●平成21(行ケ)10004 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10004 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「高圧縮フィルタートウベール,およびその製造プロセス」平成21年09月03日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090904095119.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、無効審判における複数の請求項に係る訂正の請求について請求項毎に認めるべき否かの判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 浅井憲)は、


『1 取消事由1(個別の請求項ごとに訂正の許否を判断しなかった誤り)について

(1) 無効審判における複数の請求項に係る訂正の請求


 昭和62年法律第27号による特許法の改正によりいわゆる改善多項制が,そして,平成5年法律第26号による特許法の改正により無効審判における訂正請求の制度がそれぞれ導入され,特許無効審判の請求については,2以上の請求項に係るものについては請求項ごとにその請求をすることができ(特許法123条1項柱書き後段),請求項ごとに可分的な取扱いが認められているところ,特許無効審判の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,この請求項ごとに請求をすることができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることに照らすと,特許無効審判請求がされている請求項についての特許無効の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに個別に行うことが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されることになる
(前掲最高裁平成20年7月10日判決参照)。


 そして,特許無効審判の請求がされている請求項についての訂正請求は,請求書に請求人が記載する訂正の目的が,特許請求の範囲の減縮ではなく,明りょうでない記載の釈明であったとしても,その実質が,特許無効審判請求に対する防御手段としてのものであるならば,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることからして,請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものである。


(2) これを本件についてみるに,特許無効審判請求に係る本件審判において,請求人である被告は,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が不明確であるなどとの無効理由を主張したこと(甲20),これに対し,被請求人である原告は,被告主張の無効理由を回避するために,特許無効審判における訂正の請求として,本件特許の請求項1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25につき本件訂正請求を行ったこと(甲18,22)が認められ,本件訂正請求は,特許無効審判請求に対する防御手段としてされたものであることが明らかである。


(3) そうすると,本件訂正請求は,請求項ごとに個別に行われたものであった以上,その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものといわなければならない。


 そして,本件訂正請求は,直接的には本件特許に係る請求項のうち1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25の訂正を求めるものであるが,前記第2の2のとおり,本件特許は,請求項1ないし26から成り,請求項2ないし26はいずれも請求項1を直接的又は間接的に引用する従属項であるから,請求項1について訂正を求める本件訂正は,請求項1を介してその余の請求項2ないし26についても訂正を求めるものと解さなければならない。


 しかるところ,本件審決は,本件訂正につき,請求項19及び23についてのみ判断をし,その訂正が求められないことをもって,他の請求項1ないし18,20ないし22及び24ないし26に係る訂正の判断をしないまま,これらの請求項に係る訂正も認められないとしたものであるから,これらの請求項に係る各訂正事項につき判断をすることなく,本件発明1ないし18,20ないし22及び24ないし26の各要旨認定をしてしまったものであって,この点において,本件審決には違法があることになる。


 ・・・省略・・・


(5) 被告は,特許無効審判における訂正の請求において,請求項ごとの個別の訂正が認められるのは,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求であり,独立特許要件が要求されていない明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正請求については,請求項ごとの個別の適用が認められるものではないと主張するが,たとい特許無効審判における訂正請求の請求書に記載されている訂正の目的が明りょうでない記載の釈明であったとしても,それが請求項ごとに請求することができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものであるならば,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解され,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠く結果となってしまうものであって,被告の主張は採用できないというべきである。


 また,被告は,本件特許の請求項1の訂正は「約40mm」を「40mm」に訂正するなどのものであって,仮に訂正が認められたとしても本件審決の無効理由は解消しないので,本件審決の無効理由に対する防御手段としての実質を有するものではなく,また,少なくとも,本件審決が記載不備であると判断した請求項1の「少なくともベールが梱包された後に…負圧がベールにかかっている」との部分については何ら訂正請求がされておらず,本件訂正の許否にかかわらず本件審決のその他の無効理由は解消せず,本件審決の結論に影響しないと主張するが,前記第2の2のとおり,本件訂正における請求項1に係る訂正内容は,「約40mm」を「40mm」と,「約900mm」を「900mm」と訂正するものであり,上記(2)のとおり,この訂正は特許無効審判請求に対する防御手段としてされたものであるにもかかわらず,審判体は,その訂正に対する判断をしないまま,本件訂正前の請求項1ないし26を前提として記載要件につき判断をしているものであって,その判断の前提を欠いている以上,本件審決には違法があるといわざるを得ない。なお,後記3のとおり,本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2ないし26につき,特許法36条4項1号の規定に適合しないとした本件審決の判断にも問題があるところである。

2 小括

 以上のとおり,本件訂正請求が認められないとした本件審決の判断は是認できないから,本件訂正請求がめられないことを前提として本件発明について判断した本件審決には違法があり,取消事由2及び3について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきことになる。』


 と判示されました。


 なお、本件で引用している最高裁判決は、

●『平成19(行ヒ)318 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟発光ダイオードモジュールおよび発光ダイオード光源事件」平成20年07月10日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080710145411.pdf

 です。
 

 詳細は、本判決文を参照してください。