●昭和49年に出された知財事件の最高裁判決

 本日は、昭和49年に出された知財事件で、裁判所HP(http://www.courts.go.jp/)に掲載されている最高裁判決について、下記の通り、簡単に紹介します。


●『昭和47(オ)659  特許権 民事訴訟「一眼レフレックスカメラ事件」昭和49年06月28日 最高裁判所第二小法廷 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070313181542.pdf


 ・・・『特許権は新規な工業的発明に対して与えられるものである以上、その当時において公知であつた部分は新規な発明とはいえないから、特定の特許発明の技術的範囲を確定するにあたつては、その当時の公知の部分を除外して新規な技術的思想の趣旨を明らかにすることができるものと解するのが相当である最高裁昭和三七年一二月七日第二小法廷判決・民集一六巻一二号二三二一頁、同三九年八月四日第三小法廷判決・民集一八巻七号一三一九頁参照)。


 しかして、所論の技術的思想が本件特許出願以前から公知であつた旨の原審の認定事実は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の挙示する証拠に照らして、首肯することができないものではないから、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解を主張し、原審の専権に属する証拠の取捨判断及び事実の認定を非難するに帰し、採用することができない。

 ・・・

 本件特許発明及び被上告人製品の目的、構造及び作用効果に関する所論原審認定の事実関係は、原判決の挙示する証拠関係とその説示に照らして、首肯することができないものではない。そして、右事実関係のもとにおいては、本件特許発明と被上告人製品との間にはその構造及び作用効果に差異があり、したがつて、被上告人製品が本件特許発明の技術的範囲に属するものではない旨の原審の判断は、正当として是認することができる。』、等と判示した最高裁判決。


●『昭和45(行ツ)45 審決取消請求 意匠権 行政訴訟「可撓性ホース事件」昭和49年03月19日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120444435426.pdf)


 ・・・『原判決は、本件登録意匠が意匠法(以下「法」という。)三条二項に該当するから無効であるとの上告人の主張を排斥するに当たり、同条一項は、同一又は類似の物品に関する意匠について創作性のあることを登録要件とし、同条二項は、右以外の物品に関する意匠について創作性のあることを登録要件とした規定であるから、本件登録意匠にかかるホースのように同一分野の物品の関係において意匠が創作性を有するかどうかを判断するには、専ら同条一項によるべく、同条二項を適用する余地はないと説示している。


 思うに、意匠は物品と一体をなすものであるから、登録出願前に日本国内若しくは外国において公然知られた意匠又は登録出願前に日本国内若しくは外国において頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似の意匠であることを理由として、法三条一項により登録を拒絶するためには、まずその意匠にかかる物品が同一又は類似であることを必要とし、更に、意匠自体においても同一又は類似と認められるものでなければならない。


 しかし、同条二項は、その規定から明らかなとおり、同条一項が具体的な物品と結びついたものとしての意匠の同一又は類似を問題とするのとは観点を異にし、物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合を基準として、それから当業者が容易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり、そのモチーフの結びつく物品の異同類否はなんら問題とされていない。


 このことを同条一項三号と同条二項との関係について更にふえんすれば、同条一項三号は、意匠権の効力が、登録意匠に類似する意匠すなわち登録意匠にかかる物品と同一又は類似の物品につき一般需要者に対して登録意匠と類似の美感を生ぜしめる意匠にも、及ぶものとされている(法二三条)ところから、右のような物品の意匠について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とするのに対し、三条二項は、物品の同一又は類似という制限をはずし、社会的に広く知られたモチーフを基準として、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするものであつて、両者は考え方の基礎を異にする規定であると解される。


 したがつて、同一又は類似の物品に関する意匠相互間においても、その意匠的効果の類否による同条一項三号の類似性の判断と、その一方の意匠の形状、模様、色彩等に基づいて当業者が容易に他方の意匠を創作することができたかどうかという同条二項の創作容易性の判断とは必ずしも一致するものではなく、類似意匠であつて、しかも同条二項の創作が容易な意匠にも当たると認められる場合があると同時に、意匠的効果が異なるため類似意匠とはいえないが、同条二項の創作容易性は認められるという場合もありうべく、ただ、前者の場合には、同条二項かつこ書により「同条一項三号の規定のみを適用して登録を拒絶すれば足りるものとされているのである。


 もつとも、法四九条三号は、「意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が前二号に掲げる意匠(登録出願前に外国において公然知られた意匠及び登録出願前に外国において頒布された刊行物に記載された意匠)に基いて容易に意匠の創作をすることができた場合における意匠」について、その登録無効審判の請求期間を制限しており、これに対応する登録無効事由を定めた実体規定を強いてあげるとすれば、三条一項三号をおいてほかにはないが、このことから直ちに、同条一項三号に定める「類似」の意味を創作の容易と同義に解し、同条一項三号は、同条一項一号及び二号に掲げる意匠に基づき当業者が容易に創作することができた意匠について登録拒絶を定めたものであると解することは、上記の説示に照らし相当でない。


 してみると、右と異なり、同一又は類似の物品の意匠については同条二項を適用する余地がないとした原審の判断には、同条の解釈を誤つた違法があるというべきである。』、等と判示した最高裁判決。