●平成21(行ケ)10048 審決取消請求事件 商標権「PE’Z」(1)

 本日は、『平成21(行ケ)10048 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「PE'Z」平成21年07月21日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090722102321.pdf)について取り上げます。


 本件は、法4条1項11号を理由とする商標登録無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、本件商標と引用商標3との類否(法4条1項11号)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 真辺朋子)は、


『2 本件商標と引用商標3との類否(法4条1項11号)について(取消事由1)

(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 そこで以上の見地に立って,本件商標と引用商標3との類否について検討する。


(2)ア本件商標の構成は,前記第2,2(1)のとおりであり,毛筆様の独特な書体で書した「PE'Z」と表記された文字から成る。「P」の文字は上部が丸味を帯び,下に伸びる線も若干左方向に曲がり,下部にいくにつれ太くなった後,先端はすぼまっている。「E」の文字は「P」の文字の上部に押されるかの様に右上から左下に斜めの形になっており,文字の右中央より下の部分に筆を押さえたか墨垂れの様な「点」がある。「Z」の文字は,上から下に延びる中央部分の線が,墨書したかの様にかすれている。


 各文字の大きさは同じではなく,「PE」の2文字を合わせた横幅と,相対的に大きな「Z」の文字の横幅はほぼ同じになっている。そして「PE」と「Z」の文字との間には,「’」の様な,上部が太く左に曲がって先が細くなる毛筆によるかの様な記号が記されている(被告はこれを「´」であるとするが,上記のように下部左方向に向けて曲がっており,便宜上「’」と表記する)。


 これに対し,引用商標3の構成は,前記第2,2(4)のとおりであり,「P」「E」「Z」の3文字を同じ大きさで配置し,各文字は厚みを帯びていることを表わして右上方向に黒い影を伴っている。「P」の文字では14個(丸味を帯びた部分は,曲線に沿って分かれており,各1個と数えた)の,「E」及び「Z」の各文字では各15個の,角が若干丸味を帯びた長方形が組み合わされて成る。その組合せ方は,各文字の直線部分は直線的に配するものの,「Z」の文字の斜線部分は,階段状に配して成るものである。


イ 一方,証拠(乙1〜7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。


ウ 上記アのとおり,本件商標は,「P」「E」の文字と「Z」の文字との間に「’」様の記号が存し,「P」「E」の2文字と「Z」の文字との横幅がほぼ同じで,「E」の文字の上部が「P」の文字の上部に押されたような構成である。また上記イで認定した取引の実情に係る事実によれば,ジャズバンド「PE'Z」は,1999年〔平成11年〕から「ペズ」と称して活動し,平成13年には最初のアルバムを発売し,その後も継続して作品を発表し,全国公演,テレビコマーシャル等への楽曲の提供のほか,本件商標の構成をCD等のほか,Tシャツ等の商品に用いて宣伝し活動していることが認められる。


 以上の事実によれば,本件商標からは,「PE'Z」の文字に相応して「ペズ」の称呼を生じると認められるところ(本件商標から「ペズ」の称呼が生じ得ることについては原告も争わない),本件商標からは「ペズ」の称呼のみが生じ,「ペッツ」の称呼は生じないというべきである。


 また,本件商標からは,ジャズバンドの「PE'Z」(ペズ)の観念が生じ得るというべきである。

 ・・・省略・・・

エ 一方,引用商標3及び原告が引用商標3を使用して販売した商品等に関
し,文献等には以下の記載がある。

 ・・・省略・・・

カ 上記アの引用商標3の構成,及び上記エ,オのとおりの販売実績等からすると,引用商標3からは「ペッツ」の称呼が生じるものと認められる(当事者間に争いがない)。


 そして,引用商標3から生じる観念としては,原告の販売する上部にキャラクターの付いたディスペンサー入りのキャンディーないしディスペンサーとの観念が生じ得るというべきである。


(3) 以上によれば,本件商標と引用商標3とは,「P」「E」「Z」の3文字を含む点に共通性があるということはできる。


 しかし,本件商標においては,「E」の文字と「Z」の文字との間に「’」様の記号が存在し,3文字の大きさも同じではなく,各文字が毛筆で丸味を帯びた態様で書して成り,立体的ではなく平面的であるのに対し,引用商標3では,「P」「E」「Z」の各文字は同じ大きさであり,14〜15個の長方形を組み合わせており,文字自体も「P」の文字の曲線部分以外は直線的で角張った印象を与えるものであり,文字自体に立体的な厚みを感じさせる影が付されている。そうすると,本件商標と引用商標3とは外観上区別することができるというべきである。


 また,上記のとおり,本件商標からは「ペズ」の称呼が生じるところ,引用商標3からは「ペッツ」の称呼が生じ,称呼においても両者は区別することができる。


 さらに両商標から生じ得る観念としては,「ジャズバンドのペズ」(本件商標),「原告の販売する上部にキャラクターの付いたディスペンサー入りのキャンデーないしディスペンサー」(引用商標3)との観念が生じ得るものであるから,両者は区別し得るものである。


 このように,本件商標は,外観,観念,及び称呼のいずれにおいても引用商標3と区別することができるのみならず,前記のように本件商標は音楽活動としてのジャズバンドの演奏会場における商品販売等を中心とするものであるのに対し,引用商標3は菓子販売等に伴うものに使用される等の取引の実情も併せ考慮すると,本件商標は引用商標3と類似するものと認めることはできない。


そうすると,本件商標が法4条1項11号に該当しないとした審決の判断は正当として是認できる。


(4) 原告の主張に対する補足的判断

ア 原告は,本件商標からは「ペッツ」の称呼も生じるから,称呼において類似すると主張する。


 しかし,本件商標からは「ペズ」の称呼が生じ,「ペッツ」の称呼は生じないことについては上記で認定したとおりである。原告の上記主張は採用することができない。


イ また原告は,「PE’Z」の「’」が被告主張のとおりダッシュであるならば,そこからは「分」や「フィート」などの称呼が生じると主張する。


 なるほど原告の提出する甲30(フリー百科辞典ウィキペディアWikipedia)」)には,プライム(´)は,約物のひとつで,対象となる文字の右肩に右上から打つ点であり,イギリスやその影響を受けた日本等ではこれを「ダッシュ」と呼ぶことも多く,「アポストロフィー」とは別のものであること,数の右肩に点(´)を1つ,2つと打つ表記がされることで時間やヤード・ポンド法における長さなどの単位を表すのに用いられ,「2´3?」は「2分3秒」,「2フィート3インチ」等を表すこと,の記載がある。また,原告主張のとおり,本件商標の構成を用いずに文字で表記した場合,被告提出の陳述書,及び被告が作成したジャズバンド「PE'Z」を紹介する冊子等にも,「´」(乙2)・「'」(乙3,4)等,種々の表記があることも認められる。


 しかし,本件商標の構成は上記第2,2(1)のとおりであり,本件商標における符号は毛筆様の表記がされていることから,これが原告主張の「アポストロフィ」であるのか被告主張の「ダッシュ」であるのかは判然とはしないものの,「P」「E」の文字と「Z」の文字の間にある記号であることに照らせば,そこから「ダッシュ」ないし「分」の称呼が生じるとするのは不自然であるから,原告の上記主張は採用することができない。


ウ 原告は,本件商標と引用商標3は,「P」「E」「Z」の文字を共通にし,アポストロフィの符号の有無が相違するだけであるから,外観において類似すると主張する。


 しかし,上記(2)アで認定したとおり,本件商標は毛筆様で「P」「E」「Z」の文字,及び「’」の記号が丸味を帯びて表記され,各文字の大きさも異なるのに対し,引用商標3は,各文字の大きさが同じで,長方形の組合せからなり厚みもあるものであって,本件商標と引用商標3は外観において区別し得るものであるから,原告の上記主張は採用することができない。


エ また原告は,本件商標からも,引用商標3が著名であることに照らし,原告の業務にかかる「種々のキャラクターを使った小型容器(dispenser)入りの小粒キャンディー」の観念が生じるから,引用商標3と観念が同一であると主張する。


 しかし,上記(2)ウで認定したとおり,本件商標からはジャズバンド「PE'Z」(ペズ)の観念は生じ得るが,原告の業務にかかる種々のキャラクターを使った小型容器(dispenser)入りの小粒キャンディーとの観念が生じるとは認められないから,原告の上記主張は採用することができない。』

 と判示されました。


 なお、本判決文中で引用されている最高裁判決は、

●『昭和39(行ツ)110 商標登録出願拒絶査定不服抗告審判審決取消請求 商標権 行政訴訟「氷山印事件」昭和43年02月27日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C20EFADEA9BCA1F249256A850031236C.pdf)

 です。


 明日に続きます。