●平成21(行ケ)10074 審決取消請求事件 商標権「INTELLASSET」

Nbenrishi2009-10-22

 本日は、『平成21(行ケ)10074 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「INTELLASSET」平成21年10月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091022111326.pdf)について取り上げます。


 本件は、4条1項8号を理由とする商標登録無効審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、本件商標の法4条1項8号該当性(著名略称を含む商標)の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 真辺朋子)は、


『1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。


本件商標の法4条1項8号該当性(著名略称を含む商標)の有無について

(1) 本件における基礎的事実関係

 ・・・省略・・・

ア 原告は,平成12年12月11日に各種事業及び各種企業に対する経営上の諸問題に対する総合的な研究調査の受託及び経営相談等を目的として設立された会社で,「損益計算書貸借対照表から企業の問題点を分析し,財務指標の向上に最適な資本構成の計画などを提案しようとする,いわゆるベンチャー企業であり,本件商標は,「知的資産」を英訳した「intellectual asset」を参考にして「INTELLASSET」という造語をしたものである。


イ 一方,被告は,集積回路の研究,開発,製造及び販売を事業の主軸とする企業として,1968年(昭和43年)7月にアメリカ合衆国カリフォルニア州で設立された会社で,その社名である「Intel Corporation」のうちの「Intel」の部分は,「INTegrated ELectronics(集積されたエレクトロニクス)」の2語の語頭部分(大文字で表記)を語源として造語されたものである。

 ・・・省略・・・

 以上のような事情から,被告の略称である「INTEL」は,本件商標が出願された平成14年(2002年)6月12日時点及び登録査定がされた平成15年2月19日の各時点において,パソコン関連の商品及び役務を取り扱う業界においてはもとより,パソコンを職場や家庭等において使用する我が国の一般消費者の間においても被告の略称を表示するものとして広く認識されている。


(2) 事案に鑑み,法4条1項8号における「含む」の意義の観点から,審決の当否について判断する(取消事由2)。


ア 本件商標の内容は,前記のとおりであり,文字部分「INTELLASSET」のうち冒頭の5文字は被告の略称である「INTEL」と同一であるから,本件商標は物理的には被告略称を含んでいることになる。


 しかし,法4条1項8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標はその他人の承諾を得ているものを除き商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護すること,すなわち,人(法人等の団体を含む)は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護することにあるところ(最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号595頁),問題となる商標に他人の略称等が存在すると客観的に把握できず,当該他人を想起,連想できないのであれば,他人の人格的利益が毀損されるおそれはないと考えられる。


 そうすると,他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては,単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく,その部分が他人の略称等として客観的に把握され,当該他人を想起・連想させるものであることを要すると解すべきである。


イ かかる見地からみると,本件商標は,前記のとおり図形部分と「INTELLASSET」の文字部分から成るものであるところ,図形部分は青い縁取りのある正方形内の中央に欧文字の「I」を白色で表し,「I」の文字の背景には全体として青色と白色とが混ざり合った色彩が施されており,「I」の文字の左側部分は青色が勝っているものの,同右側部分は上部において白色が青色をぼかしたように白色が強調されて描かれており,白色で表された「I」の文字は右上部から中間部にかけて背景と同じような色から成る図形である。


 一方,「INTELLASSET」の文字部分は,このような図形の下部に,黒字の活字体で大きく明瞭に,各文字を同一の書体・同一の大きさ・同一の間隔で配置されている。


 そして,本件商標の文字部分が,黒色の活字体で大きく明瞭に,かつ各文字を同一の書体・同一の大きさ・同一の間隔で表されていることに照らすと,「INTELLASSET」の文字部分は外観上一体として把握されるとみるのが自然である上,「INTELLASSET」が日本においてなじみのない語であり,一見して造語と理解されるものであって,特定の読み方や観念を生じないと解される(本件商標中の図形部分を考慮しても同様である。)。


 したがって,被告の略称である「INTEL」は,文字列の中に埋没して客観的に把握されず,被告を想起・連想させるものではないと認めるのが相当である。


 そうすると,本件商標は物理的には被告の略称である「INTEL」を包含するものの,「他人の氏名・・・の著名な略称を含む商標」(法4条1項8号)には当たらないというべきであり,原告主張の取消事由2は理由がある。


ウ なお,被告は,本件商標の文字部分の後半「ASSET」は,「資産,財産」を意味する,日本人にとって馴染みのある英単語であるから,容易に「アセット」と称呼でき,「インテル・アセット」の称呼が生じ,被告の略称である「INTEL」と「ASSET」に容易に分割称呼されて,「インテル・アセット」として被告の略称を含むものと評価されるし,かつ「インテルの資産,財産」の観念が生じるから,被告の著名な略称である「INTEL」を含むというべきであると主張する。


 この点,前記のとおり,原告は各種事業及び各種企業に対する経営上の諸問題に対する総合的な研究調査の受託及び経営相談等を業とする株式会社であり(甲136の1ないし15,176,弁論の全趣旨),本件商標は事業の管理又は運営に関するコンサルティング等を指定役務とし,「INTELLASSET」は,知的資産を意味する英語「intellectual asett」を組み合わせた造語として考案されたものであるところ,前記のとおり,「INTELLASSET」の文字部分は同一の書体・同一の色・同一の大きさ・同一の間隔で表されており,「INTELL」と「ASSET」の間に空白(スペース)はないうえ,「ASSET」の部分の「A」の文字が他の文字よりも大きいなど他の文字と異なる特徴を有していることはないことに鑑みると,本件商標を見た者が「INTELLASSET」の文字部分のうち「ASSET」の部分を独立して認識すること,ひいては「INTELL」ないし「INTEL」の部分を独立して認識することは困難というべきであって,本件商標から「インテル・アセット」の称呼が生じたり,「インテルの資産,財産」の観念が生じることもないというべきである。


 また,被告は,別件商標において,冒頭の「I」だけでなく中間部分の「A」も大文字となっているのは,原告が別件商標の出願時,「INTELL」部分と「ASSET」の部分に分割して認識,称呼されるべきものであるということを認識していたからであるとも主張する。


 しかし,原告の商号が株式会社「インテラセット」であって,日本語(片仮名)の表記から「インテル(INTELL)」の部分と「アセット(ASSET)」の部分を分割して認識,称呼することはできないこと,本件商標においては「A」の文字が他の文字に比べて大きな文字とはなっておらず,「ASSET」の部分を独立又は分割して認識させるような表記とはなっていないこと等からすると,被告の上記主張は採用することができない。


エ そうすると,その余(取消事由1)について判断するまでもなく,法4条1項8号該当性を肯定した審決の判断は誤りであり,その誤りは結論に影響を及ぼすものである。


3 結語

 よって,原告の請求は理由があるから認容して,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。