●平成21(行ケ)10004 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、昨日に続いて、『平成21(行ケ)10004 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「高圧縮フィルタートウベール,およびその製造プロセス」平成21年09月03日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090904095119.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由2(特許法36条4項1号違反との判断の誤り)についての判断も、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 浅井憲)は、


『3 取消事由2(特許法36条4項1号違反との判断の誤り)について

 なお,本件審決は,本件発明1における「ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40mm以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり」「,少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている」との発明特定事項につき,特定の数値限定を伴うものであり,このような限定を付した構成を採用することにより,本件発明1の課題を解決するものと解されるが,発明の課題解決との関係が明らかであるというためには,数値限定を付した場合の効果(実施例)と,このような数値限定を満足しない場合の効果(比較例)とを十分に記載しておき,技術上の意義を明確にしておくこと等が必要と考えられるところ,本件明細書の発明の詳細な説明をみても,このような記載は見当たらず,してみると,このような数値限定を伴う本件発明1において,かかる数値限定を特定する技術的意義が十分に記載されているとはいえないことから,特許法36条4項1号の規定に適合するものとはいえず,また,本件発明1を引用する本件発明2ないし26についても同様であるとする。


 しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には,「【発明が解決しようとする課題】【0004】…,ストラップを全く使用しないタイプの梱包には,ベールに付加した圧力がプレス動作の最後において解放された後に,圧縮されたフィルタートウの弾性復元力によって,ベールが圧縮された方向とは主に反対の方向に向かう圧力が梱包に加えられてしまう問題が伴う。これにより,パッケージの容量が増加することで,ベールの頂部と底部に望ましくない膨張が生じてしまう。WO 02/32,238 A2号に記載の測定を実施した場合,これらの膨張部分によって目的とするフィルタートウの使用が妨害されることはないが,フィルタートウ・パッケージの安全な積み上げが阻害されてしまう。この問題は,上述で引用したRhodia 刊行物に記載されているもののように,ベールをその側部上に積み上げるか,または特別なパレットを使用する最新技術によって解決できる。さらに,連続した内圧によるパッケージの破裂開封に関連した問題も頻繁に発生する。」,「【0005】ストラップに関連した問題の解決方法は,US−A4,577,752号に記載されている。ストラップで梱包したフィルタートウを目的どおりに使用した場合,膨張部分は,WO 02/32,238 A2に記載の膨張抵抗に変化を生じさせてしまうくびれ部分よりも問題は小さかった。さらに,ストラップを施したベールでさえも破裂開封してしまう。…」及び「【0006】本発明の課題は,ベールの移動を妨害するような膨張部分,ならびにトウベールの頂部と底部におけるフィルタートウの繰り出しを妨害するくびれ部分の無い,理想的なブロック形態に高圧縮したフィルタートウのベールを提供することであり,この場合,梱包したフィルタートウにかかる負荷が低減されることで,特に,内圧の影響下におけるパッケージの破裂開封をほぼ完全に回避することができる。本発明のさらなる課題は,これに関連した梱包プロセスを提供することである。」との記載があり,これらによると,本件明細書には,従来のベール(フィルタートウ・パッケージ)では,ベールに付加した圧力が開放されると,これまで圧縮されていたフィルタートウの弾性復元力によって,ベールの頂部と底部に膨張が生じることになり,ベールを安全に積み上げておくことができなくなるという課題,及び,フィルタートウの膨張によってストラップを施したベールのパッケージでさえも破裂開封してしまうという課題があったことについての記載があることが認められる。


 ・・・省略・・・


 これに対し,本件明細書には,上記課題を解決するための手段として,ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40 mm 以下離間する程度に,ベールの頂面及び底面が平面であるようにすること,フィルタートウのパッケージ包装材を気密にシールするとともに,少なくともベールが梱包された後に外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている状態にすること,負圧の制御方法の記載があることが認められるのであって,本件発明1につき,当業者において,本件明細書の記載により,その課題との関係での数値限定を付した技術的意義を理解できるものと解され,そうすると,数値限定を付した場合の効果(実施例)と,このような数値限定を満足しない場合の効果(比較例)との十分な記載がないから,本件発明1の技術的意義が十分に記載されているとはいえないとの理由のみで,本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし26が特許法36条4項1号の規定に適合しないとした本件審決の判断も首肯し得ないものといわなければならない。


4 結論

 以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。』


 と判示されました。
 

 詳細は、本判決文を参照してください。