●平成20(行ケ)10390 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成20(行ケ)10390 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「遊技機」平成21年09月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091001110217.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の棄却審決の取り消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許無効審判における発明の要旨認定において、リパーゼ最高裁判決の例外を適用しており、この点で、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、

『1 本件発明1における特許請求の範囲の解釈

(1) 本件明細書の内容

 甲13によれば,本願明細書には,次の記載がある。


 ・・・省略・・・


(2) ア 以上の記載によれば,パチスロ機などの遊技機においては,所定の入賞役の入賞が成立したときは所定の期間,通常の状態よりも条件のよい遊技状態となる複数種の入賞態様を有する機種が主流となっており,このような入賞役の1つとして遊技者にとって最も有利な遊技状態であって多数のコインを獲得可能なビックボーナス(BB)と呼ばれる特別増加役があるが,このBBの入賞成立に基づいて特別遊技(BBゲーム)が発生するためには,遊技機の内部的な抽選処理によりBBに当選した後,遊技者による停止ボタンを操作するタイミングが合致し,有効化された入賞ラインに所定の図柄が並ぶという一連の手順を踏む必要がある。


 また,内部抽選の結果を遊技者に報知するアシストタイム(AT)という機能を備えた遊技機においては,従来は,BBゲーム状態の終了後に2分の1の確率でATを発生させているが,定められた確率に従ってその発生が決定されるため多様性がなく,複数回連続してATが発生したりしなかったりするような,遊技者の興味を増加させるパターンに従ってATが発生する頻度が極めて少なく,遊技が単調になるという課題があった。


 そこで,本件発明は,遊技者にとって有利な状況の発生パターンに面白みのある遊技機を提供し,かつ遊技者にとって有利な状況の発生の度合いを任意に設定できる遊技機を提供することを目的として,請求項1ないし5の構成を採ることによって,複数回の特別遊技状態の後,報知手段により報知が行われる状況を発生させるか否かを1つの乱数抽選の結果に基づいて予め決定することとし,その結果,報知が行われる状況を複数回の特別遊技状態の後常に発生させるなど,遊技者の遊技に対する興味が増加するようなパターンに従って,当該状況の発生を制御することができるという効果を有するものである。


 以上のような従来技術並びに本件発明の目的,解決すべき課題及び発明の効果からすると,請求項1における「特別増加役の入賞成立に基づいて発生する特別遊技状態の終了後に前記報知手段により報知される遊技者にとって有利な状況を発生させるか否かを,特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定する第三の決定とを行い」という構成に記載された「予め」の意義については,複数回発生した場合の特別遊技状態に関して有利な状況の発生について予め決定するものであるから,2回目以降の特別遊技については,その当選の前に決定が行われることになることは明らかであるが,これを被告が主張するように,第1回目の特別遊技状態の当選が発生する時点よりも前と解釈することもできるし,原告が主張するように,BB当選から特別遊技状態が終了するまでの一連の手順の間に決定がされるのであれば,「予め決定する」と解釈することもできる。


 そうすると,本件発明1の記載のみでは,「第三の決定」が,BB当選の前に行われる構成に限られるのか否か,その技術的意義が一義的に明確とはいえないというべきである。


 本来,発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるが,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合は,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるというべきである(前掲最高裁平成3年3月8日第2小法廷判決参照)。


イ そこで,次に,「予め決定する第三の決定」の構成に対応する本件明細書の記載を具体的に検討する。


 ・・・省略・・・


ウ 以上のとおり,本件発明の詳細な説明によれば,はじめに設定用鍵型スイッチの操作を受けて,BBの当選前に,その後に発生する5回のBB当選について,各BBゲーム終了後にATが発生するか否かを予めまとめて決めており,5回目のBB当選が発生すると,その際にあらためて,次回の6回目の当選以降の問題である6ないし10回目までのBB終了後のAT発生の有無を決定している実施例が記載されている。


 そして,本件発明がBBゲーム終了後に行われるATの発生パターンを複雑化することを目的とするものであること,また,BBゲームは当選から遊技終了までが一連の流れであることをも合わせて考慮すると,本件発明1における「特別遊技状態が複数回発生した場合の各々の回について,一の乱数抽選の結果に基づいて予め決定する第三の決定」とは,BBの当選が生じる前に,その後に発生するであろう複数回のBBゲームについて,各BBゲーム終了後のAT発生の有無を,一度の抽選で決定することを意味すると解釈するのが相当である。そして,証拠(乙1)によれば,技術常識に照らすと,第一の決定の結果が特別増加役(ビックボーナス)の当選となる確率は低く,当選すれば,当選したゲームで入賞成立しなくともいずれ入賞することをも考慮すると,前記第2の4(4) のとおり,審決が,「予め決定する」の意義に関し,「未だ抽選の契機となるものが生じていない状態で,当選確率が低いためいつその契機が生じるかもしれない将来の抽選を事前に一括してする」ものと認定判断したことに誤りはないというべきである。


(3) この点,原告は,前記第3の4のとおり,本件発明1の「予め」については,「遊技者にとって有利な状況」が発生すべき時になって初めて発生させるか否かを決定するのではなく,その「時」よりも前の時点で決定するのである,と一義的に明確に理解することができるにもかかわらず,被告主張は特段の事情もなく明細書の記載を参酌して特許請求項の記載を解釈しようとするものであって不当であり,また,仮に本件発明1の技術的意義が一義的に明確に理解できないとするならば,その記載について特許法36条6項2号の規定に違反する無効理由があることになるが,被告はこのような無効理由があることを了解しつつ,これまでに訂正の機会が十分にあったにもかかわらずそれを徒過しておきながら,この時期に至って明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが妥当である等と主張することは時機に後れた攻撃防御であるから,信義則に反し,採用されるべきでない旨主張する。


 しかしながら,上記(2) で判断したとおり,明細書の記載を参酌するのは前記最高裁判例に照らしても許されるものであって何ら不当ではなく,その結果,本件発明1の「予め」については,「遊技者にとって有利な状況」が発生すべき時よりも前の時点,すなわち,「特別遊技状態の終了後」の時点よりも前であればいつでも「予め」であると一義的に明確に理解することができず,かえって,第三の決定がBB当選の前に行われる構成に限られると解釈できるのであるから,結局,本件発明1の記載が不明確であるとはいえないから,この点に関する原告の主張は採用できない。


 また,本件においては,原告が本件無効審判請求をし,そこで示された先願発明との関係で本件発明の請求項の解釈についてはじめて疑義が生じたものであるから,同審判請求に対し本件発明と先願発明とが実質的に同一であるとは認めなかった本件審決の当否を争う本訴訟において,その解釈に当たり明細書の記載の参酌を主張することが,時機に後れた攻撃防御に当るといえないことは明らかである。


 したがって,原告の主張は採用できない。』


 と判示されました。


 なお、リパーゼ最高裁事件の判決文は、

 ●『昭和62(行ツ)3 審決取消 特許権 行政訴訟「リパーゼ事件」平成3年03月08日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/75CB63A39AC99F3449256A8500311EAF.pdf)

 になります。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。