●平成20(ワ)13282 損害賠償 意匠権「医療検査用細胞容器」

 本日は、『平成20(ワ)13282 損害賠償 意匠権 民事訴訟「医療検査用細胞容器」平成21年07月23日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090803143848.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠権に基づく損害賠償事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、意匠の類似の判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 達野ゆき、裁判官 北岡裕章)は、


1 争点1(被告製品意匠が本件登録意匠と類似するか)について

(1) はじめに

 前提事実(3),(4)によれば,本件登録意匠と被告製品意匠とは,物品が同一であることが認められる(争いがない)。そこで,以下では形態上の類否について検討する。

 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者(取引者も含む。)の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われるものであるから(意匠法24条2項),その判断に当たっては,両意匠の形態の異同が,当該物品の目的,用途及び使用態様等に照らして需要者が注目し得る部分における意匠上の形態に係るものであるかどうか,当該登録意匠の出願時点における公知意匠等を参酌して需要者に新規な美感をもたらし得る形態に係るものであるかといった観点から,両意匠が全体として美感を共通にするか否かを検討するのが相当である。

(2) 本件物品の目的,用途,使用態様

(3) 本件登録意匠の構成態様

(4) 被告製品意匠の構成態様

(5) 本件登録意匠において需要者が注視する構成態様(要部)

(6) 本件登録意匠と被告製品意匠の対比

(7) 類否判断

ア共通点について

(ア) 基本的構成態様を共通にすることについて

 前記(5)アのとおり,本件登録意匠の基本的構成態様は,要部とはいえず,基本的構成態様を共通にすることについては,両意匠の類否判断に大きな影響を与えないものというべきである。


イ差異点について

(イ) 差異点2について

 被告脚部に係る差異点2について,本件物品においてかかる脚部を設ける構成が,本件出願時において公知ないし周知であったと認めるに足りる証拠はない。


 また,前記本件物品の使用態様によれば,本件物品では,検体を容器に入れて処理した後,トレーに入れ替え,容器本体をトレーに蓋をするように載せて溶融パラフィンを流し込み,容器本体底面にパラフィン標本を付着させ,さらに容器本体を裏返し,その底面を上にしてアダプターに固定してパラフィン標本のスライスを行うというのであり,かかる工程の中で需要者が最も気を遣うのはミクロン単位での標本のスライスを行う作業と考えられる。かかる本件物品の使用態様に照らすと,本件物品において,最も気を遣う作業を行う際の作業台となる容器本体底面の構成は,需要者に注目される重要な部分となるも
のと認められる。


 そして,別紙5写真6及び写真7のように,被告製品の容器本体底部にパラフィン標本を付着させた上で,これを裏返すと,被告脚部は相当に目立つ構成となって需要者の前に現れることになる。しかも,被告が実施したアンケート結果(乙20の1〜10,乙22の1〜3)によれば,被告脚部は,容器本体底面に付着させたパラフィン標本の動きを規制して剥離するのを防ぐという効果や,被告製品を積み重ねて薬液等による処理を行う際に,容器同士を密着させず,被告脚部の間からも薬液等を流入させるという効果もあると考えられるから,多くの需要者は被告脚部に着目するものと考えられる。現に,上記被告が実施したアンケートの結果によっても,多くの者が被告製品の採用理由として,被告脚部の存在を挙げており,被告脚部が需要者に注目される構成であることが窺える。


 なお,原告は,容器本体底面にパラフィン標本を付着させると,被告脚部はパラフィンに埋もれて見えなくなる旨主張するが,容器本体底面に付着させるパラフィン標本の大きさは,溶融パラフィンを充填するトレーの大きさによって異なり得るものであり,必ずしも被告脚部がパラフィンに埋まるとは考えられない。


 むしろ,証拠(乙19の1の1枚目及び乙21の4枚目)によれば,パラフィン標本は容器本体底面の全面にわたって付着するのではなく,周縁よりも内側に付着するのが通常と考えられるし,被告製品において使用が推奨されている「バイオベッセルトレー」(乙14)の形状からすると,被告製品においても同様と考えられる。そうすると,被告製品において,パラフィン標本を容器本体底面に付着させても,被告脚部がパラフィンに埋もれて見えなくなるとは認められない。


 また,原告は,需要者が別紙5写真6及び写真7の撮影方向から本件物品を眺めることはない旨主張するが,仮に全く同じ角度から視認することはないとしても,被告脚部が同各写真の程度露わになっていれば,乙第1号証2枚目に示されるようにミクロトームに設置してスライスする際においても,需要者は被告脚部の存在に容易に気付き得ると考えられる。


 以上のように,本件物品における容器本体底部の構成は需要者の注意を惹く部分である上,被告製品には被告脚部という従前には見られない新たな形態が付加されており,被告脚部の有無に係る差異点2は両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものというべきである。


ウ まとめ

 以上のように,本件登録意匠と被告製品意匠との共通点のうち,共通点3の本件段差(これが蓋の突起を容器本体に係止させるための段差と結びつくことによって,左右側面において形成された逆凹字状の形状を含む。)自体については,両意匠において共通しているが,本件段差によって生じる美感は,本件段差によって区切られた上部と下部との対比からも起因するところ,差異点2が存在するため,同一の新規な美感をもたらし得るものということができず,これに加えて,差異点2の被告脚部は本件物品において需要者が注目する部分に係る顕著な形態上の差異であり,これらの差異点は,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものといわざるを得ず,限定的ながらも類否判断に影響を与える差異点6の切り欠き部とも相まって,前記共通点1ないし5によってもたらされる両意匠における共通性,類似性を凌駕するものというべきである。


 このように,全体としてみても,被告製品意匠は需要者に対して本件登録意匠と同一の美感を与えるものとまでは認められず,被告製品意匠は本件登録意匠に類似するものとは認められない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。