●平成21(行ケ)10130  審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

Nbenrishi2009-10-16

 本日は、昨日に続いて、『平成21(行ケ)10130 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「酸化チタン系熱放射性塗料」平成21年10月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091014154554.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由1(発明の明確性についての判断の誤り)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 杜下弘記)は、

『2 取消事由1(発明の明確性についての判断の誤り)について

 原告は,本件明細書の特許請求の範囲に記載されている「無機接着剤」との文言が不明確であり,本件発明が明確であるとはいえないと主張するので,まず,この点について検討する。


(1) 本件明細書の記載

 本件明細書には,上記特許請求の範囲の記載のほか,発明の詳細な説明の欄に以下の記載がある。


 ・・・省略・・・


(2) 無機接着剤に関する文献の記載

 また,無機接着剤に関する文献には,次のような記載がある。


 ・・・省略・・・


(3) 本件発明における無機接着剤

ア 上記(1)の本件明細書の記載によると,本件発明は工業加熱炉の炉内の放射伝熱を高める塗料及びコーティング材に関する発明であり,塗料及びコーティング材の記載として酸化チタン又は還元酸化チタンを使用することによって,従来の塗料及びコーティング材に欠けていた物性を備えるとともに,放射熱エネルギーを著しく増大させるという効果をもたらし,副次的にガス排気口における排ガス温度が著しく低下するという効果をもたらすというものである。


 また,同記載によると,本件発明において,無機接着剤は,本件発明に係る工業炉用酸化チタン系熱放射性塗料を製造する際に配合されるものとして,本件発明を特定する事項の一つとなっているが,炉壁表面の塗膜・コーティング膜の成膜作業を溶射法により行う場合には,その配合を必要としないものであり,本件発明の課題を解決するための手段として必須のものではなく,その種類によって本件発明の作用効果に大きな影響を与えるものとして規定されているものでもないと認められる。


イ また,上記(2)の文献の記載によると,無機質の接着材料としての無機系接着剤としては,金属,ガラス,セメント,ケイ酸塩,リン酸塩などがあり,有機高分子系接着剤に比べて,耐熱性が高いものであり,このような無機質の接着材料のうち,金属やガラスは気密性に優れているが,接着時にそれぞれの融点や軟化点以上に加熱することが必要であり,また接着部分の耐熱性は接着時の温度を上まわることはないという欠点を有しているため,窯業などではそれ以外の「無機接着剤」が使用されるいうのであって,その使用に当たっては,求められる特性や使用条件を考慮して,市販の無機接着剤から選定し,調整するものであることが認められる。


 そして,上記(2)の文献の発行時期及びその内容からすると,これらの事項はいずれも本件特許出願に係る優先権主張日当時の当業者の技術常識に属する事項であると認めることができる。


ウ そうすると,工業加熱炉の炉壁表面の塗膜・コーティング膜を形成するための塗料についての発明である本件発明において配合される無機接着剤が,高温に曝される工業炉の内壁材に求められる物性を考慮して選定され,成膜作業に適するように調整されるべきものであることは,当業者が技術常識に照らして認識することができるというべきである。


(4) 小括

 上記(3)のとおり,窯業等の耐熱性を要する場面での利用を前提とする無機接着剤についての当業者の技術常識を踏まえ,本件発明における無機接着剤の位置付けに照らすと,上記の技術常識に基づいて当業者が認識し得る程度を超えて「無機接着剤」を特定する必要はないということができるから,本件発明に係る特許請求の範囲の記載における「無機接着剤」との文言の意味するところは,その限度において明確であって,明確性の要件を満たしているというべきである。

 したがって,取消事由1は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。