●平成11(ネ)6345 著作権 民事訴訟「キューピー人形事件」(2)

Nbenrishi2009-05-09

 本日も、昨日に続いて、『平成11(ネ)6345 著作権 民事訴訟「キューピー人形事件」 平成13年05月30日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/008E710F3B2B7DFB49256A92002770BE.pdf)について取り上げます。


 本件では、色々な争点がありますが、複製又は翻案についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、東京高裁(第13民事部 裁判長裁判官 篠原勝美、裁判官 石原直樹、裁判官 長沢幸男)は、

 14 複製又は翻案について

(1) 二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁)。


 これを本件についてみると、上記のとおり、本件著作物は、本件イラスト著作物中に描かれたキューピーイラストを原著作物とする二次的著作物であり、また、原著作物であるキューピーイラストを立体的に表現した点においてのみ創作性を有するから、立体的に表現したという点を除く部分については、キューピーイラストと共通しその実質を同じくするものとして、本件著作権の効力は及ばないというべきである。


(2) そこで、この見地から控訴人主張の複製又は翻案の成否について判断すると、本件著作物それ自体が証拠として提出されていない本件においては、その複製物である本件人形と被控訴人イラスト等を対比検討するのが相当である。


 ア まず、被控訴人人形を本件人形と対比すると、両者とも、裸の中性的なふっくらとした乳幼児の体型をした人形であり、頭部が全身と比較して大きく、後頭部の中心が突き出したように張り出ている点、頭の中央部分及び左右の部分にとがった形状の特徴的な髪の毛が生え、中央部分の毛は前に垂れ、その余の部分には髪の毛がなく、後頭部ないし両肩部に小さな双翼を備えているなどの点で共通した特徴がある。


 しかしながら、立体的な表現という観点も踏まえ、更に検討すると、以下のとおりの差異が認められる。すなわち、被控訴人人形は、眉が円弧状にやや厚みをもって描かれているのに対し、本件人形は、眉が点のように描かれている。


 被控訴人人形は、口の両端が膨れた頬に埋まるかのように厚みをもって表現され、長さは両目の間とほぼ同距離であり、わずかに開き、ほぼ直線であるのに対し、本件人形では、口が下向きの単純な円弧の線として表現され、左右の目の中央部付近にまで広がっている。被控訴人人形は、鼻が二つの穴まで表現されているのに対し、本件人形は、鼻がわずかな膨らみで表現され二つの穴はない。被控訴人人形は、頬が膨らみ少し下方に垂れているのに対し、本件人形は、頬が下方に垂れていない。被控訴人人形は、双翼が両肩部に付けられ貝殻状をしているのに対し、本件人形は、双翼が後頭部から首の後方部左右に付けられている。被控訴人人形は、胴体は尻の部分が最も太いのに対し、本件人形は、胴中央部が最も太い。被控訴人人形は、膝が上下に溝を付けることで表現されているのに対し、本件人形は、膝には溝がない。被控訴人人形は、手の甲及び指の根本にくぼみが表現されているのに対し、本件人形は、その表現がない。被控訴人人形は、尻が背中部分に比べ後方に突き出しているのに対し、本件人形は、背中から尻にかけて突き出すことなく連続して、下方に向けて狭まっている。


イ 次に、被控訴人イラストは、平面的な著作物であるから、立体的な本件著作物の創作的な表現が再生されているというためには、被控訴人イラストから立体的な表現を看取することができるか、看取された立体的表現が本件人形の内容及び形式を覚知させるか、又は本件著作物の本質的な特徴を直接感得させるものであることを要するというべきである。


 この観点から被控訴人イラストを見ると、その表現は平面的であって、人形が描かれているという点においてのみわずかに立体的表現が看取されるというにとどまり、本件著作物の内容及び形式、本質的な特徴のいずれも感得させるものとはいい難い。


 さらに、表現の細部について被控訴人イラストを本件人形と対比すると、以下のとおりである。すなわち、被控訴人イラストは、頭頂部のみに髪の毛があるのに対し、本件人形は、頭部の中央及び左右にわずかに髪の毛が生えている。被控訴人イラストは眉が無いのに対し、本件人形は眉がある。被控訴人イラストは、はっきりと大きく丸みを帯びた耳が描かれているのに対し、本件人形は、耳の存在が不明りょうである。被控訴人イラストは、口を短く描き、黒目が左下方を向いているのに対し、本件人形は、口が左右に細長く、黒目が左方を向いている。被控訴人イラストは、へそが黒く塗りつぶした円で強調して表現されているのに対し、本件人形は、このように強調した表現がされていない。


 被控訴人イラストは、胴から両足の部分について輪郭線が円弧状に連続的に描かれているのに対し、本件人形は、Y字状のくびれが表現されている。被控訴人イラストは、双翼が両腕の上からはっきりと視認し得るのに対し、本件人形は、正面からはこれが明確には視認し得ない。被控訴人イラストは、膝が表現されていないのに対し、本件人形は、膝小僧が表現されている。


  (3) そうすると、本件著作物が原著作物であるキューピーイラストを立体的に表現した点においてのみ創作性を有し、その余の部分に本件著作権は及ばず、他方、被控訴人イラスト等が上記の諸点において本件人形と相違し、全体的に考察しても受ける印象が本件人形と異なることに照らすと、本件著作物において先行著作物に新たに付加された創作的部分は、被控訴人イラスト等において感得されないから、被控訴人イラスト等は、本件著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものでもなく、また、本件著作物の本質的な特徴を直接感得させるものでもないから、本件著作物の複製物又は翻案物に当たらないことは明白である。


(4) 控訴人は、本件著作物の原著作物であるキューピーイラストについて我が国における保護期間が満了していないことを理由として、本件著作権の効力が原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみならず本件著作物全体に及んでいると主張する。


  しかしながら、二次的著作物の著作権が原著作物に新たに付加された創作的部分についてのみ生ずることは、二次的著作物の著作権者が原著作物について著作権を有していることによって影響を受けないと解するのが相当である。


 なぜならば、二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付加されているためであって、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないところ(上記最高裁判決)、我が国において原著作物の著作権について保護期間が満了しておらず、かつ、二次的著作物の著作権者が原著作物の著作権者であるからといって、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分について別個の著作物として保護すべき理由がないという点では、二次的著作物の著作権者が原著作物の著作権者でない場合と何ら異なるところはないからである。


  したがって、キューピーイラストの著作権について我が国における保護期間が満了しておらず、かつ、控訴人がその著作権者であるということは、本件著作権の権利範囲に影響を及ぼさないというべきであり、控訴人の主張は、採用することができない。


(5) また、控訴人は、原審第4回口頭弁論期日において、本件イラスト著作物について著作権の保護を求める著作物として主張する趣旨ではないし、今後もそのような趣旨の主張をするつもりはないと述べているとおり、本件において、上記原著作権に基づく請求をしていない以上、原著作物の著作権について保護期間が満了しておらず、控訴人が原著作権著作権者であるということは、本件訴訟の結論に影響を及ぼさない。


15 したがって、被控訴人イラスト等が本件著作物の複製物又は翻案物であるということはできないから、控訴人の本件著作権に基づく差止め及び廃棄の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。


16 以上のとおり、控訴人の差止め及び廃棄の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がなく、控訴人が当審において追加した著作権確認請求は理由がある。

  よって、本件控訴を棄却し、控訴人の当審で追加した請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文、64条本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 なお、この争点で引用している最高裁判決は、

●『平成4(オ)1443 著作権侵害差止等 著作権 民事訴訟「ポパイ著作権事件」平成9年07月17日 最高裁判所第一小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/B41FEE4CBEB3754249256A8500311DAE.pdf)

 です。