●平成19(ワ)22715 特許権侵害差止等請求事件

 本日は、『平成19(ワ)22715 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「化粧料および燕窩抽出物の製造方法」平成21年06月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090709141802.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点1(被告製品1ないし4は構成要件A及びBを充足するか)の判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 山門優、裁判官 柵木澄子)は、


『1 争点1(被告製品1ないし4は構成要件A及びBを充足するか)について

(1) 「燕窩の含水溶剤抽出物」の意義

ア 本件発明の特許請求の範囲は,「燕窩の含水溶剤抽出物をスキンケア成分として含有することを特徴とする化粧料」であり,本件では,「燕窩の含水溶剤抽出物」に燕窩の酵素分解物が含まれるか否かが争点となっている。


イ そこで,特許請求の範囲に記載された「燕窩の含水溶剤抽出物」に燕窩の酵素分解物が含まれるか否かについて検討する。


(ア) 「燕窩の含水溶剤抽出物」とは『「燕窩」を「含水溶剤」で「抽出」した物』と解される。「溶剤」は,「溶媒」と同意語であり(乙45),「溶液,固溶体などにおいて,溶かされたものを溶質というのに対し,溶かすために用いるもの」,「溶液において物質を溶解させるために用いる液体」などと定義され(乙46,47),「抽出」は,一般的には,「固体,液体などの中のある成分を溶媒へ溶解させて分離する(取り出す,移行させる)こと」と定義されていることが認められる(甲37,乙9〜11,33〜35,53,54)。


 また,燕窩の成分であるタンパク質は,タンパク分解酵素(エンドペプチダーゼ)によって加水分解され,その際,酵素の基質特異性,基質の立体構造などの関係で,特定のペプチド結合だけが特異的に加水分解れることが認められる(乙24)。


 そうすると,このような酵素分解物と,単に水や水と水混和性有機化合物との混合物を溶媒として燕窩から抽出した物とでは,成分組成が全く同じにはならないと推論するのが,むしろ自然であると考えられる。


(イ) 一方,甲第49号証(岩波理化学辞典第5版)には,「抽出」には,「たんに目的物質を抽出相に溶解させて抽出するほか,適当な化学反応をおこさせて抽出しやすい物質に変えて抽出する場合がある」との記載が存在し,また,甲第56号証(日本生化学会編生化学実験講座1),甲第57号証(日本生化学会編生化学実験講座1),甲第58号証ないし63号証の各特許公報及び乙第44号証(シアル酸研究会のホームページ)等の各文献には,分解酵素を用いてタンパクや多糖を分解して可溶化し,材料から目的物質を取り出す方法についても,「抽出」という用語が用いられていることが認められる。


 しかしながら,甲第49号証には,単に,適当な化学反応を起こさせて抽出しやすい物質に変えた上で抽出する場合もあることが記載されているだけであって,単に「抽出」というだけで当然に,化学反応を起こして材料中の物質を取り出す場合も含まれると一般に認識されていることを認めるに足りるものではない(むしろ ,前記(ア)のとおり,「抽出」は,一般的には,「固体,液体などの中のある成分を溶媒へ溶解させて分離する(取り出す,移行させる)こと」と定義されていることからすると,通常,単に「抽出」というだけでは,化学反応を起こして材料中の物質を取り出す方法は含まれないものと認識されていることがうかがえる。)。また,甲第56号証ないし63号証及び乙第44号証等の各文献においては,いずれも,酵素処理による方法を用いていることが文中に明記されているものであることが認められることからすると,これらの証拠は,むしろ,「抽出」が特に酵素処理などの化学変化を起こさせる場合を意味するときは,それを明記するのが一般的であることをうかがわせるものといえる。


(ウ) 被告製品1ないし4にアナツバメ巣エキスとの名称が付されていることについては当事者間に争いがなく,また,甲第77号証の2によれば,被告のホームページにおいて「燕の巣エキス抽出精製プラント」などの表現がされているとの事実が認められる。


 しかしながら,これらの事実は,いずれも,被告において,燕窩から加水分解の方法によって物質を取り出すこと又は取り出した物質について,抽出ないし抽出物という用語を用いた事実があることを示すにとどまり,単に「含水溶剤抽出物」といった場合に,酵素等を用いて化学変化を起こさせる方法により物質を取り出す方法をも当然に含むものであることを認めるに足りるものではない。


(エ) 以上の事実にかんがみると,特許請求の範囲の「抽出」の用語から直ちに,「燕窩の含水溶剤抽出物」に燕窩の酵素分解物が含まれるものと解することはできない。

イ そこで,本件明細書の中の「燕窩の含水溶剤抽出物」についての記載を検討する。

 ・・・省略・・・

エ 以上のとおりであるから,特許請求の範囲の「燕窩の含水溶剤抽出物」に燕窩の酵素分解物が含まれると解釈することはできないというべきである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。