●平成18(ワ)11429 特許権侵害差止等請求事件(1)

 今日は、午後1時〜6時まで、弁理士会会員研修の「特許・実用新案の鑑定研修(第1回)」を受講してきました。


 今日の第1回の研修は、4人の講師の方が鑑定について、それぞれの立場などから説明されました。今日の研修内容は、侵害鑑定の具体的なやり方というよりは、侵害鑑定における一般的な注意点・留意点というような内容で、個人的にはもう少し突っ込んだ内容でも良かったかとも思いましたが、鑑定についての他の先生方の意見や、留意点、考え方等がわかり、とても参考になりました。鑑定の具体的な判断の仕方等については、第2回目に期待したいと思います。


 なお、一人の講師の方が言っていましたが、「鑑定には、常に最近の判例のアップデートが必要であり、最近の裁判所・裁判官の判断の傾向を知る必要がある。」等と言っていましたが、私も全く同感でした。


 さて、本日は、大阪地裁の『平成18(ワ)11429 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「名称熱伝導性シリコーンゴム組成物及びこの熱伝導性シリコーンゴム組成物によりなる放熱シート」平成21年04月07日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090616132206.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、まず、ボールスプラライン最高裁事件で示された均等侵害の第5要件について判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 田中俊次、裁判官 西理香、裁判官 北岡裕章)は、


『3 争点2(GR−b等は本件各特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)

 前記1(5)のように,GR−b等は構成要件Bを文言上充足しないので,原告の予備的主張としての均等侵害の成否について検討する。


(1) 最高裁判所平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決(民集52巻1号113頁参照)は,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合に,なお均等なものとして特許発明の技術的範囲に属すると認められるための要件の1つとして,「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことを掲げており,この要件が必要な理由として,「特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側においていったん特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないからである」と判示している。


 そうすると,特許権者において特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したといった主観的な意図が認定されなくても,第三者から見て,外形的に特許請求の範囲から除外されたと解されるような行動をとった場合には,第三者の予測可能性を保護する観点から,上記特段の事情があるものと解するのが相当である。


 そこで,かかる解釈を前提に,本件において上記特段の事情が認められるかどうかについて検討する。


(2) 本件における出願経過については,前記1(3)において認定したとおりであり,本件補正をするに当たっての原告の主観的意図はともかく,少なくとも構成要件Bを加えた本件補正を外形的に見れば,カップリング処理された熱伝導性無機フィラーの体積分率を限定したものと解される。


 したがって,原告は,熱伝導性無機フィラーの体積分率が「40vol%〜80vol%」の範囲内にあるもの以外の構成を外形的に特許請求の範囲から除外したと解されるような行動をとったものであり,上記特段の事情に当たるというべきである。


 なお,本件拒絶理由通知は,単に組成物に係る発明だからという理由で,その組成比の記載がない本件出願は,特許法36条6項2号に規定する要件を充足しないと判断しているところ,この判断の妥当性には疑問の余地がないではない。


 しかし,第三者に拒絶理由の妥当性についての判断のリスクを負わせることは相当でなく,原告としても,単に熱伝導性無機フィラーの総量を定める意図だったというのであれば,その意図が明確になるような補正をすることはできたはずであり,それにもかかわらず,自らの意図とは異なる解釈をされ得るような(むしろそのように解する方が自然な)特許請求の範囲に補正したのであるから,これによる不利益は原告において負担すべきである。


(3) 以上により,GR−b等について,「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない」ことという要件を充たさないから,これらを本件各特許発明と均等なものとして,その技術的範囲に属すると認めることはできない。』


 と判示されました。