●平成21(行ケ)10071 審決取消請求事件 商標権「肌優」

Nbenrishi2009-11-01

 本日は、『平成21(行ケ)10071 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「肌優」平成21年10月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091028170404.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大須賀滋、裁判官 齊木教朗)は、


『1 商標法4条1項11号該当性判断の誤り(取消事由1)について

 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),以下,本件商標と引用商標との類否を判断するに当たって,上記の点を考慮して判断する。

(1) 取引の実情


 ・・・省略・・・


(2) 本件商標と引用商標の類否

 上記認定した事実を考慮して,本件商標と引用商標の類否を判断する。

ア 観念における対比

(ア) 引用商標の識別機能を有する部分について

 引用商標は,前記のとおり,中段に漢字「優肌」が,その上にひらがな「ゆうき」が,下段に欧文字「YU-KI」が,それぞれ横書きされ,中段と下段との間には,間隔が空けられて表記されている。


 上段に横書きされたひらがな「ゆうき」は,「優肌」の振り仮名を,下段に横書きされた欧文字「YU-KI」は,「優肌」の読みを,それぞれ示したものと理解されるから,「ゆうき」,「YU-KI」の部分は取引者,需要者の注目を惹く態様のものではなく,漢字で記載された「優肌」部分が,出所識別機能を有する特徴のある部分(要部)と解すべきである。


 この点について,被告は,「優肌」は造語であり,いくつかの読みがあるから,看者は,その読みを探索しようとして,振り仮名である上段の「ゆうき」部分,及び下段の「YU−KI」も平仮名部分を認識するから,「優肌」のみが,出所識別機能を有する部分とはいえないと主張する。


 しかし,上段のひらがな「ゆうき」部分は,漢字「優肌」部分の4分の1以下の大きさであること,通常の自体で表記され,特段注目を惹くものではないこと,称呼を示すために付加表記された趣旨が明らかであること,また,下段の欧文字「YU−KI」部分は,漢字「優肌」部分と大きさにおいて変わりがないが,独立の外国語として意味を有するものではないこと,上段と同様,読みを示すために付加記載された趣旨が明らかであることから,「ゆうき」部分及び「YU−KI」部分のいずれも,中央の「優肌」の称呼を確認した後には,看者に対して強い印象を与えるものではないといえる。前記(1)で認定した取引の実情等を考慮しても,引用商標の出所識別機能を有する部分は,中央に記載された漢字「優肌」部分というべきである。


(イ) 対比

a 引用商標は,漢字「優」の右に「肌」を配置させて,組み合わせた語からなる商標であって,「優」は,「優しい,優美な,優れた,優雅な,上品な,気品のある」等を意味する語(形容詞的に用いられる。)であり,「肌」は「人の体の表皮,皮膚」等を意味する語(名詞的に用いられる。)であり,既存の語ではないものの,消費者,需要者に対して,「肌に優しい」,「優しい肌」,「優美な肌」等の観念を生じさせる。


 本件商標も,漢字「肌」の右に「優」配置させて,組み合わせた語からなる商標であって,既存の語ではないものの,消費者,需要者に対して,「肌に優しい」,「優しい肌」,「優美な肌」等の観念を生じさせる。特に,左右の配置は異なるものの,漢字「肌」は名詞として,漢字「優」は修飾語として用いられることに照らすならば,配置の相違が観念の相違を来すことはなく,引用商標と本件商標は,観念において同一であるといえる。


 b 前記(1)で認定した取引の実情を踏まえると,引用商標からは,医療関係者を含む取引者,需要者に対して,「肌に優しい」等の観念を生じさせる。特に,造語であることに照らすならば,引用商標が需要者,取引者に対して,強い印象を与えるものというべきである。本件商標からも,医療関係者を含む取引者,需要者に対して,同様に「肌に優しい」等の観念を生じさせる。なお,指定商品中には,医療関係商品のみならず,衛生関係商品も含まれるが,その多くは肌(皮膚)に接して使用する商品であるといって差し支えないから,「肌に優しい」等の観念を生じる点で,変わりはない。


c そうすると,本件商標と引用商標は,観念において同一(又は類似)である。


イ 外観における対比

 前記アで述べたとおり,引用商標は,漢字「優」の右に「肌」を配置させて,組み合わせた語からなる商標であり,本件商標は,漢字「肌」の右に「優」配置させて,組み合わせた語からなる商標である。他方,本件商標は,引用商標中の漢字2字の左右を入れ替えて,配置,表記したものである。


 引用商標と本件商標とを対比すると,両者とも,?既存の語を利用した商標ではなく,新しく創作された語(造語)であるため,確定した固有の意味を有していないこと,?したがって,商標を構成する文字(漢字)そのものも持つ意味が,重要な判断の要素となること,?各商標を構成する2つの漢字,すなわち,「優」と「肌」とが共通すること,?「優」,「肌」の漢字は,いずれも指定商品と関連性の強い文字が選択されていること,?各商標とも,横書きであるため,取引者,需要者は,語順を正確に記憶して理解することが必ずしも容易でない場合があること等の諸点を総合考慮するならば,離隔的に観察するときには,両商標の外観は,紛らわしいものということができるから,両者は,外観においても,類似する。


ウ 称呼における対比

 本件商標は,「ハダヤサ」「ハダユウ」又は「キユウ」の称呼を生じるのに対し,引用商標は「ユウキ」の称呼を生じ得る。本件商標が「ハダヤサ」,「ハダユウ」との称呼を生じる限りにおいては,引用商標と本件商標とは,称呼において類似しない。また,本件商標が,「キユウ」との称呼を生じる場合においても,「キユウ」と「ユウキ」とでは,冒頭及び末尾の音が相違することから,称呼において類似しない。


エ 取引の実情等について

 前記(1)に認定したとおり,原告は,平成6年ころから,長年にわたって,引用商標中の「優肌」を含む商標(「優肌シリーズ」,「優肌」,「優肌絆」,「優肌包帯」,「ゆうきばん/優肌絆」,「優肌パミロール」,「優肌パーミエイド」等)を,原告の製造に係る商品(医療用粘着テープ,医療用粘着フィルム,医療用包帯等の商品)の包装箱に継続的に使用し,また,雑誌等の宣伝広告媒体に掲載していること,絆創膏等の商品について,複数のメーカーが存在するが,各メーカーは,例えば,ニチバンは「スキナゲート」,祐徳薬品工業は「ユートク」,スリーエムヘルスケアは「マイクロポア」の各商標を有して,互いに異なった商標を使用していること等の事情に照らすと,「肌優」が本件商標の指定商品に使用されると,取引者,需要者は,同一の出所に由来するものと誤認する可能性があるという意味で「優肌」と類似する商標と理解するというべきである。


オ小括

 以上のとおり,取引の実情を考慮して,本件商標と引用商標とを対比すると,観念及び外観において類似する。本件商標と引用商標がいずれも造語であり,特に本件商標については,複数の称呼が生じ得ることにかんがみると,本件商標と引用商標の類否を判断するに当たり,本件において称呼を重視するのは妥当とはいえない。


 本件商標に係る指定商品のうち,ばんそうこう,包帯,創傷被覆材が引用商標の指定商品と同一であり,その他の指定商品が引用商標の指定商品と類似することは当事者間に争いがない。


 そうすると,本件商標は,引用商標とその指定商品が同一又は類似する。


2 結論

 本件商標は,引用商標と類似し,その指定商品も同一又は類似であるから,商標法4条1項11号に該当し,商標法46条1項1号の無効事由がある。以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,審決の判断は違法であるから,これを取り消すこととし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 なお、本件は、外観および観念において類似するとした、

●『平成3(オ)1805  商標権 民事訴訟「大森林事件」平成4年09月22日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314105355.pdf)

 と同様の判断をしているものと思いました。

 ちなみに、本判決文中で引用されている最高裁判決は、

●『昭和39(行ツ)110 商標登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求 商標権 行政訴訟「氷山印事件」昭和43年02月27日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C20EFADEA9BCA1F249256A850031236C.pdf)

 です。


 詳細は、本判決文を参照してください。