●平成20(行ケ)10342審決取消請求事件「暖房用のオイルラジエータ」

Nbenrishi2009-06-03

 本日は、『平成20(行ケ)10342 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「暖房用のオイルラジエータ」平成21年05月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090527170027.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、特許無効審判における、特許請求の範囲の用語の意義の解釈の点で参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大須賀滋、裁判官 齊木教朗)は、


『1 本件発明1の認定の誤りについて

 当裁判所は,本件発明1の特許請求の範囲の記載中の「チャネル状の区画」とは,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみを示すものであると限定して解釈する余地はない,したがって,ある放熱素子に設けられた第2の板状素子と,その放熱素子に隣接連結する放熱素子に設けられた第1の板状素子とによって形成される空間を含むのみならず,ある放熱素子に設けられたそれぞれの板状素子によって形成されるそれぞれの空間をも含むものと解すべきである,と判断する。その理由は,以下のとおりである。

(1) 本件発明に係る特許請求の範囲及び本件特許明細書(甲6)の記載

ア 特許請求の範囲(請求項1)の記載は,第2の2のとおりである。

イ また,本件特許明細書(甲6)には,以下のとおりの記載がある。

 ・・・省略・・・

(2) 本件発明1の「チャネル状の区画」の意義

ア 前記(1)アのとおり,特許請求の範囲(請求項1)の記載における「チャネル状の区画」について,「少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し」と規定されるのみであり,その他何らの限定もない。したがって,「チャネル状の区画」は,ある放熱素子に設けられた第2の板状素子と,その放熱素子に隣接連結する放熱素子に設けられた第1の板状素子とによって形成される空間を含むのみならず,ある放熱素子に設けられたそれぞれの板状素子によって形成されるそれぞれの空間をも含むものと解するのが相当であり,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみに限定して解する根拠はない。


 念のため,本件特許明細書の記載をも参酌して検討してみても,上記の解釈を左右する点はない。


 すなわち,本件特許明細書の記載によれば,部屋を暖めるオイルラジエータは,透熱性オイルを放熱素子に循環させて伝導と対流により部屋内に熱を伝達するものであるが,従来のオイルラジエータは,外面の表面温度が熱いオイルと同じ温度となり,これに接触した場合,人の皮膚に火傷を生じさせるおそれがあるとともに,表面が特殊なブレード状となっているため,衝突した際に特に子供にとって非常に危険であるという問題のあったものである(甲6,段落【0002】〜【0008】)。

 本件発明1は,このような問題点を解決するものであって,対流によって一層優れた熱交換効率を有する構成とし,人の皮膚に火傷を生じさせないように外面の温度が内部に入っているオイルの温度より低くされるにもかかわらず,部屋を暖める能力を低下させないとともに,外面を実質的に平坦にして極めて安全なオイルラジエータを提供することを目的とするものである。


 そのために本件発明1は,請求項1に係る構成を有するが,特に,放熱素子を構成する第1の板状素子と第2の板状素子において,第1及び第2の板状素子のそれぞれの外側面が,放熱素子の外側面の表面温度を低下させるための,及び,同時に放熱素子の熱交換効率を増大させるための第1及び第2の折り曲げ部を有しており,また,第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し,さらに,放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成する。これにより熱交換効率の向上に関していえば,冷たい空気は,オイルラジエータ本体の下から引き出され,チャネル状の区画の内部を通過することにより,オイルラジエータの表面温度を下げながら熱交換面に沿って流れ,オイルラジエータ外に放出されることにより,十分に部屋を暖めることを可能にする。


 以上のとおりであり,本件発明1における「チャネル状の区画」は,第1及び第2の板状素子における第1及び第2の折り曲げ部によって形成され,空気の流通性を高め,オイルラジエータの外面温度を抑える空気流通路であることが求められるが,それ以外に,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみに限定して解される余地はない。


イ これに対して,原告は,(i)請求項1の記載によると,同一の放熱素子に第1及び第2の板状素子があることを前提にした上で,チャネル状の区画の形成を特定して記載していること,(ii)段落【0018】においては,同一の放熱素子の板状素子間に形成された区画を「チャネル状の区画」としていること,(iii)【図3】等においては「チャネル状の区画」として符号15の空間が特定されていること,(iv)段落【0024】及び【0025】の「選択的な空気流のチャネル」に係る説明も同様に理解されること,(iv)段落【0027】の記載において,隣接する放熱素子間に形成された区画が「内側」と表現され,「チャネル状の区画」とは区別されて記載されていることを理由として,同一の放熱素子を形成する第1及び第2の板状素子によって形成される空間(【図3】等で符号15が付された空間)のみが「チャネル状の区画」に相当し,隣接する放熱素子の板状素子とによって形成される空間は「チャネル状の区画」に該当しないと限定して解釈すべきであると主張する。


 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。


 すなわち,前記のとおり,(i)特許請求の範囲の記載において,「チャネル状の区画」は,「少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し」と規定されるのみであり,その他何らの限定もないこと,(ii)本件特許明細書の記載のいずれを参酌しても,「チャネル状の区画」が,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみに限定されることによって生じる格別の機能,作用効果も示されていないことに照らすならば,原告の主張は,到底,採用する根拠とはなり得ない。』


 と判示されました。


 本件では、飯村敏明裁判長裁判官は、「念のため,本件特許明細書の記載をも参酌して検討してみても,上記の解釈を左右する点はない。」、というように、特許無効審判における、特許請求の範囲の用語の意義の解釈について、補足的に明細書の記載を参酌して特許請求の範囲の用語の意義の解釈しており、リパーゼ最高裁判決の原則により特許請求の範囲の用語の意義の解釈したのか、あるいはリパーゼ最高裁判決の例外により特許請求の範囲の用語の意義の解釈したのか明言していません(「念のため,本件特許明細書の記載をも参酌して」と言っていますので、リパーゼ最高裁判決の原則により判断したものと思いますが。)。


 しかし、先日の5/27の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090527)で取り上げた、『平成19(ワ)8426 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟「薄膜トランジスタ装置事件」平成21年05月20日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090527110329.pdf)において、東京地裁民事第29部の清水節裁判長裁判官は、特許法104条の3第1項に基づく権利行使の制限の主張における特許発明の要旨認定について、

侵害訴訟において特許法104条の3第1項に基づく権利行使の制限の主張が行われた場合の当該特許発明の要旨認定においても,同条項が「特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは」と規定されていることに照らし,特許無効審判手続及びその審決取消訴訟における発明の要旨認定の場合と同じ認定手法によるのが相当と認められる。


 したがって,上記権利行使の制限の主張が行われた場合の発明の要旨認定は,原則として,特許請求の範囲の記載に基づいて行われ,明細書の発明の詳細な説明の記載や図面が参酌されるのは,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限られると解すべきである。』

 というように、リパーゼ最高裁判決(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/75CB63A39AC99F3449256A8500311EAF.pdf)の原則通りに判断すると明言していますので、知財高裁でも、特許無効審判および特許法104条の3第1項のに基づく権利行使の制限の主張(特許無効の抗弁)における、特許発明の要旨認定と、リパーゼ最高裁判決との関係を明確にして頂きたいと思います。