●平成19(ワ)3494 特許権侵害差止等請求事件 民事訴訟(3)

 本日は、『平成19(ワ)3494 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟 平成21年08月27日 東京地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091001170032.pdf)について取り上げます。


 本件では、 争点5(共同不法行為の成否及び損害の額)についての判断、特に、本件特許発明を実施してなくても特許法102条2項は適用可能であるとした判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 柵木澄子、裁判官 舟橋伸行)は、


『5 争点5(共同不法行為の成否及び損害の額)について

・本件特許が登録された平成18年8月4日以降,メルク(平成20年5月16日に被告マイランが吸収合併後は,被告マイラン)は,本件特許を侵害する被告製品を製造販売し,被告扶桑薬品は,メルク(平成20年5月16日に被告マイランが吸収合併後は,被告マイラン)の唯一の販売者として,被告製品を販売している(弁論の全趣旨)のであるから,被告扶桑薬品が販売した被告製品については,共同不法行為が成立するものと認められる。


・ 被告らは,原告が本件特許発明を実施していないことから,特許法102条2項は適用されないと主張する。


 確かに,同項は,損害額の推定規定であり,損害の発生までをも推定する規定ではないため,侵害行為による逸失利益が発生したことの立証がない限り,適用されないものと解される。


 もっとも,侵害行為による逸失利益が生じるのは,権利者が当該特許を実施している場合に限定されるとする理由はなく,諸般の事情により,侵害行為がなかったならばその分得られたであろう利益が権利者に認められるのであれば,同項が適用されると解すべきである。


 そして,弁論の全趣旨によれば,被告製品は,腎疾患治療薬(カプセル剤及び細粒剤)である原告製品の後発医薬品として製造承認を受け販売されているものであり,被告製品が製造販売されることで新たな需要を生み出すものではなく,腎疾患治療薬の市場において原告製品と競合し,シェアを奪い合う関係にあること,球状活性炭の腎疾患治療薬における原告製品のシェアが高いことが認められ,被告製品がなかったとした場合に原告製品ではなく他の後発医薬品が売れたであろうとの事情を裏付ける証拠もない本件においては,被告らによる侵害行為がなければ得られたであろう利益が原告に認められるのであって,本件には特許法102条2項が適用されるものと解するのが相当である。


特許法102条2項に基づく損害算定

ア被告製品の売上高

 ・・・省略・・・

イ被告製品の利益率

 ・・・省略・・・

ウ損害額

 ・・・省略・・・

・弁護士等費用

 ・・・省略・・・

・被告らは,フェノール樹脂を炭素源として用いることは選択肢の一つにすぎず,石油ピッチに代替可能であること,被告製品を服用しやすいよう剤形を工夫していること,被告マイラン及びメルクが活発な宣伝活動を行っていること並びに被告マイラン及びメルクの知名度が高いことを主張して,損害賠償額につき寄与度減額をすべきであると主張する。


 本件特許は,従来技術である石油ピッチを炭素源とする活性炭よりもフェノール樹脂を炭素源としたものが高い吸着性能を有することを特徴とするものであることに鑑みると,石油ピッチを用いることができることは寄与度減額をすべき事情に該当しないと解すべきである。


 なお,被告らは,原告製品が石油ピッチを炭素源とするものであるにもかかわらず,大きな売上があることをもって,石油ピッチに代替可能であると主張する。しかしながら,弁論の全趣旨によれば,原告製品に大きな売上があるのは,炭素源を石油ピッチとしつつも高い選択的吸着性能を持ち,先発医薬品として知られていることによるものであると認められるから,被告らの主張は採用することができない。


 また,被告らは,被告製品の球状活性炭の充填密度を上げることでカプセルを小型化するという工夫を行っていることから,損害賠償額の寄与度減額をすべきであるとも主張する。しかしながら,カプセルを小型化したことで売上が増加したことについて,これを認めるに足りる証拠はなく,被告らの主張は採用することができない。


 被告らが主張するその他の事情についても,寄与度減額をすべき事情に当たるとは認められない。』


 と判示されました。