●平成20(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権「スロットマシン」

 本日は、『平成20(行ケ)10237 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「スロットマシン」平成21年07月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090729162635.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の認容審決の取消しを求めた審決取消請求事件では、その請求が認容された事案です。


 本件では、取消事由21(委任省令要件違反に関する判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 上田洋幸)は、

『3 取消事由21(委任省令要件違反に関する判断の誤り)について

 事案にかんがみ,取消事由3ないし20に先立って,取消事由21について判断する。


 当裁判所は,委任省令違反があるとした審決の判断は誤りであると判断する。以下,その理由を述べる。


 審決は,特許法36条4項1号に規定する委任省令要件について,「本件の明細書,段落0007〜0009には,本件発明が解決しようとする具体的な課題が記載されている。」とした上で,「請求項1〜9,11,13〜14に係る発明は,段落0007〜0009に記載された課題の何れにも該当しないものである。」とし,「本件の明細書は,請求項1〜9,11,13〜14に係る発明について,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものではないから,経済産業省令で定めるところにより記載したものであるとは認められない。」と判断した(審決書57頁30行〜58頁32行)。


 しかし,委任省令違反があるとした審決の上記判断は,誤りである。すなわち,特許法36条4項は,「発明の詳細な説明の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と定め,同条同項1号において,「一経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。


 そして,上記の「経済産業省令」に当たる特許法施行規則24条の2は,「特許法第三十六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と定めている。


 特許法36条4項1号において,「通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(いわゆる「実施可能要件」)を規定した趣旨は,通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したといえない発明に対して,独占権を付与することになるならば,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるからである。


 ところで,そのような,いわゆる実施可能要件を定めた特許法36条4項1号の下において,特許法施行規則24条の2が,(明細書には)「発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を記載すべきとしたのは,特許法が,いわゆる実施可能要件を設けた前記の趣旨の実効性を,実質的に確保するためであるということができる。


 そのような趣旨に照らすならば,特許法施行規則24条の2の規定した「技術上の意義を理解するために必要な事項」は,実施可能要件の有無を判断するに当たっての間接的な判断要素として活用されるよう解釈適用されるべきであって,実施可能要件と別個の独立した要件として,形式的に解釈適用されるべきではない。


 もとより,特許法施行規則24条の2の求める事項は,発明の詳細な説明中の「課題及びその解決手段」に記載される必要もなく,当業者が発明の技術上の意義を当然に理解できれば足りるのであって,明示的な記載は必要ない。


 なお,特許庁の審査基準(第?部第1章3.3 委任省令要件の欄)においては,「(1)委任省令の趣旨・・・こうした理由から,委任省令では発明がどのような技術的貢献をもたらすものかが理解でき,また審査や調査に役立つように,『当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項』を記載すべきものとし,記載事項の例として課題及びその解決手段を掲げている。」,「(障ネ)『発明が解決しようとする課題』としては,請求項に係る発明が解決しようとする技術上の課題を少なくとも一つ記載する。『その解決手段』としては,請求項に係る発明によってどのように当該課題が解決されたかについて説明する。」「(障ノ)ただし,発明が解決しようとする課題について明示的な記載がなくても,従来の技術や発明の有利な効果等についての説明を含む明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,当業者が,発明が解決しようとする課題を理解することができる場合については,課題の記載を求めないこととする(技術常識に属する従来技術から課題が理解できる場合もある点に留意する)。また,そのようにして理解した課題から,実施例等の記載を参酌しつつ請求項に係る発明を見た結果,その発明がどのように課題を解決したかを理解することができる場合は,課題とその解決手段という形式の記載を求めないこととする。」とされている。


 審決は,請求項1ないし9,11,13及び14に係る発明が,本件特許明細書(甲18)の【発明が解決しようとする課題】の欄(段落【0007】〜【0009】)に記載された課題のいずれにも該当しないことのみをもって,「経済産業省令で定めるところにより記載したものであるとは認められない。」と判断した。審決の上記判断は誤りである。


 なお,本件特許明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて,当業者であれば,サブリールの演出の趣向性を向上させるという課題を理解することができる。請求項1〜9,11,13及び14について,委任省令違反があるとした審決の判断が誤りである旨の原告主張の取消事由21には,理由がある。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。