった技術思想であって,実用新案法39条の規定に基づき実用新案権者が請求人となってする訂正審判の請求は,実用新案登録出願の願書に添付した明細書又は図面(以下「原明細書等」という。)の記載を訂正審判請求書添付の訂正した明細書又は図面(以下「訂正明細書等」という。)の記載のとおりに訂正することについての審判を求めるものにほかならないから,右訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるときは事の性質上別として,本件のように実用新案登録請求の範囲に実質的影響を及ぼすものであるときには,訂正明細書等の記載がたまたま原明細書等の記載を複数箇所にわたつて訂正するものであるとしても,これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべく,これを形式的にみて請求人において右複数箇所の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものであると解するのは相当でない。それ故,このような訂正審判の請求に対しては,請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは格別,これがされていない限り,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決をすることができるだけであり,たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係にはないと認められ,かつ,右の一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のないことではないときであつても,その箇所についてのみ訂正を許す審決をすることはできないと解するのが相当である。」とするものであり,確定判決たる第1次判決は,訂正審判請求において可分的取扱いが許されるとした「一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したとき」に該当するとしたものである。


ウ 思うに,行訴法33条1項の定める拘束力を有する確定判決(第1次判決)がなされた後に別事件に関する最高裁の新たな法的見解が示されたからといって,当然に上記拘束力に影響を及ぼすと解することは困難であるのみならず,仮にこれを肯定する見解を採ったとしても,平成20年最高裁判決を被告主張のように解することもできない。


 すなわち,被告が事情変更の論拠とする平成20年最高裁判決は,前記のとおり,第三者申立てに係る特許取消事件の審理中に特許権者側から対抗的になされた訂正請求に関する事案についてのものであり,その判示も,訂正不可分を主張する特許庁の見解を否定し,改善多項制の法改正がなされた後においてはこれを可分と解するとしたものである。


 そして,訂正審判請求の場合はこれを不可分と解するとした部分は,訂正審判請求については,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているとの原則的な取扱いについて判示したものであり,昭和55年最高裁判決に依ってなされた第1次判決の例外的な取扱いを認めるべき場合についての判示,すなわち,請求人において複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは,それぞれ可分的内容の訂正審判請求があるとして審理判断する必要がある,との判示を否定するものとは解されない。


 このことは,平成20年最高裁判決が訂正審判請求に関する昭和55年最高裁判決を変更する趣旨を含まないことから明らかというべきである。


エ そうすると,平成20年最高裁判決は,昭和55年最高裁判決に依ってなされた第1次判決(取消判決)の拘束力に何らの法的影響を及ぼすものではないことになるから,被告の上記主張は採用することができない。


3 結論

 以上によれば,当事者参加人主張の取消事由は理由があり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。


 よって,当事者参加人の請求は理由があるから認容して,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。