●平成20(行ケ)10449 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

 本日は、『平成20(行ケ)10449 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成21年05月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090512170444.pdf)について取り上げます。


 本件は、本件商標が商標法4条1項15号(混同を生ずるおそれ)に違反するとしてこれを無効とする審決をしたことから,これに不服の原告がその取消しを求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本件商標登録の法4条1項15号該当性の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 真辺朋子)は、


2 本件商標登録の法4条1項15号該当性の有無について

 審決は,本件商標登録には法4条1項15号(混同を生ずるおそれ)に該当する事由があるとして同登録は無効であると判断し,原告はこれを争うので,以下,同登録に上記無効事由があるかどうかについて判断する。


(1) 法4条1項は,その10号から15号において,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標を不登録事由と定めているが,その規定の仕方からみると,典型的に混同を生ずるおそれのある例を10号ないし14号において具体的に規定するほか,それ以外で混同を生ずるおそれがある商標についての登録を排除するため,いわば一般条項ないし総括規定として15号を設けたものと解される。


 そして,上記のような法4条1項10号ないし15号の趣旨からすると,15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(広義の混同を生ずるおそれ)がある商標を含むものと解される。


 そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,(i)当該商標と他人の表示との類似性の程度,(ii)他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,(iii)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,(iv)用途又は目的における関連性の程度,(v)商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。


 そこで,上記の観点から,本件商標登録が法4条1項15号の規定に違反するものであるかどうかについて検討する。


(2) 本件における事実関係

 ・・・省略・・・

(3) 検討

ア まず本件商標と引用商標1の類似性の程度についてみると,本件商標の構成は,前記のとおり,上部が下部よりも広がったホームベース形のポケット形状の外周に沿って3本(上辺)ないし2本(その余)の破線の縫い目(ステッチ)を入れ,内部のほぼ中央に2本のステッチが入っている。


 そのステッチはポケットのほぼ中央の若干下部を中心とし,そこから波形に左右に延びる2本の線で構成され,右側に延びるものが左側に延びるものよりも上部に延びており,線対称ではない。また上下の線の間は等間隔ではなく,右側では中央を離れるに従って広がり,左側は最も高い辺りでの幅が広くなり,左端に向かうにつれ一端狭くなった後,左端付近が一番広くなっている。一方,被告バックポケットの形状は,基本的には引用商標1のとおりであって,上部が下部よりも広がったホームベース形のポケットの外周に沿って2重にステッチを施し,ポケットの中央下部を中心としてそこから弓形に左右に延びる2本線で構成される線対称のステッチがあるものである。そして両者は,いずれも上部が下部よりも広がったホームベース形のポケットの外周に沿って2重にステッチを施し,ポケットの中央下部を中心としてそこから左右に延びる2本のステッチで構成される基本的な態様が共通することから,両者は相当程度近似する形状であると認めることができる。


イ 次に基本的に引用商標1の形状を有する被告バックポケットの表示の周知著名性及び独創性の程度についてみると,被告バックポケットの形状は,ジーンズの元祖ともいえるメーカーによるものとして100年以上にわたり基本的に変化がなく,バックポケットの形状に注意を喚起する旨の多数の宣伝広告がされ,我が国においてもトップレベルの販売実績・シェアを持つこと等により,本件商標の出願時(平成17年6月8日)及び登録時(平成18年1月13日)において,ファッション関連商品の取引者及び一般消費者を含む需要者の間で広く知られており,しかもその周知著名性の程度は極めて高いものであると認めることができる。


ウ 次に本件商標の指定商品等と被告の業務に係る商品等との間の性質についてみると,本件商標の指定商品は,前記のとおり,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であり,これに対し,引用商標1の指定商品は第20類「クッション,座布団,まくら,マットレス」,第24類「布製身の回り品,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」,第25類「被服」であって,本件商標と被告の業務に係る商品との関連性の程度は高いというべきである。


エ さらに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情についてみると,前記のとおりファッション関連商品の取引者及び一般消費者を含む需要者が共通性を有していることが明らかである。


オ 以上を総合すると,本件商標をその指定商品について使用したときには,引用商標1又は被告バックポケットの形状が強く連想され,本件で想定される一般消費者を含む取引者ないし需要者において普通に払われる注意力を基準とした場合,被告ないし被告と関係のある営業主の業務に係る商品等であると誤信させ被告の商品等との混同を生じさせるおそれがあると認めるのが相当である。


 そうすると本件商標は,被告の商品と混同を生じさせるおそれがあるものとして,法4条1項15号に該当するということになり,その旨をいう審決の判断に誤りはない。


(4) 原告の主張に対する補足的判断

 ・・・省略・・・

ウ 取消事由3・4について

 原告は,本件の需要者は取引者及び服飾事情に通じた者に限られるから混同が生じない(取消事由3),需要者が服飾事情に通じない者であっても,そのような者はもともと被告のバックポケットの形状ないし引用商標1に馴染みはないから,混同を生ずるおそれはない(取消事由4)と主張する。


 しかし,本件で想定される取引者ないし需要者及びその注意力を基準とした場合に被告商品等と混同を生ずるおそれがあることについては上記(3)で認定したとおりである。原告の上記主張は採用することができない。

 ・・・省略・・・

オ 取消事由6について

 原告は,審決が,近似するとする形状は多数存在する(群生する)ことを主張して混同を生ずるおそれがないことを主張したにもかかわらず,混同を生ずるかどうかは個別具体的に判断されるものであるとして被請求人である原告の主張を斥けたのは誤りであると主張する。


 しかし,本件商標につき,被告の商品等と混同を生ずるおそれがあることについては上記(3)で認定したとおりであるから,被請求人である原告の上記主張を斥けた審決の判断に誤りはない。原告の上記主張は採用することができない。


3 結語

 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 なお、本判決中で引用している最高裁判決は、

●『平成10(行ヒ)85 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「レールデュタン事件」平成12年07月11日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2BD2D9C68C5FF8C049256DC70026814F.pdf

です。


 詳細は、本判決文を参照して下さい.