●平成20(行ケ)10351 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

Nbenrishi2009-06-02

 本日は、『平成20(行ケ)10351 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成21年05月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090529100757.pdf)について取り上げます。


 本件は、本願商標は,国際標準化機構を表示する著名な標章となっている「ISO」と類似するから,商標法4条1項6号に掲げる商標に該当し,商標登録を受けることができないとした拒絶審決の取消しを求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標の類否判断と、商標法第4条1項6号(「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標は登録を受けることができない。」)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 浅井憲)は、


1 取消事由1(両標章の類否判断の誤り)について

(1) 本願商標のISO部分及びISO以外部分の一体性あるいは独立性本願商標の構成につき,原告は,本願商標のISO部分とISO以外部分とが不可分一体のものとして看取される旨主張するのに対し,被告は,独立して認識されるものである旨主張するので,以下,その外観,観念及び称呼の順に,その当否について検討する。


ア 外観について

(ア) 本願商標のうち,上段部分は,原告が主張するとおり,同じ書体,同じ大きさ(文字のポイント。以下同じ。)及び同じ色の欧文字を同じ間隔で横一連に書して成るものである。


 しかしながら,上段部分は,「ISO」,「Mount」及び「Extender」の3つの英単語が2つのハイフンを介して結合されたものであり,また,先頭の「ISO」がすべて大文字から成るのに対し,その余の2つの英単語はいずれも冒頭の文字のみを大文字と,その余の各文字をいずれも小文字とするものであるから,ISO部分は,ISO以外部分と異なる外観を呈するものであることが認められる。

(イ) また,下段部分も,原告が主張するとおり,同じ書体,同じ大きさ及び同じ色の欧文字あるいは片仮名を同じ間隔で横一連に書して成るものである。


 しかしながら,下段部分は,先頭の「ISO」が欧文字のみを書して成るのに対し,その余は片仮名のみを書して成るものであるから,上段部分と同様,ISO部分は,ISO以外部分と異なる外観を呈するものであることが認められる。


イ 観念について

(ア) 国際標準化機構(「International Organization for Standardization」)の英語上の略表記である「ISO」(引用標章)が本件出願日(平成18年7月11日)当時に著名な標章であったことは,原告も,これを争うものではない。


 そうすると,本願商標に接した需要者及び取引者は,そのISO部分から「国際標準化機構」との明確な観念を抱くのが通常であると認められる。


 他方,本願商標のISO以外部分(「Mount−Extender」及び「マウントエクステンダー」)からは,特定の観念が生じると判断し得るだけの事実を認めるに足りる証拠はない。


(イ) この点に関し,原告は,英語の接頭辞としての「iso」の意味,英単語としての「Mount」の意味及び「Extender」,「エクステンダー」等から成る登録商標の存在を理由として,本願商標からは「等しい山のようなエクステンダー」などの観念が生じる旨主張するが,ISO部分とISO以外部分とが結び付けられて生ずるという「等しい山」の観念自体が極めて不明確なものであり,具体性に欠け,かえって,ISO部分とISO以外部分とを分離して,「国際標準規格」に合った「マウントエクステンダー」という商品を想起させる可能性が高いことなどに照らせば,本願商標に接した需要者及び取引者が少なくとも原告主張のような観念を抱くものとは認め難いというべきである。


 また,原告は,本願商標のISO部分が英語の接頭辞として認識される旨主張するが,同商標のうち,上段部分については,先頭の「ISO」がすべて大文字から成るのに対し,その余の2つの英単語はいずれも冒頭の文字のみを大文字と,その余の各文字をいずれも小文字とするものであること,下段部分については,先頭の「ISO」が欧文字のみを書して成るのに対し,その余は片仮名のみを書して成るものであることに照らせば,同商標のISO部分が英語の接頭辞として認識され,「国際標準化機構」との観念を生じないということはできない。これがまた,前記説示で「国際標準規格」に合った「マウントエクステンダー」という商品といった観念が生ずる可能性が高いと判断した理由でもある。


 さらに,原告は,「ISO」の語は,「ISO 12100」などのように,5桁の規格番号が付されて意味を持つものであるから,需要者及び取引者は,「ISO」の語が規格番号と結合したときに,これを国際標準規格であると認識するといえるが,当該規格番号と結合したものでない本願商標は,国際標準化機構とのつながりがないものとして需要者及び取引者に認識されると主張するが,「ISO 12100」などの語を国際標準規格であると認識する需要者及び取引者の判断が,前記説示したところからしても,一般的にいって,「ISO」に着眼しての判断であると解されるのであって,規格番号と結合しない「ISO」の語であれば,これを「国際標準化機構」とつながりがあるものとは認識しないとまでいうことはできない。


ウ 称呼について

(ア) 本願商標から生じる称呼としては,同商標を構成する各英単語の通常の読み(発音)及び片仮名の存在からして,「アイエスオーマウントエクステンダー」,「アイソマウントエクステンダー」及び「イソマウントエクステンダー」の3つが考えられる。


 しかし,上記3つの称呼のうち,原告が主張する後2者をみても,これらが有する音節数は,決して少ないものではないし,また,「マウントエクステンダー」又は「エクステンダー」との称呼は,需要者及び取引者になじみの深い英単語として,通常よく使用するものとみることもできないことに加えて,本願商標のうち,上段部分については,先頭の「ISO」の次にハイフンが配されていること,下段部分については,先頭の「ISO」が欧文字のみを書して成るのに対し,その余は片仮名のみを書して成るものであること,上記イのとおり,本願商標のISO部分からは「国際標準化機構」との観念が明確に生じるのに対し,ISO以外部分からは特定の観念が生じるとはいえないことをも併せ考えると,本願商標が,上段部分と下段部分という違いはあるが,いずれも同じ書体,同じ大きさ及び同じ色の欧文字又は片仮名を同じ間隔で横一連に書して成るものであることを考慮に入れてもなお,本願商標に接した需要者及び取引者は,同商標のISO部分とISO以外部分とを区別し,これらを「アイソ,マウントエクステンダー」又は「イソ,マウントエクステンダー」というように,「アイソ」又は「イソ」と「マウントエクステンダー」とを区切って称呼するものと認めるのが相当であり,当該需要者及び取引者にとって,原告主張のように,これを一息によどみなく称呼するのが自然であると認めることはできないというべきである。


 そして,以上説示したところは,上記3つの称呼のうち,「アイエスオーマウントエクステンダー」との称呼についても,同様に当てはまるものといわなければならない。


(イ) この点に関し,原告は,「isoagglutination」(アイソアグルティネーション)等の13音にまで及ぶ単語も,一連に称呼するものとされていると主張するが,甲7によっても,「isoagglutination」等の単語に接した需要者及び取引者が,これを一息によどみなく称呼するものとまで認め得るものではなく,その他,そのように認めるに足りる証拠はない。


 また,原告は,接頭語「iso−」を冠した英単語は,一連に称呼して初めてその意味を理解することができるとも主張するが,そのような英単語についても,必ずしも一連に称呼せずとも,そのすべてを称呼し,又は視認すれば,その意味を理解することができるのであるから,仮に,本願商標のISO部分が英語の接頭辞であるとしても,これに続くISO以外部分と一連によどみなく称呼されることの根拠となるものではない。


 さらに,原告は,仮に,本願商標の称呼が多少冗長であるため,途中で一息つくとしても,「アイソマウント」と「エクステンダー」とに分離されるとみるのが自然であると主張するが,本願商標のうち,下段部分が「ISO」の欧文字と「マウ
ントエクステンダー」の片仮名とから構成されることに照らしても,そのようにいうことはできないというべきである。


エ 小括

 以上説示したところによれば,本願商標のISO部分は,上段部分及び下段部分のいずれも,外観,観念及び称呼の点からみて,ISO以外部分から独立して看取されるものといえるのであって,以上の判断を覆し,ISO部分とISO以外部分とを不可分一体のものと看取すべき特段の事情があると認めさせるだけの証拠はない。


(2) 両標章の類否

 原告は,免震装置等に係る取引の実情についてるる主張し,両商標が類似しない旨主張するが,前記(1)において説示したところによれば,本願商標のISO部分と引用標章とは,その外観,観念及び称呼において共通するといえ,引用標章が国際標準化機構を表示するものとして著名であることにも照らせば,原告が主張する取引の実情を考慮してもなお,本願商標に接した需要者及び取引者は,同商標を付した商品,当該商品を製造・販売するなどする業者等が国際標準化機構が定める国際規格に適合するなどの印象を抱くものと認められるから,両標章は,互いに類似するものと認めるのが相当であり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないというべきである。

(3) したがって,取消事由1は理由がない。


2 取消事由2(商標法4条1項6号の規定の解釈適用の誤り)について

 原告は,「ISO−」の構成を有する商標につき,国際標準化機構以外の者を権利者として,欧米において数多くの商標登録がされているとして,これを根拠に,我が国において本願商標につき商標登録がされたとしても,国際信義に反することはないから,本件出願を拒絶する旨の本件審決は商標法4条1項6号の規定の解釈適用を誤ったものである旨主張する。


 しかしながら,商標法4条1項6号の規定は,同号に掲げる団体の公共性にかんがみ,その権威を尊重するとともに,出所の混同を防いで需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものであり,同号の規定に該当する商標,すなわち,これらの団体を表示する著名な標章と同一又は類似の商標については,これらの団体の権威を損ない,また,出所の混同を生ずるものとみなして,無関係の私人による商標登録を排斥するものであると解するのが相当である。


 そうすると,仮に,欧米において,「ISO−」の構成を有する商標につき国際標準化機構以外の者を権利者とする数多くの商標登録がされているとしても,そのことをもって,我が国において,引用標章と類似する本願商標に係る本件出願を拒絶した本件審決が,商標法4条1項6号の規定の解釈適用を誤ったということはできないから,取消事由2も理由がない。


3 結論

 以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。