●平成20(行ケ)10323 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

Nbenrishi2009-11-10

 本日は、『平成20(行ケ)10323 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成21年10月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091105140057.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取り消しを求めた審決取消訴訟請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、商標法4条1項8号該当性および法4条1項10号,15号及び19号該当性についての判断が参考になるか思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 森義之、裁判官 澁谷勝海)は、


3 法4条1項8号該当性について

(1) 法4条1項は,商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号,15号等の規定とは別に,8号の規定が定められていることからみると,8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。


 すなわち,人は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても,一般に氏名,名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には,本人の氏名,名称と同様に保護に値すると考えられる。


 そうすると,人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる(最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号597頁)。


 そして,上記のとおり,法4条1項8号が一定の人格的利益を保護するものであることからすると,ある商標登録が8号に該当すると判断されるためには,当該商標に係る人格的利益の帰属主体(自然人又は団体)が特定されることが必要であり,この特定は,当該商標が当該主体の肖像・氏名・名称を含むか否か,著名な雅号,芸名又は筆名を含むか否か,これらの著名な略称を含むか否かといった各要件該当性判断の論理的前提となるものである。


 しかも,法4条1項8号該当性の基準時は同号に違反したとされる商標登録の出願時及び登録査定時と解されるから,上記人格的利益の帰属主体ひいては上記著名性等はこれら基準時において現に存在することを要するし,人格的利益は一身専属的な権利であり相続の対象にはならないことからすれば,自然人の場合はその死亡により8号により保護すべき人格的利益が消滅し,8号該当性も消滅すると解すべきことになる。


(2) そこで,上記の見地から本件について検討すると,原告は,「極真」との語がAが創設し,Aの屋号である「極真会館」の著名な略称に該当するとの理解を前提としつつ,極真関連商標を相続により原告が承継した旨主張しており,これは,上記(1)に説示した法4条1項8号の「他人」すなわち人格的利益の帰属主体を,自然人であるAと特定し,「極真」をもってAを指称する著名な略称に該当することをいうものであると解される。


 しかし,本件商標の出願は前記のとおり平成14年10月22日であり,登録査定は平成16年2月18日であるところ,これら基準時においてAは既に死亡(平成6年4月26日死亡)しており,A死亡後はその保護すべき人格的利益は消滅しているから,その著名な略称について8号該当性を認める余地はない。


 したがって,原告の上記主張はそれ自体において失当といわなければならない。


(3) 次に,原告は,Aの「極真会館」を原告が承継し,これを現に運営していることを前提に(前記2のとおり,原告も一定の範囲で極真空手の教授等の活動を行っていると認められる),このような団体としての「極真会館」又は,仮に原告の運営する「極真会館」が原告の単なる屋号にすぎないのであれば自然人としての原告自身が,法4条1項8号の「他人」に当たるとして主張すると解することができるから,以下,この観点から検討する。


 ・・・省略・・・


オ また審決は,少なくともAの生前は「極真」の語が一般にAが代表者として運営する団体・組織である「極真会館」を表す標章として広く知られていたとの理解を前提としつつ,本件商標は「極真館」の文字全体をもって一体不可分の語と認識されるから,法4条1項8号の「著名な略称を含む」ということはできないとする(審決19頁26行〜28行)。


 しかし,前記(1)のとおり,法4条1項8号の趣旨は,人の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護するものであり,同号の文言が「著名な略称を含む」とするのみで使用態様に何ら留保を設けていないことからすると,8号の「著名な略称を含む」に該当するといえるためには,著名な略称が商標の構成中に他に紛れなく識別し得るものとして含まれていれば足りるのである。


 そして本件商標は,「空手道極真館」を標準文字で書して成るもので,「空手道」「館」は一般名詞に近い存在であり,その構成において「極真」の語を紛れなく識別可能であるから,原則として著名な略称を含むものということができ,審決の上記判断は法4条1項8号における「著名な略称を含む」との要件の解釈を誤るものというべきである。審判官は,前記のとおり,原告自身又は原告が運営する「極真会館」という団体が,前記各基準時において,上記Aの死亡後の状況を踏まえてもなお8号にいう「著名」性を有するものであるかについて審理し,その点を考慮した上で,「著名な略称を含む」といえるかについて審理判断すべきである。



4 法4条1項10号,15号及び19号該当性について

 法4条1項10号,15号及び19号は,基準時である出願時及び登録査定時の双方においてある商標が需要者の間に広く認識されている場合などに,当該商標が出所を表示する他人の業務との関係で商品又は役務の混同の防止を図ろうとする趣旨の規定であり,基準時である出願時及び登録査定時の双方において当該商標が表示する出所の主体(すなわち「他人」)を特定すべき点において,前記3(1)に説示したところと同趣旨が妥当する。

 そうすると,上記各規定該当性を判断する上では,前記3(3)に説示したとおり,Aの生前における「極真会館」に周知性が認められるだけでは足りず,原告自身又は原告が運営する「極真会館」という団体の上記各基準時における周知性やそれらの業務に係る商標と本件商標が類似するかどうかなどを審理判断しなければならない。


 しかるに,審決はこれらの点について審理判断をしておらず,審理不尽といわなければならない。

5 結論

 以上によれば,審判手続においてなされた資料に基づいて本件商標登録が法4条1項8号,10号,15号及び19号に違反しないとした審決の判断はいずれも誤りといわざるを得ず,原告の取消事由に関する主張は上記の限度において理由があるから,審決は違法として取消しを免れない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。