●平成19(ワ)3494 特許権侵害差止等請求事件 民事訴訟(1)

 本日は、『平成19(ワ)3494 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「経口投与用吸着剤」平成21年08月27日 東京地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091001170032.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、まず、いわゆる「除くクレーム」が不適法であり,本件特許は,特許法17条の2第3項により無効とされるべきものかについての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 柵木澄子、裁判官 舟橋伸行)は、


『2 争点2(本件補正は不適法であり,本件特許は,特許法17条の2第3項により無効とされるべきものか)について


特許法17条の2第3項は,第1項の規定により明細書等について補正をするときは,願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならないと規定している。


 そして,「明細書等に記載した事項」とは,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するもの(当業者)を基準として,明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項のことであり,補正が,上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解すべきである。


 したがって,特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合,付加される補正事項が当該明細書等に明示されているときのみならず,明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは,「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるというべきであり,このことは除くクレームを付加する補正においても妥当する。


・原告は,平成15年10月31日,本件特許出願(特願2004−548107号)と,別件特許に係る特許出願(特願2004−548106号)を行ったが,その後,本件特許出願は拒絶査定がされたため,原告は拒絶査定不服審判を請求した。同手続中において,本件特許出願の発明が別件特許の発明と同一であるとの理由で拒絶理由通知が出された。そこで,原告が上記拒絶理由通知に対応して,平成18年5月15日に手続補正を行ったのが本件補正であり,請求項1及び4に下記の記載を付加するものである(甲70の8)。


但し,式(1):
R=(I15−I35)/(I24−I35) (1)
〔式中,I15は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり,I35は,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,I24は,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上である球状活性炭を除く,すなわち,本件補正は,球状活性炭につき,X線回折法による回折角(2θ)が15°,24°,35°における回折強度の比(R値)が1.4以上であるものを除くとするものである。


 一方,当初の本件明細書に記載された発明は,経口投与用吸着剤に用いられる球状活性炭について,熱硬化性樹脂,実質的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用い,これにより,ピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて,有益物質に対する吸着が少なく尿毒症性物質の吸着性に優れるという選択吸着性が向上するという効果を奏するとするものである。


 そして,別件特許の請求項1は,以下のとおりである(甲15)。

【請求項1】
 直径が0.01〜1mmであり,ラングミュアの吸着式により求められる比表面積が1000?/g以上であり,そして式(1):
R=(I15−I35)/(I24−I35)(1)
〔式中,I15は,X線回折法による回折角(2θ)が15°における回折強度であり,I35は,X線回折法による回折角(2θ)が35°における回折強度であり,I24は,X線回折法による回折角(2θ)が24°における回折強度である〕
で求められる回折強度比(R値)が1.4以上であえる球状活性炭からなることを特徴とする,経口投与用吸着剤


 このように,別件特許は,球状活性炭からなる経口投与剤につき,その細孔構造に注目して,直径,比表面積のほか,最も優れた選択的吸着性を示すX線回折強度を示す回折角の観点からこれをR値として規定し,このR値が1.4以上であることを特徴とするものである。別件特許は,球状活性炭に関し,本件特許とは異なり,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を出発原料として特定せず,また,本件特許では従来技術に属するものとされるピッチ類を用いても調整が可能であるとして,このR値の観点から球状活性炭を特定したものである。


 そうすると,球状活性炭のうちフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いた場合において,そのR値が1.4以上であるときには,本件特許に係る発明と別件特許に係る発明は同一であるということができる。


 そして,本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲から除くことを目的とするものであり,特許請求の範囲の記載に技術的観点から限定を加えるものではなく,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。


したがって,本件補正は,「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるので,特許法17条の2第3項に違反するものではなく,本件特許は,無効とされるべきものとは認められない。なお,本件特許の審決取消請求訴訟において,同様の判断がされている(知的財産高等裁判所平成21年3月31日判決・甲77)。』


 と判示されました。


 なお、本判決文中で引用されている知財高裁判決日は、判決言い渡し日からして、4/6の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090406)で取り上げた、

● 『平成20(行ケ)10358 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「経口投与用吸着剤,並びに腎疾患治療又は予防剤,及び肝疾患治療又は予防剤」平成21年03月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090403114036.pdf)

 ではないかと思います。


 詳細は、本判決文を参照してください。