●平成20(行ケ)10304 審決取消請求事件 特許権「樹脂配合用酸素吸

Nbenrishi2009-08-20

 日記の方も夏休みをとっていました。

 さて、本日は、「平成20(行ケ)10304 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「樹脂配合用酸素吸収剤及びその組成物」平成21年08月18日 知的財産高等裁判所」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090820103434.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取り消しを求めた審決取り消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由4(いわゆるサポート要件ないし実施可能要件についての判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判長裁判官 滝澤孝臣)は、


1 取消事由4(いわゆるサポート要件ないし実施可能要件についての判断の誤り)について

(1) 実施可能要件を満たしているか

 原告の取消事由4の主張は,本件発明に係る特許請求の範囲の記載がいわゆるサポート要件に欠け,また,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に欠けるというのであるが,まず,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすものであるか否かから検討することとする。


ア 特許法36条4項に定める実施可能要件

 特許法36条4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と定めるところ,本件発明のように,特定の用途(樹脂配合用)に使用される組成物であって,一定の組成割合を有する公知の物質から成るものに係る発明においては,一般に,当該組成物を構成する物質の名称及びその組成割合が示されたとしても,それのみによっては,当業者が当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該組成物を当該用途に容易に実施することができないから,そのような発明について実施可能要件を満たすといい得るには,発明の詳細な説明に,当該用途の有用性を裏付ける程度に当該発明の目的,構成及び効果が記載されていることを要すると解するのが相当である。


 さらに,本件発明は,その用途として,単に「樹脂配合用」と規定するのみであるから,本件発明について実施可能要件を満たす記載がされるべきである以上,発明の詳細な説明に,酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,本件発明の酸素吸収剤を適用することが有用であること,すなわち,当該樹脂一般について,本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされていることを要すると解すべきである。


 そこで,以下,上記観点に立ち,発明の詳細な説明に,本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載があるか否かについて検討する。


 ・・・省略・・・


 以上からすると,発明の詳細な説明に,エチレン−ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般について,本件発明が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているものと認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はない。


(ウ) この点に関し,被告は,<ア>エチレン−ビニルアルコール共重合体がポリオレフィン等の樹脂と比較して熱分解されやすく,樹脂の劣化(ゲル化等)が生じやすいものであること,<イ>発明の詳細な説明に例示されている他の樹脂についても,その劣化等が生じ,異味・異臭成分が発生するのは同様の挙動によるものであることを根拠に,当業者は,エチレン−ビニルアルコール共重合体に適用した場合であっても本件作用効果を奏する本件発明の酸素吸収剤につき,これを他の樹脂に適用した場合に,本件作用効果を同等以上に奏するものと十分に理解することができると主張する。


 しかしながら,上記<ア>の事項は,そもそも発明の詳細な説明に記載されたものではないし,また,上記<イ>の事項についても,前記(イ)のとおり,樹脂の劣化及び分解並びに異味・異臭成分の発生についての発明の詳細な説明の記載が,酸素吸収剤を適用する樹脂の特性(化学構造等)を念頭に置いたものとみることはできないから,発明の詳細な説明に接した当業者が,その記載内容から,本件発明の酸素吸収剤をエチレン−ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般に適用した場合に,本件作用効果を同等に奏するものと容易に理解することができると認めることはできない。


 また,当業者が,本件出願当時の技術常識に照らし,エチレン−ビニルアルコール共重合体に適用した場合に本件作用効果を奏する本件発明の酸素吸収剤であれば,これをエチレン−ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般に適用しても,本件作用効果を同等に奏するものと容易に理解することができると認めるに足りる証拠はない。


 したがって,被告の主張を採用することはできない。


エ小括

 以上によると,発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に定める実施可能要件を満たすものと認めることは到底できないというべきである。


(2) サポート要件を満たしているか

 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすものでないことは前記(1)のとおりであるが,進んで,本件発明に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすものであるか否かについても検討する。


ア 特許法36条5項1号に定めるサポート要件

 特許請求の範囲の記載が特許法36条5項1号に定めるサポート要件に適合するものであるか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,発明の詳細な説明に,当業者において,特許請求の範囲に記載された発明の課題が解決されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆があるか否か,又は,その程度の記載や示唆がなくても,特許出願時の技術常識に照らし,当業者において,当該課題が解決されるものと認識し得るか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。


 そこで,以下,上記観点に立ち,本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,発明の詳細な説明に,当業者において,本件発明の課題が解決されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆があるか否か,また,本件出願時の技術常識に照らし,当業者において,当該課題が解決されるものと認識し得るか否かについて検討する。


イ本件発明の解決課題

 前記(1)ウ(ア)において説示したところに照らすと,本件発明が解決すべき課題は,酸素吸収剤を樹脂に適用した際の樹脂のゲル化及び分解並びに異味・異臭成分の発生(本件課題)であるということができる。


ウ発明の詳細な説明の記載等

 前記(1)ウにおいて説示したところに照らすと,本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂がエチレン−ビニルアルコール共重合体である場合はともかく,その余の樹脂一般である場合についてまで,発明の詳細な説明に,当業者において本件課題が解決されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆があるということはできず,また,本件出願時の技術常識に照らし,当業者において本件課題が解決されるものと認識し得るということもできないといわざるを得ない。


エ小括

 以上によると,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が特許法36条5項1号に定めるサポート要件を満たすものと認めることは到底できないというべきである。


(3) そうすると,「本件発明の効果を奏しない樹脂を包含する点で明細書の記載に不備があるとはいえない」とした本件審決の判断は誤りであり,原告の取消事由4の主張は,実施可能要件の欠缺をいう点及びサポート要件の欠缺をいう点のいずれについても理由があるといわなければならない。』


 と判示されました。


 なお、本件は、本件訴訟に至る手続の経緯に示すように、特許無効審決→知財高裁認容判決(無効審決取消し)→特許無効の棄却審決→知財高裁認容判決(棄却審決取消し)、というように、知財高裁の2回目の判断のようです。・・・ ・・・ ・・・。3回目もあるのでしょうか?


 ちなみに、1回目の判断は、『平成18(行ケ)10452 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「樹脂配合用酸素吸収剤及びその組成物」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071101144016.pdf)で、1回目の特許無効審判での本件発明の容易想到性の判断に誤りがあったようです。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。