●平成20(行ケ)10279 審決取消請求事件 特許権「遊技機」

 本日は、『平成20(行ケ)10279 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「遊技機」平成21年06月16日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090617094520.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟であり、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許法29条1項柱書における「発明」の該当性についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 真辺朋子)は、


特許法29条1項柱書にいう「発明」性の有無について

(1) 原告は,前記のような内容を有する本件訂正発明1〜5は特許法29条1項柱書にいう「発明」に該当しないと主張するので,以下,検討する。


(2) 特許法29条1項柱書は,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明については特許を受けることができる」と定め,その前提となる「発明」について同法2条1項が,「この法律で『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定めている。


 そうすると,本件訂正発明1〜5が,(i)産業上利用できる発明ではない場合,(ii)自然法則を利用した発明でない場合,(iii)技術的思想の創作となる発明でない場合,(iv)技術的思想の創作のうち高度なものでない場合,のいずれかに該当するときは,同法29条1項柱書にいう「発明」に該当しないことになる(なお原告は,前記のとおり,本件訂正発明1〜5が上記(i)及び(iv)には該当しないことを自認している)。


 ところで,本件訂正発明1〜5は,前記のようにスロットマシン等の遊技機に関する発明であって,そこに含まれるゲームのルール自体は自然法則を利用したものといえないものの,同発明は,ゲームのルールを遊技機という機器に搭載し,そこにおいて生じる一定の技術的課題を解決しようとしたものであるから,それが全体として一定の技術的意義を有するのであれば,同発明は自然法則を利用した発明であり,かつ技術的思想の創作となる発明である,と解することができる。


 そこで,以上の見地に立って本件訂正発明の特許法29条1項柱書にいう発明該当性について検討する。


(3) 前記2のとおり,本件訂正発明1〜5は「遊技機」という機器に関する発明であり,上記ゲームのルールを機器に定着させたもの(例えば,実施例として「ゲームを実行するための予め設定されたプログラムに従って制御動作を行うCPU(クロックパルス発生回路,乱数発生器を含む。),スタートレバーを操作(スタート操作)する毎に行われる乱数サンプリングの判定に用いられる確率抽選テーブル,停止ボタンの操作に応じてリールの停止態様を決定するための停止制御テーブル,副制御回路82へ送信するための各種制御指令(コマンド)等を格納(記憶)するROMを含むマイクロコンピュータを主たる構成要素とする制御回路を用いて遊技処理動作を制御する技術を用いる」もの)であるから(なお,審決は,本件訂正発明1〜5が前記甲1発明〔特開2001‐314559号公報〕及び〔特開2000‐210413号公報〕との関係で特許法29条2項にいう進歩性があると判断しており,原告も本件訴訟においてこれを争わない。),全体として本件訂正発明1〜5は,自然法則を利用した発明であり,かつ技術的思想の創作となる発明であるというべきである。


(4) 原告の主張に対する補足的判断

ア 原告は,特許法39条,29条の2,29条1項及び2項の特許要件を判断するに際し,2つの発明を対比する場合に,周知慣用技術等を除外して検討することを挙げ,それと同様に特許法29条1項柱書の要件についても,「技術的に意義のある部分」について,自然法則利用の有無や技術的思想の創作該当性を判断すべきであると主張する。


 しかし,前記のように,特許法2条1項が「『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定め,同法29条1項柱書において,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる。」とした上で,「次に掲げる発明」として,1〜3号に公知発明等を挙げている。


 このような特許法の規定の仕方からすると,特許法は,特許を受けようとする発明が自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものであり,かつ産業上利用することができるものであるかをまず検討した上で,これらの要件を満たす発明であっても公知発明等に当たる場合には特許を受けることができないものと定めていると解すべきである。


 そうすると,特許法29条1項柱書該当性の判断に当たっては,特許法39条,29条の2,29条1項及び2項のように,2つの発明を対比することにより特許要件の有無を判断する場合とは異なり,特許請求の範囲によって特定された発明全体が自然法則を利用した技術的思想の創作に当たるかどうかを全体的に検討すべきであって,公知発明等に当たらない新規な部分だけを取り出して判断すべきではないと解される。


 原告の主張は独自の論理に基づくものであって,採用することができない。


イ「請求項2ないし5」について

 前述のとおり,本件特許の請求項1に係る発明(訂正発明1)が特許法29条1項柱書の要件を満たす以上,これを引用する他の請求項も同様に解される。


4 結語

 以上によれば,原告主張の取消理由は全て理由がない。

 よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。