●平成21(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、「平成21(行ケ)10002 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「外径1.6 mmの灌流スリーブ」平成21年06月24日 知的財産高等裁判所」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090626140102.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、特許出願に際しての願書に添付した図面、および特許法29条1項3号における「刊行物に記載された」の意義の点で参考になる事案です。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


エ 審決は,引用例の明細書上の記載に加え,図3,4を参酌し,「図3及び4には,スリーブの末端部分26の外径寸法がステント32の外形寸法よりも小さい点が図示されている」として,スリーブとステントの大小関係から,(前記ウのとおり,通常,ステントの外径寸法が1.651mmであることを前提として)スリーブの末端部分の外径寸法が1.651mm以下であると認定している。


 しかし,特許出願に際して,願書に添付された図面は,設計図ではなく,特許を受けようとする発明の内容を明らかにするための説明図にとどまり,同図上に,当業者に理解され得る程度に技術内容が明示されていれば足り,これによって当該部分の寸法や角度等が特定されるものではない。


 本件では,前記ウのとおり,ステントの内径寸法は,通常,スリーブの末端部分の内径寸法より小さい1.397mmとなるべきところ,引用例の図3では,ステントの内径がスリーブの末端部分の内径よりも大きく図示されている。


 以上を前提とすると,引用例上の図面が,部材の大小関係を正確に踏まえて作成されたか否かは不明といわざるを得ず,このような図面のみに基づいて,引用例における部材の大小関係を認定することは適切ではない。


オ 前記ウのとおり,引用例におけるスリーブの末端部分の内径寸法が通常1.524mmであることからすれば,その外径寸法も,少なくとも1.524mm以上になるはずであるが,引用例の図3,4の記載を根拠として, これが1.651mm以下の範囲にあるとはいえず,外径寸法の値は,引用例の記載のみからは決定できないといわざるを得ない。


(2)ア 審決は,仮に,引用例の図3,4の図示内容ではスリーブの末端部分とステントの大小関係が明らかとはいえないとしても,スリーブの末端部分の外径をどの程度の寸法にするかは,当業者が必要に応じて決定し得る単なる設計事項にすぎず,引用例には,本願発明と実質的に同一の発明が記載されているとした上で,本願発明は特許法29条1項3号に該当する旨判断している。


 しかし,同号所定の「刊行物に記載された」というためには,当業者がその刊行物を見れば,特別の思考を要することなく実施し得る程度にその内容が開示されている必要がある。


 ・・・省略・・・


2 このように,本願発明につき特許法29条1項3号を適用することはできず,審決に,この点に関する誤りがあることは明らかである(なお,本判決は,本願発明が進歩性など他の特許要件を満たすか否かについては,何ら判断を示すものではない。)から,その余の点について判断するまでもなく,審決を取り消すこととする。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。