●平成20(ワ)3277 特許権侵害差止等 特許権「鉄筋用スペーサー」

 本日は、『平成20(ワ)3277 特許権侵害差止等 特許権 民事訴訟「鉄筋用スペーサー」平成21年08月21日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090831113028.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、物の発明において特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合における特許発明の技術的範囲の属否の判断と、かかる場合に意見書において製造方法を限定して特許になった場合における特許発明の技術的範囲の属否の判断とが参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 北岡裕章、裁判官 山下隼人)は、


1 争点1−1(本件特許発明の技術的範囲の属否)について

 被告は構成要件E及びFの充足性を否認することから,以下この点について検討する。


(1) 構成要件E及びFの位置づけについて


 前記当事者間に争いのない事実(第2の1(1)イ)のとおり,本件特許発明は構成要件AないしFに分説することができる。


 しかし,他方で,原告は,構成要件Eの「枠台」の解釈において,裏返し脱型作業するという製造工程までも構成要件とする方法の発明ではないとも主張する。


 たしかに,本件特許発明は特許法2条3項1号の物の発明と解されるところ,それにもかかわらず,特許請求の範囲に物の製造方法(構成要件E及びF)が記載されている。そこで,本件特許発明における構成要件E及びFの位置づけについて最初に検討することとする。


ア 特許法2条3項1号の物の発明において特許請求の範囲に当該物の製造方法が記載されている場合であっても,原則として,同製造方法により得られる物と同一であれば,これと異なる製造方法を用いて製造された物であっても,同特許発明の技術的範囲に属するというべきである。


 しかしながら,証拠(乙18)によれば,本件特許に係る出願経過について,以下の事実が認められる。


(ア) 出願

 …省略…

(イ) 拒絶理由通知

 …省略…

(ウ) 補正

 原告は,平成17年9月9日,手続補正書を提出し,出願当初の請求項1の内容を本件特許発明のように補正するなどし(以下「本件補正」という。),平成17年9月26日,特許査定を受けた。原告は,本件補正に係る同日付けの意見書において以下のように述べた。

 「引用文献1には鉄筋用スペーサーが記載されておりますが,これは『硬質合成樹脂材による一体成形品』であり,そのための成形金型が金属製品となります。従って,これを本願発明の合成樹脂製品であるコンクリートブロック用成形キャビティ(C)と同一視することができません。」

 「引用文献2には本願発明のような合成樹脂製のコンクリートブロック用成形キャビティ(C)は全く開示されておりません。引用文献2に開示のコンクリートスペーサーは,…長尺に押出成形された後,長手方向での所定寸法に切断されたものであります。」


「このような引用文献2,4に記載された押出成形手段の場合,本願発明のような陥没数字(G)をそのコンクリートブロックのフラット面へ賦形することが,そもそも全く不可能であります。」


 「引用文献3の段落【0003】,【0019】,【0022】には,なる程『型枠』の記載がありますが,その『型枠』が本願発明に係るコンクリートブロック用成形キャビティ(C)のような耐熱性と耐衝撃性に富む高強度な合成樹脂からの成形品であることや,裏返し脱型作業できる金属製の枠台(F)に合成樹脂製の成形キャビティ(C)を取り付け使用することまでは,一切記載されておりません。」

「一般に合成樹脂製品を成形する金属製の成形金型と異なり,本願発明のようなコンクリートブロック(B)を成形する合成樹脂製の成形キャビティ(C)としては,ましてそのフラットな底面(20)から反転数字の凸版(P)を異なる2種以上の点在分布状態に隆起させた構成や,その成形キャビティ(C)を裏返し脱型作業できる金属製の枠台(F)へ取り付けたことまでは,決して従来から周知であると言うことができません。」


イ 上記のとおり,原告は本件補正において,特許請求の範囲に構成要件Bを加えると共に,「鉄筋(A)のコンクリートかぶり厚さ(D1)(D2)(D3)(D4)となる寸法を簡略に示す陥没数字(G)を,そのコンクリートブロック(B)自身の成形と一挙同時に賦形」する手段として,構成要件E及びFのような成形キャビティを使用する方法を具体的に加えていることが認められる。


 本件補正のうち,構成要件Bの金属線材受け入れ孔を設けることについては,もともと出願当初の特許請求の範囲【請求項2】に記載されていたものであり,同請求項に係る上記拒絶理由通知においても「結束用金属線材受け入れ孔を設けることは,引用文献2にも記載されている。」と指摘されているところである。また,原告も上記意見書においてこの点を特段強調してもいない。


 これに対し,成形キャビティを用いたコンクリートブロックの成形及び陥没数字の賦形手段については,上記意見書においても,原告が従来技術との相違点として特に強調していた点であり,本件補正がなされたことによって特許査定がなされていることからすれば,特許庁審査官も,その当否は措くとして,この点を考慮して特許査定したものと認められる。


 そうとすれば,原告が本件特許権を行使するに当たり,本件特許発明は物の発明であって,構成要件E及びFの製造工程を構成要件とするものではないと主張することは,禁反言の法理に照らして到底許されるものではないというべきである。


ウ よって,構成要件E及びFの製造工程も,本件特許発明の技術的範囲を画する構成要件と解すべきであり,ここに記載された製造工程によって製造された鉄筋用スペーサーのみが本件特許発明の技術的範囲に属し得るものというべきである。


 そこで,以下では被告製品の製造方法について認定した上,構成要件E及びFの充足性について検討することとする。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。