●平成21(行ケ)10049審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「細断機」

 本日は、『平成21(行ケ)10049 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「細断機」平成21年10月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091028170144.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(分割出願の要件の認定判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大須賀滋、裁判官 齊木教朗)は、


1 取消事由1(分割出願の要件の認定判断の誤り)

 原告は,分割出願に際して本件原出願明細書から削除された構成である「本件連結材」は,細断機の作動時にも非作動時(揺動側壁の開放時)にも,細断機として必要な剛性を確保する上で不可欠な構成要素ではなく,その削除は,新たな技術的意義を追加するものでもないし,当業者であれば,本件原出願明細書において「本件連結材」を有しない発明が記載され,又は「本件連結材」が任意の付加的事項であることが記載されているのも同然であると理解することができるから,本件分割出願は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであり,分割出願の要件を充足する,よって,分割出願の要件を欠くとした審決は,分割出願の要件に係る認定判断を誤ったものであり,違法なものとして取り消されるべきである旨主張する。


 しかし,原告の上記主張は,以下に述べるとおり,理由がない。


(1) 事実認定

 本件原出願明細書(甲2)の【特許請求の範囲】においては,出願に係る細断機が「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」を有する構成が記載されている。また,本件原出願明細書の【発明の詳細な説明】においても,「【発明の目的】本発明は,メンテナンスが行ないやすく,且つ,部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供することを目的とするものである。」(段落【0002】)と記載されるとともに,「【発明の効果】・・・請求項1の発明によれば,前後の揺動側壁が開くので,メンテナンスが行ないやすい。また,2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る。更に,2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」(段落【0004】)と記載されている。さらに,【発明の実施の形態】を説明した【図3】,【図5】及び【図7】においても,「本件連結材」が明確に示されている(別紙「本件原出願明細書図面」【図3】,【図5】及び【図7】の符号12参照)。

(2) 判断

 以上のとおり,本件原出願明細書には,発明の目的を「メンテナンスが行ないやすく,且つ,部品点数を少なくしつつも剛性の大きな(強度の高い)細断機を提供すること」とし,具体的には「前後の揺動側壁が開くので,メンテナンスが行ないやすい。」,また,「2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくすることが出来る。」,更に,「2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」発明が記載,開示されている。


 そうすると,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」(本件連結材)は,細断機の剛性を大きくするという発明の解決課題を達成するための必須の構成であり,本件原出願明細書には,同構成を有する発明のみが開示されており,同構成を具備しない発明についての記載,開示は全くなく,また,自明であるともいえない。


 したがって,本件原出願明細書の特許請求の範囲に記載された,「左右の固定側壁の上部前部に渡し止められた連結材」との記載部分を本件原出願明細書の「特許請求の範囲」の記載から削除したことは,細断機の剛性確保に関して,新たな技術的意義を実質的に追加することを意味するから,本件分割出願は,もとの出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものではなく,分割出願の要件を満たしていないから,不適法である。


(3) 原告の主張について

ア 原告は,細断機の作動時の剛性を確保するためには,ロック機構46により揺動側壁を固定側壁に固定させて一体化することこそが不可欠な技術事項であって,「本件連結材」は固定側壁と揺動側壁とを一体化することに何らの寄与もせず,本来的な技術的意義を有しないから,本件原出願明細書には「本件連結材」を有しない発明が記載され,又はその記載から自明であるから,適法な分割出願であると主張する。


 しかし,原告の上記主張は失当である。すなわち,本件原出願明細書における「2本の支持軸と1本の連結材で左右の固定側壁を連結するので,細断機の剛性を大きくする」(段落【0004】)との記載に照らすならば,本件原出願明細書に記載された発明においては,細断機の剛性確保のための解決手段としては,作動時であると非作動時であるとを問わず,2本の支持軸と1本の連結材(本件連結材)により左右の固定側壁を連結する構成を採用するものであると解すべきである。これに対して,原告が主張する上記構成,すなわち,ロック機構46により揺動側壁と固定側壁を固定させ一体化させることによって細断機の剛性確保を図るとの構成は,作動時のみの剛性確保の手段にすぎない上,本件原出願明細書においては,そのような剛性確保の構成を説明する記載はないから,「本件連結材」を有しない発明が本件原出願明細書に記載され,又はその記載事項から自明であるとはいえない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。


イ また,原告は,非作動時(揺動側壁の開放時)においても,「本件連結材」は,細断機が作動しないがゆえに何らの細断荷重も受けないので,ボルト等により左右の固定側壁を基板2上に強固に固定し,かつ細断機の作動時の強度的必要性の観点からは左右の固定側壁に十分な厚みを持たせて設計製作すればよいことは当業者にとって技術常識であるから,左右の固定側壁の上部が自由に動くということはなく,揺動側壁の開放時においても,機械設計上,「本件連結材」は,重要な役割を果たさない,よって,「本件連結材」は,本件原出願明細書に記載された発明において不可欠な構成ではなく,これを削除しても分割出願の要件に違反しない,と主張する。


 しかし,原告の上記主張も失当である。すなわち,本件原出願明細書に記載された発明においては,細断機の剛性確保の解決手段としては,作動時であると揺動側壁の解放時であるとを問わず,2本の支持軸と1本の連結材(本件連結材)により左右の固定側壁を連結する構成を採用するものであると理解されることは,前記説示のとおりである。また,揺動側壁の解放時(非作動時)には細断荷重を受けないので,作動時の強度的必要性の観点からは十分な厚みをもった左右の固定側壁をボルト等で基板2上に強固に固定すれば足りる等の原告の主張も,本件原出願明細書の記載に基づく主張とはいえないから,原告の上記主張は採用できない。


ウ さらに,原告は,「前記支持軸10は,揺動側壁11を揺動自在に支持する枢軸と固定側壁9を連結する連結材としての機能を有している。」との段落【0006】の記載からすると,当業者であれば,支持軸10が「本件連結材」の代わりになり,「本件連結材」を削除して部品点数を少なくさせ得ることを理解できるから,本件原出願明細書には,「本件連結材」を具備しない発明も記載されているのも同然である旨主張する

 しかし,原告の上記主張も失当である。

 すなわち,本件原出願明細書(甲2)の段落【0004】【発明の効果】には「2本の支持軸が,揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁を連結する連結材とを兼ねているので,部品点数を少なくしてコスト低減を図ることが出来る。」と記載されていることからすれば,前記段落【0006】の記載は,固定側壁の前後部下部に渡し止められた支持軸10(【図5】,段落【0006】参照)が細断機の下部において揺動側壁の枢軸と左右の固定側壁の連結材の両方の機能を兼ねていることを意味しているにすぎないものであって,段落【0006】の記載をもって,下部の支持軸10が固定側壁の上部前部に渡し止められた「本件連結材」の代わりになること,及び「本件連結材」を備えない発明が開示されているものと理解し,又は,それらが自明であるものと理解することはできない。


2 取消事由2(本件特許発明の新規性又は進歩性の認定判断の誤り)

原告は,本件分割出願は,分割出願の要件を満たしており,その出願日は本件原出願の日である平成14年9月19日に遡及し,その出願日後である平成16年4月8日に公開された本件引用刊行物は,引用刊行物になり得ないから,本件引用刊行物を引用刊行物として特許法29条1項3号の規定,又は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとし,同法123条1項2号の規定により無効であるとした審決は誤りである,と主張する。


しかし,原告の上記主張は理由がない。すなわち,原告主張の取消事由1は前記説示のとおり理由がなく,本件分割出願は,旧特許法44条1項の分割出願の要件を満たさず,不適法なものであって,出願日の遡及を認めることができず,本件引用刊行物は本件分割出願の引用刊行物になり得るから,本件引用刊行物が引用刊行物になり得ないことを前提とする原告の上記主張は理由がない。


3 結論

以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告は,その他にも縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。