●平成11(ネ)6345 著作権 民事訴訟「キューピー人形事件」(1)

 本日は、昨日取り上げた、『平成20(ワ)3036 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟 平成21年04月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090507160046.pdf)にて引用されていた、『平成11(ネ)6345 著作権 民事訴訟「キューピー人形事件」 平成13年05月30日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/008E710F3B2B7DFB49256A92002770BE.pdf)について取り上げます。


 本件では、色々な争点がありますが、昨日取り合げた東京地裁事件と同様、準拠法についての判断が参考になるかと思います。

 つまり、東京高裁(第13民事部 裁判長裁判官 篠原勝美、裁判官 石原直樹、裁判官 長沢幸男)は、


『 8 本件著作権の控訴人に対する譲渡について

(1) 相続人が、その相続に係る不動産持分について、第三者に対してした処分に権利移転の効果が生ずるかどうかという問題に適用されるべき法律は、法例10条2項により、その原因である事実の完成した当時における目的物の所在地法であって、相続の準拠法ではないことは、判例とするところであるから(最高裁平成6年3月8日第三小法廷判決・民集48巻3号835頁)、本件著作権の譲渡は、アメリカ合衆国国民であり同国ミズーリ州において死亡した亡ローズ・オニールの相続財産の処分ではあるけれども、本件著作権の譲渡について適用されるべき準拠法は、相続の準拠法として同州法とされるべきでないことは、上記判例の趣旨からも明らかである。


  そして、著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては、譲渡の原因関係である契約等の債権行為と、目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し、それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。


(2)まず、著作権の譲渡の原因である債権行為に適用されるべき準拠法について判断する。いわゆる国際仲裁における仲裁契約の成立及び効力については、法例7条1項により、第一次的には当事者の意思に従ってその準拠法が定められるべきものと解するのが相当であり、仲裁契約中で上記準拠法について明示の合意がされていない場合であっても、主たる契約の内容その他諸般の事情に照らし、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、これによるべきものとされている(最高裁平成9年9月4日第一小法廷判決・民集51巻8号3657頁)。


 著作権移転の原因行為である譲渡契約の成立及び効力について適用されるべき準拠法は、法律行為の準拠法一般について規定する法例7条1項により、第一次的には当事者の意思に従うべきところ、著作権譲渡契約中でその準拠法について明示の合意がされていない場合であっても、契約の内容、当事者、目的物その他諸般の事情に照らし、当事者による黙示の準拠法の合意があると認められるときには、これによるべきである。


 控訴人の主張する本件著作権の譲渡契約は、アメリカ合衆国ミズーリ州法に基づいて設立された遺産財団が、我が国国民である控訴人に対し、我が国国内において効力を有する本件著作権を譲渡するというものであるから、同契約中で準拠法について明示の合意がされたことが明らかでない本件においては、我が国の法令を準拠法とする旨の黙示の合意が成立したものと推認するのが相当である。


(2)証拠によれば、以下の事実が認められる。


 本件著作権は、ローズ・オニールの死後、同人の遺産を管理する遺産財団に承継され、ミズーリ州タニー郡巡回裁判所により、ポール・オニールが遺産財団管財人に選任された。ポール・オニールは、1964年3月18日、同裁判所の命令を受けて任務を終了したものの、1997年7月14日、ローズ・オニールの新たな財産が発見されたとして、デビッド・オニールから同裁判所に対し遺産財団管財人選任の申立てがされ、同裁判所は、同月15日、デビッド・オニールを遺産財団管財人に選任した(甲4、5)。


 控訴人は、平成10年5月1日、遺産財団から、本件著作権を含むローズ・オニールが創作したすべてのキューピー作品に係る我が国著作権等を、頭金として15,000アメリカドル、ランニング・ロイヤリティとしてキューピー製品及び物品に係る控訴人自身の純収入の2%を支払うほか、キューピー作品に関して第三者から受領した金額の2分の1を対価として支払う旨の約定により譲り受けた(甲105)。


 被控訴人は、控訴人が本件著作権等の対価を当審口頭弁論終結日まで明らかにしなかったことを理由に控訴人主張の譲渡が虚構である旨主張し、確かに、この点に係る控訴人の訴訟遂行は問題なしとしないが、このことから直ちに、上記著作権譲渡契約の存在を否定することはできず、他に上記の認定を左右するに足りる証拠はない。


 したがって、控訴人と遺産財団とは、本件著作権について、上記譲渡契約を有効に締結したということができる。


(4) 次に、著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法について判断する。


 一般に、物権の内容、効力、得喪の要件等は、目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ、法例10条は、その趣旨に基づくものであるが、その理由は、物権が物の直接的利用に関する権利であり、第三者に対する排他的効力を有することから、そのような権利関係については、目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり、権利の目的の達成及び第三者の利益保護という要請に最も適合することにあると解される。


 著作権は、その権利の内容及び効力がこれを保護する国(以下「保護国」という。)の法令によって定められ、また、著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから、物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由により、著作権という物権類似の支配関係の変動については、保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である


 そうすると、本件著作権の物権類似の支配関係の変動については、保護国である我が国の法令が準拠法となるから、著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとされている我が国の法令の下においては、上記の本件著作権譲渡契約が締結されたことにより、本件著作権は遺産財団から控訴人に移転したものというべきである。』


 と判示されました。


 明日に続きます。