●平成20(ワ)11220 著作権侵害差止等請求事件(2)

 本日は、昨日に続いて、『平成20(ワ)11220 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成21年06月17日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090717145720.pdf)について取り上げます。


 本件では、本件各映画の著作者についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 清水節、裁判官 坂本三郎、裁判官 岩崎慎)は、


『(2)本件各映画の著作者について

ア 本件各映画は,いずれも新著作権法が施行される前に創作された映画の著作物であり,同法附則4条によれば,映画の著作物の著作者に関する規定である同法16条は適用されないから,本件各映画の著作者がだれかについては,旧著作権法によることになる。そして,旧著作権法においては,映画の著作物の著作者について直接定めた規定はないのみならず,そもそも著作物一般についての著作者の定義や著作物の定義を定める規定もない。


 他方で,新著作権法では,著作物及び著作者の定義規定が設けられている(同法2条1項1号及び2号)が,その内容が旧著作権法における著作物及び著作者についての解釈と異なるのであれば(新著作権法が,旧著作権法における著作物及び著作者をすべて著作物及び著作者と定義した上で,更に著作物及び著作者の定義の範囲を拡張したような例外的場合でない限り従前は著作物及び), 著作者として認められていたものが,新著作権法の施行により著作物又は著作者と認められないことが生じ得るのであるから,何らかの経過措置が設けられるのが通常と考えられるところ,これに関する経過規定は設けられていない。また,旧著作権法の下で公表された著作物の著作権が,新著作権法の下でも存続することを前提とした規定(例えば,同法附則7条)もある。


 これらのことからすれば,新著作権法における著作物及び著作者の定義は,旧著作権法における著作物及び著作者の定義を変更したものではないと解するのが相当である。なお,旧著作権法の下における裁判例においても,著作物とは,「著作者の精神的所産たる思想内容の独創的表現たることを要す」(大審院昭和11年(オ)第1234号同12年11月20日第三民事部判決・法律新聞4204号3頁参照),「精神的労作の所産である思想または感情の独創的表白であって,客観的存在を有し,しかも文芸,学術,美術の範囲に属するもの」(東京地裁昭和40年8月31日判決・下民集16巻8号1377頁参照)等と解されている。


 したがって,旧著作権法における著作物とは,新著作権法と同様,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいい,また,旧著作権法における著作者とは,このような意味での著作物を創作する者をいうと解される。


 そして,思想又は感情を創作的に表現できるのは自然人のみであることからすると,旧著作権法においても,著作者となり得るのは,原則として自然人であると解すべきである。


イ このように,著作者となり得るのは,原則として自然人であることを前提として,制作,監督,演出,撮影,美術の担当者等多数の自然人の協同作業により製作されるという映画の著作物の製作実態を踏まえると,旧著作権法においても,新著作権法16条と同様,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当して映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者が,当該映画の著作物の著作者であると解するのが相当である。


 なお,新著作権法附則4条は,同法16条の規定は,同法の施行前に創作された著作物については,適用しない旨定めている。しかしながら,旧著作権法において,映画の著作物の著作者につき,新著作権法16条と同様の解釈をすることを妨げるような事情があるとは認められないことからすれば,同法附則4条が同法16条を適用しないこととしたのは,同条が新設規定であることに照らして,旧著作権法の下で公表された映画の著作物の著作者については旧著作権法における解釈に委ねる趣旨であって,旧著作権法において新著作権法16条と同様の解釈をすることを積極的に排除する趣旨まで含むものではないと解される。現に,著作権法の所管省庁である文化庁において新著作権法の立案を担当していた者においても,同法附則4条につき,旧著作権法下における映画の著作物の著作者の意義の解釈が必ずしも確定していなかったために,旧著作権法による解釈に委ねる趣旨で設けられたものであると説明している(乙3)。これらのことからすれば,新著作権法附則4条は,旧著作権法の下で公表された映画の著作物の著作者について,新著作権法16条と同様の解釈をすることを妨げるものではないと解される。


ウ これを本件各映画についてみると,証拠(甲31ないし35)並びに前記第2の1(2)アないしウによれば,本件各監督はそれぞれ本件各映画の監督を務めており,また,本件各映画は本件各監督による創作的な表現であると評価されていることが認められるから,本件各監督は,それぞれ本件各映画の全体的形成に創作的に寄与している者と推認され,これに反する証拠もない。


 したがって,本件各監督は,他に著作者が存在するか否かはさておき,少なくとも本件各映画の著作者の一人であると認められる。』


 と判示されました。