●平成20(行ケ)10151審決取消請求事件「旅行業向け会計処理システム

Nbenrishi2009-05-31

 本日は、5/25(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20090525)に続いて、『平成20(行ケ)10151 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「旅行業向け会計処理システム」平成21年05月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090525164011.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の棄却審決の取消を求めた審決取消訴訟事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本件特許発明が自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するか否かの判断についても参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 中平健、裁判官 上田洋幸)は、


2 本件特許発明が自然法則を利用した技術的思想の創作に該当すると判断した誤り(取消事由2)について


 当裁判所は,審決が,本件特許発明は自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するとした判断に誤りはなく,取消事由2は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。


(1) 請求項1に係る発明について

ア 請求項1に係る発明は,旅行業向け会計処理装置の発明であり,経理ファイル上に,「売上」と「仕入」とが,「前受金」,「未収金」,「前払金」,「未払金」と共に,一旅行商品単位で同日付けで計上されるようにしたことを特徴とする(1P)。その構成は,電子ファイルである経理ファイル(1A),第1の計上要求操作(「売上」及び「仕入」の同日付計上を要求)と第2の計上要求操作(「入金」又は「支払」の計上を要求)があったことをそれぞれ判別する操作種別判定手段(1B),操作種別判定手段により第1の計上要求操作ありと判定されたときに実施される第1の計上処理手段(1C),操作種別判定手段により第2の計上要求操作ありと判定されたときに実施される第2の計上処理手段(1D)を有し,第1の計上処理手段(1C)は,前受金判定手段(1E),売上計上処理手段(1F),前払金判定手段(1G),仕入計上処理手段(1H)を含み,第2の計上処理手段(1D)は,売上仕入済み判定手段(1I),売上仕入前計上処理手段(1J),売上仕入後計上処理手段(1K)を含み,さらに,売上仕入前計上処理手段(1J)は,操作種別判定手段(1L),前受前払金の計上処理手段(1M)を含み,売上仕入後計上処理手段(1K)は,操作種別判定手段(1N),未収未払金の計上処理手段(1O)を含むものである。

 そして,上記各手段は,コンピュータプログラムがコンピュータに読み込まれ,コンピュータがコンピュータプログラムに従って作動することにより実現されるものと解され,それぞれの手段について,その手段によって行われる会計上の情報の判定や計上処理が具体的に特定され,上記各手段の組み合わせによって,経理ファイル上に,「売上」と「仕入」とが,「前受金」,「未収金」,「前払金」,「未払金」と共に,一旅行商品単位で同日付けで計上されるようにするための会計処理装置の動作方法及びその順序等が具体的に示されている。


 そうすると,請求項1に係る発明は,コンピュータプログラムによって,上記会計上の具体的な情報処理を実現する発明であるから,自然法則を利用した技術的思想の創作に当たると認められる。


イ この点,原告は,
(i)請求項1において特定された「手段」は,本件特許の特許出願の願書に添付された図面の図3ないし5に示された処理手順の各ステップの内容を特定したものであるところ,この処理手順及び各ステップの内容は,請求項1にいう同日付計上の会計処理を,伝票と手計算で実行する際の手順及び内容と同様のものであり,上記特定は,手計算に代えてコンピュータを使用したことに伴い必然的に生じる特定にとどまること,

(ii)本件特許発明の作用効果である「売上と仕入を一旅行商品単位で同日計上することから,従前の旅行業者向けの会計処理装置では不可能であった,一旅行商品単位での利益の把握が可能となる。また,同様に従前の旅行業向け会計処理装置では不可能だった債権債務の管理が可能となるため,不正の防止や正しい経営判断が容易となる。」は,自然法則の利用とは無関係の会計理論又は会計実務に基づく効果にすぎないことなどから,請求項1に係る発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作とはいえない,と主張する。


 しかし,原告の上記主張は,採用することができない。

 すなわち,
(i)本件特許の特許出願の願書に添付された図面の図3は,本件特許発明に係る旅行業向け会計処理装置による処理操作の一例を示す概略フローチャート,図4は,第1計上処理を示す詳細フローチャート,図5は,第2計上処理を示す詳細フローチャートであり(甲10),コンピュータプログラムに従ってコンピュータにより行われるべき情報処理の流れが開示されていること,

(ii)請求項1においては,それぞれの手段について,その手段によって行われる会計上の情報の判定や計上処理が具体的に特定され,コンピュータに対する制御の内容が具体的に示されていること,

(iii)その処理手順等は,その性質上,伝票と手計算で実行する際の処理手順等と全く同様ではなく,相違する点があることに照らして,原告の主張は,その前提を欠くものであって,採用の限りでない。

 また,コンピュータを利用することによって,所定の情報処理を迅速・正確に実現することを目的とする発明の構成中に,伝票と手計算によって実現できる構成要素が含まれていたとしても,そのことによって,当該発明全体が,自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しないとするいわれはないから,この点の原告の主張も採用の限りでない。


 さらに,本件明細書(【0068】)には,本件特許発明の作用効果として,「売上と仕入を一旅行商品単位で同日計上することから,従前の旅行業者向けの会計処理装置では不可能であった,一旅行商品単位での利益の把握が可能となる。また,同様に従前の旅行業向け会計処理装置では不可能だった債権債務の管理が可能となるため,不正の防止や正しい経営判断が容易となる。」と記載されており,本件特許発明は,上記の作用効果を目的とするものであることが認められ,上記の作用効果は,人の精神活動に基づいて体系化された会計理論,会計実務を前提とし又は応用したものを含むといえる。


 しかし,上記のような作用効果が含まれていたとしても,そのことによって,コンピュータの利用によって実現される発明全体が,自然法則を利用した技術的思想の創作に該当しないとするいわれはないから,この点の原告の上記主張も採用の限りでない。


 以上のとおり,請求項1に係る発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作に当たる。


(2) 請求項2ないし4に係る発明について

 請求項2は,「1の旅行商品を構成する乗り物や宿泊施設等の項目,並びに,各項目に関する売上や仕入等の金額データを登録するための予約カードに相当する電子ファイルである旅行商品ファイルを有し,旅行商品ファイル内に登録された『売上』及び『仕入』に関する各項目の金額データが全て確定していることを条件として起動されるように構成された,ことを特徴とする請求項1に記載の旅行業向け会計処理装置。」であり,請求項1に係る発明に限定を付したものであるから,請求項2に係る発明も,自然法則を利用した技術的思想の創作に当たる。


 請求項3に係る発明は,請求項1の構成をすべて備えた旅行業向け会計処理装置として,コンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムの発明であるから,請求項3に係る発明も,自然法則を利用した技術的思想の創作に当たる。

 請求項4は,「1の旅行商品を構成する乗り物や宿泊施設等の項目,並びに,各項目に関する売上や仕入等の金額データを登録するための予約カードに相当する電子ファイルである旅行商品ファイルを有し,旅行商品ファイル内に登録された『売上』及び『仕入』に関する各項目の金額データが全て確定していることを条件として起動されるように構成された,ことを特徴とする請求項3に記載のコンピュータプログラム。」であり,請求項3に係る発明に限定を付したものであるから,請求項4に係る発明も,自然法則を利用した技術的思想の創作に当たる。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 なお、発明が自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するか否かの知財高裁の判断については、昨年の6/25の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080625)にて取り上げた、

●『平成19(行ケ)10369 審決取消請求事件 特許権「双方向歯科治療ネットワーク事件」平成20年06月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080625101726.pdf)

 の判断がとても参考になります。