●平成20(行ケ)10427 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成20(行ケ)10427 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「基板処理装置及び基板処理方法及び基板の製造方法」平成21年06月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090701105204.pdf)について取り上げます。


 本件は、冒認出願を理由とする特許無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、冒認出願についての主張立証責任についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、


『1 冒認出願についての主張立証責任の判断の誤り(取消事由1),審決の結論に影響を及ぼす手続上の誤り(取消事由2) ,本件特許が冒認出願 に対してされたものであるとすることはできないとの判断の誤り(取消事由3)について


 審決は,無効審判請求人(原告)において,冒認出願であることの主張立証を尽くしたとはいえないとして,無効審判請求を成り立たないとした。しかし,当裁判所は,?冒認出願に関する主張立証責任の所在に関する判断に誤りがあること(取消事由1参照),?主張立証責任の所在に関する判断の誤りは,本件審理手続の過誤,及び審決の結論に影響する過誤であるといえること(取消事由2及び3参照)から,審決を取り消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。


(1)冒認出願に係る事実の主張立証責任ないし主張立証の程度について

 特許法は,29条1項に「発明をした者は,‥‥‥特許を受けることができる。」と,33条1項に「特許を受ける権利は,移転することができる。」と,34条1項に「特許出願前における特許を受ける権利の承継は,その承継人が特許出願をしなければ,第三者に対抗することができない。」と,それぞれ規定していることから明らかなとおり,特許権を取得し得る者を発明者及びその承継人に限定している。


 このような,いわゆる「発明者主義」を採用する特許制度の下においては,特許出願に当たって,出願人は,この要件を満たしていることを,自ら主張立証する責めを負うものである。


 このことは,36条1項2号において,願書の記載事項として「発明者の氏名及び住所又は居所」が掲げられ,特許法施行規則5条2項において,出願人は,特許庁からの求めに応じて譲渡証書等の承継を証明するための書面を提出しなければならないとされていることによっても,裏付けられる。


 ところで,123条1項は特許無効審判を請求できる場合を列挙しており,同項6号は,「その特許が発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。」(冒認出願)と規定する。


 同規定を形式的にみると,「その特許が発明者でない者・・・に対してされたとき」との事実につき,無効審判請求人において,主張立証責任を負担すると読む余地がないわけではないが,このような規定振りは,あくまでも同条の立法技術的な理由に由来するものであって,同規定から,29条1項等所定の発明者主義の原則を,変更したものと解することは妥当でない。


 したがって,冒認出願(123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において, 「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担すると解すべきである。


 もっとも,冒認出願(123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任を,特許権者が負担すると解したとしても,そのような解釈が,すべての事案において,特許権者において,発明の経緯等を個別的,具体的に主張立証しなければならないことを意味するものではない(むしろ,先に出願したという事実は,出願人が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認する重要な間接事実である。)。


 特許権者の行うべき主張,立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなものかによって大きく左右される。仮に無効審判請求人が,冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付け証拠を提出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なもので足りる。


 これに対して,無効審判請求人が冒認を裏付ける事情を具体的詳細に指摘し,その裏付け証拠を提出するような場合は,特許権者において,これを凌ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くされたと判断されることはないといえる。


 そして,冒認を疑わせる具体的な事情の内容は,発明の属する技術分野が先端的な技術分野か否か,発明が専門的な技術,知識,経験を有することを前提とするか否か,実施例の検証等に大規模な設備や長い時間を要する性質のものであるか否か,発明者とされている者が発明の属する技術分野についてどの程度の知見を有しているか,発明者と主張する者が複数存在する場合に,その間の具体的実情や相互関係がどのようなものであったか等,事案ごとの個別的な事情により異なるものと解される。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。